怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー

英雄も事件が無ければただの人21


 完全オフの日である今日この頃。
 世間じゃモンスターの報告件数がかなり増え、民間人にも遂に被害者が出た。被害者は意外にも東京都で奥多摩という所でキャンプをしていた若者グループの一人がゴブリンを発見、通報した。
 被害者はどうやら他の人が避難する時間を稼ぐ為に近くにあった木の棒を持ってゴブリンに挑み反撃され転倒、足を怪我したそうだがその後他の数人も手を貸してゴブリンを追い返すことに成功したそうだ。
 ニュースではモザイクを掛けられた状態ではあるが怪我を負った若者が英雄の様に祭り上げられていた。SNSでも称賛の嵐でゴブリンに対しての危険度が疑問視されている。これが今の世間の有様でクソみたいなメディアが一段と政府叩きを繰り返す。こんな報道の仕方をすれば民間人のゴブリンへの脅威度は低下し、ますます被害者は増えるのは目に見えている。

「若者がゴブリンを撃退……ゴブリンやダンジョン対策に対する政府の怠慢……か」

 認識のズレというのは恐ろしいものだ、政府はというよりか安相総理はゴブリンやダンジョンに対しての脅威度を正確にとまではいかなくともメディアや民間人よりかは遥かに理解し認識して対応しようとしているのがわかる。けれど民間人、特に若者の間で今回の騒動がきっかけでゴブリンに対する認識の甘さが露わになったのは間違いないだろう。

「立ち向かう勇気と無謀を履き違えないと良いけど……ゴブリンの本当の怖さは<数>そのものだって事が分かってないんだから仕方ないのかもしれないけど……ゲームとかアニメとか漫画に多少詳しい人が周りに居ればゴブリンの本当の脅威に気付けるんだろうけど……未だにオタク文化は世の中にはあんまり浸透してないからなぁ……オタクだったらゴブリンの脅威度は分かってしかるべきだろうし、メディアにもっとオタクを出して解説させたり予想させてみたりすれば良いのに……」

 勇気ある若者がゴブリンに立ち向かい撃退したというのは一見美談のようだが、その本質は全く逆だ。発見、報告までは正しい行動だとは思う、けれど他の人を逃がす為に立ち向かうというのは無謀で、蛮勇でしかない。ゴブリンの足は特段早いというわけでは無いし力も成人男性程度のものでしかない、ならば立ち向かうよりかは逃げるだけで良かった筈だ。今回は偶々単独行動していたゴブリンだから良かったものの複数で行動していたゴブリンであったならば、数の暴力によって被害はもっと増えていただろう。未だダンジョンが制御出来ていないはぐれゴブリンしか発見されていないから起こった事ではあるが、この先無謀な若者や勘違いした人がダンジョンに乗り込みダンジョン内で死亡でもすれば人類側が不利になるのは明らかだ。

「もう少しだ……もう少しで英雄が世に解き放たれる。そうなればダンジョンの脅威やモンスターの脅威も世間に知らせる事が出来る。そこからが人類側の反撃のターンになる……それまでは耐えるしかない」

 日本は今、浮足立っている。
 間違った希望を見せられた事で。


 ☆ ☆ ☆


 完全オフである今日は今までやれていなかった所謂、積みゲーの消化に当てる。
 午前中一杯は本気を出したので、午後からはまったりゲーム三昧なのだ。
 千尋に追いつかれそうだったレベルも少しだけ差を広げるに至ったので問題は無いだろう。

「そういえば……レベル上限ってあるのか?」
 疑問があれば知っていそうな人に聞くのが早いだろうと、ベルに念話で聞いてみる事にした。

『ベルー』

『はいはいベルです!どうしました、マスター?』

『レベルって上限あるのかなって思って』

『上限は基本的に無い筈ですが……モンスターであれば一定の条件を満たせば存在進化が可能になり、存在進化すればレベルはリセットされますよ!ちなみに英美里は下級屍鬼、中級屍鬼、上級屍鬼、下級吸血鬼、中級吸血鬼、上級吸血鬼、を経てそこから特殊条件を満たした一部の上級吸血鬼が存在進化を遂げたユニーク個体ですよ!生成にはとてつもないコストが必要だったのも今やもう良い思い出ですね!英美里は可愛くて、気が利いて、家事も完璧、名前も……ナマエ……』
『そうか!ありがとう!ちなみに人間も存在進化したりするのか?』
 不穏な空気を察したので話題を無理やり変える、ベルなりの冗談だというのは理解しているが俺の心は毎回受け止められる程、丈夫に出来ていない。

『人間ですか……それはちょっと分かりませんね。エルフであればハイエルフやエルダーエルフといった存在進化先があるのは分かっていますが、人間に関する情報は極端に不足しているのが現状です。なのでレベルがもっと上がればマスターも存在進化が出来るかもしれませんよ!』

『そっか……ありがとう!千尋と純にも存在進化の事は伝えておいてくれ。じゃあな!』

『はい!マスター!』

 念話を終えて暫し考える。

「存在進化か……英美里がユニーク個体というのにも驚きだが……ハイエルフ!見てみたい!リーダー!頑張れ!」

 ハイエルフとエルダーエルフという未知のエルフが居る事を知ってしまった。
 是非ともエルフルズには存在進化をしてもらいたいものだ、もしかしたら褐色肌のダークエルフも居るかもしれないので期待感は高まるばかりだ。

「いや、待てよ……メイドラキュラというユニーク個体が居るならエルフにもユニーク個体が存在している筈だ!だったら!巷で噂の<エロフ>も居るのでは無いか?うぉおおおお!高まるぅぅぅぅ!リーダーには是非ともエロフに進化して貰いたいものだな!」

 職業無職の結婚前の成人男性が実家の部屋で妄想を垂れ流して興奮する姿というのは客観的にどのような目で見られるのか。その事に自分で気付くまで俺の妄想は続いた。


 ☆ ☆ ☆


 勢いに任せて未来の子供になる可能性を潰してしまう前に冷静になり、大人しく積みゲー消化を無事に再開する事が出来た俺は夕食も食べ終えて再び積みゲー消化をしていた。

「今日も一人でおねんねさぁ……結婚前で同棲もしているのにぃ……けど寂しいとは言わないぃ……男の意地があるからぁ……はぁ、寝よう……」

 適当に歌を歌いながら積みゲーをしていたのだが、急に寂しくなりゲームを辞めて、布団に入る。

 嫁達は夜遅くまでレベリングと模擬戦をしていたようで、今までに見たことが無いほどに疲れ切っていた。
 レベルが上がって体力も増強されているにも関わらず、あの疲労加減は異常だ。
 夕食時に聞いた話ではベルに稽古を付けて貰ったらしいのだが、アリンコ対人間程の実力差があるらしい。
 打倒英美里に燃える千尋。互いの実力差は少しづつではあるが埋まってきているらしいので、千尋が本格的にダンジョン攻略に挑む日も近いだろう。
 純は対戦相手であるリーダーに師事されていて、こちらも着実に強くなっては居るらしいが、名付けされたリーダーの実力は以前とは比べものにならない程に上がっているらしく、こちらはまだ余裕がありそうなのだがエルフと同等の魔力操作を身に着けるのも時間の問題だろう。


 それと今日まで道場関係の諸々を調整していて来れていなかった、義理の父母になる予定の一馬さんと雅さんも明日から朝稽古に来るらしいので明日からまた忙しくなりそうだ。

「流石に一馬さんには負けられないよなぁ……」
 レベル差が有るので万が一にも負ける事は無いと思うが、あの脳筋ゴリラである一馬さんならいつかは追い抜かれると思うので今の内に勝利を収めておきたい。
























「実は雅さんの方が強かったりして……まぁそれは流石に無いか」
 明日の朝稽古に備えて早めに就寝した。




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