怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー

英雄も事件が無ければただの人14


 罪悪感や後悔が無いと言えば嘘になるだろう、でもそれ以上に幸福感の方が大きい。男としての意地、矜持、本懐とでも言えば良いだろうか、家族の中心としての役目を十全に満たしているような錯覚すら覚えているというのは現代日本人としては些か常軌を逸していると言われても反論のしようが無いのも事実としては間違ってはいない。
 益体も無い事を考えながら微睡に身を任せていると、愛おしい人の隣でゆっくりと夢の世界へと旅立っていった。


 ☆ ☆ ☆


 目を覚まして隣を見やれば純がまだ寝ているという事実に少しだけ安心しながら起こさないように注意して風呂場へと向かう。
 比べる事はあまり良い事では無いと思いつつも昨夜の事を思い出し、もう一人の嫁との事を思い返す。
 自分の体がレベルアップの恩恵によって強化されている事は分かってはいたが、今までの比較対象が千尋しか居なかったのでどこかでまだ人間の領域に収まっていると思っていた。
 けれど昨夜、純と自分の体の性能の差があまりにも開いている事に気付いた。自分の体はもはや常人のそれとは基本性能が著しく異なっているらしい。
 純と俺のレベル差はかなり開いている、俺が昨日の時点でLV40なのに対して純はLV20。レベル差は20も開いているので肉体的な性能も大きく違っていた。

「純には少し悪い事しちゃったかな……」
 シャワーで体を洗い流して朝の支度を終わらせていき、そのまま部屋へと戻る。

 昨夜の疲労がまだ抜けきっていないのか、純は布団の中でまだ眠っていた。

「にしても……俺の体も大概やばいな……千尋とはレベル差があんまり無かったから違和感とか何も感じなかったけど、冷静に考えると頭の可笑しくなった猿と何ら変わりがないぞ俺……」

 部屋のデスクチェアに腰掛けながら自分の体に起きている変化に戸惑っていると、布団がもぞもぞと動き始めた。
 純も起きたようで布団で体を隠しながら上半身だけ起こして、俺の方へと振り向いた。

「おはよう!朝っぱらから私と千尋ちゃんを比較するのはあんまり感心出来ないねぇ!」
 起き抜けだというのに普段と変わらないテンションで俺が呟いた事に関して言及してくる。

「おはよう。ごめんな」
「くふふ!本気で気にしている訳じゃ無いから、素直に謝られても困ってしまうよ!比較するのは当然だろうし!……それにしても私も精進が足りていなかったよ、レベル差でここまで身体の性能に違いがあるとは予想外だったよ。これからはなるべく差が広がらないように私もより一層レベリングに力を注ぐとしよう!」

 布団で体を隠しながら器用に力こぶを作り、今後のレベリングへの意気込みを語る姿はとても可愛らしい。

「無理のない程度にやってくれれば良いからな?」
 あんまり頑張られるとその分俺も頑張らなければならないのでそれは少し困るのだ。

「まぁ千尋ちゃんの足を引っ張らない程度には頑張るよ!私も未来の英雄を支えるパーティーメンバーの一人だからね!」

「ありがとう」
「くふふふ!じゃあ私はシャワーを浴びてくるから、少しだけ後ろを向いていてくれるかい?」
「りょーかい」
 言われるままに反対側を向いてパソコンの画面を見つめ、手元のマウスを使って超常現象対策本部のサイトへとアクセスした。


 ☆ ☆ ☆

 
 軽く血超常現象対策本部のサイトをチェックしていくが、ダンジョンに関する有力な情報は無さそうだった。
 サイトに載せられている情報と言えば精々がダンジョン内で行方不明になった人達の捜索状況と一般人が投稿しているモンスターの発見報告のまとめぐらいだ。
 発見報告の真偽もまだ定かでは無いが、情報を鵜呑みにするのであればダンジョンの数は都道府県に一つ以上は有るだろう。
 現在日本政府が正式に発表しているのは変わらず、北海道、岩手、群馬、岐阜、島根、徳島、世界で最初に発見された宮崎のままだ。しかし一般人のモンスター目撃情報だけで見れば、既に都道府県の半数以上でモンスターが発見されている事になる。
 自衛隊だけではもうキャパオーバーなのは明白だ。
 自衛隊を調査派遣出来ないでいる場所に関しては、地元の警察官を動員しているのが現状らしい。
 現に俺達が住んでいる県でも目撃情報があった場所に地元の警察官が派遣されており、発見報告のあった場所の周囲を封鎖し、監視している。

「これは思った以上に展開が早い気がする……しかしダンジョン攻略者は未だに俺以外居ないというのはなぁ……雲隠れしている可能性もあるにはあるんだろうけどな……」


 ダンジョン攻略者に与えられる恩恵というのは凄まじい。
 この情報だけでとんでもない額のお金が動く事は間違いないので例え攻略した人が俺以外に居たとしても、だんまりを決め込んでいる可能性は大いにある。


「何見てんの?」

 身支度を整えた純が俺の顔の横から覗き込むようにパソコンの画面を見てくる。

「ダンジョンの情報だよ」

「ふーん、それより朝ごはん食べに行こうよ!」
 さして興味が無かったのか頭を引っ込めて朝食へと誘ってきた。
「じゃあ今日も朝飯食って、レベリングに行くとしますか!」
「おー!」


 ☆ ☆ ☆


 暇だ。
 朝の日課をこなしてしまうと途端に暇になる。
 でも午前中以外は何もしたく無い。
 午後はやりたい事しかしたく無い。
 やらないといけない事があれば当然やるのだが、今の所予定は何も無い。

「嫁は毎日夜まで働いて、旦那は午後から暇してる……最高の生活だな!槍術スキルと魔力操作スキル取ったおかげでレベリングも効率が上がったしなぁ」

 順調過ぎて恐くなる。

『マスター!』

『なんだぁ?』
 ベルから念話が来た。

『ダンジョンの株分けが明日には出来そうですよ!ちーちゃんと純にゃんの為に増設したランダムスライムスポナーのおかげです!どうしますか?明日ちーちゃんにダンジョン攻略者になって貰いますか?それとも予定通り<冒険者協会>が正式に設立してからにしますか?』

『早いに越した事は無いから、明日出来るなら明日やっちまおう』

 悩むことなど何も無い。
 当初の目的が予定よりも早く行えるのであれば早く行った方が良いに決まっている。特に他のダンジョンが活発化している兆候があるのだから、今回のちーちゃん最強計画も少しでも早く進めておきたい。

『はい!マスター!それじゃあ、ちーちゃんと純にゃんにも伝えておきますね!』

『頼む』

『お任せくださいマスター!それと、今夜は私の番で良かったんですよね?不肖ベルがマスターのお相手を務めさせて頂きますね!では!』

『俺は許可してないからな!』

 念話が切れた。
 ベルの言ってる事が冗談なのか本気なのかが良く分からない。
 けれどこの問題に関しては俺とベルだけではもう解決出来ない、俺には嫁が二人も居るのだ。二人に何の断りも無く出来る事では無い。

「俺の気持ちとしてはどうなんだろう……」

 ベルは俺の相棒だ。
 あいつが居るから俺はこうして自由に過ごす事が出来る。
 好きか嫌いかで言えば間違いなく大好きだ。
 見た目も俺の理想と言っても過言では無い。
 性格は多少残念な所もあるが、完璧過ぎる仕事ぶりを考えれば可愛さでしかない。
 抱きたいかと問われればどうだろうか。
 相棒でも家族でもあり、時にはマスコットのようでもある。特にご飯を食べている時のベルは最高にアホ可愛い。
 確実に知能指数が低下している。
 そんなベルを俺は抱けるのか。
















 


「抱きたいに決まってるんだよなぁ……」
 男は狼では無く猿なのだ。





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