怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧
英雄も事件が無ければただの人8
昔話に花を咲かせながら千尋とおばさんと共におじさんが戻ってくるのを待った。
暫くしておじさんが目を赤くさせたまま居間へと戻ってきた。
きっと親父とお袋と色々な事を話したのだろう。
「悪いな!」
おじさんもおばさんの隣の席に着いた。
俺の左隣には千尋が居て俺の正面にはおじさんが居る。
俺は軽く居住まいを正して真っ直ぐにおじさんの目を見つめながら口を開いた。
「おじさん、おばさん。今日ここへ二人を招待したのは俺と千尋から報告する事が出来たからです」
誠実に嘘偽りなく真実を詳らかにしようとしたが、おじさんが待ったを掛けるように手を突き出してきたので、まずはおじさんの話を聞こうと軽く頷いた。
「すまんが俺から話をさせて貰うぞ。一応軽く千尋からは説明はされたよ、婚約の事と妾が居る事もな。正直な話をすれば、いくら親友の息子であるとはいえ娘の旦那に妾が居るという事は今の時代では考えられない事だとは思うし、普通の親としては反対するべき事ではある。だがまぁ……俺の爺さんにも妾と呼べる人は居たし、甲斐性があって娘が幸せなら俺は後は当人達次第だと思ってる。それに俺としては千尋には拓美と結婚して貰いたいとずっと思っていた。結婚に関しては俺から何かを言うつもりは無いという事は覚えておいてくれ」
「ありがとうございます!」
予め千尋がおじさんとおばさんを説得してくれていたんだと思う。結婚自体は認めてくれるようで安心はしたが、まだ俺からは何も言えて無いので改めて俺の口から伝えよう。
「そうそう!私も別に反対なんてしないわ!……大体が佐々木の人間ですから、妾の一人二人じゃ何も思わないわよ!ねぇ?一馬さん?……偉そうにお爺様がどうのこうの言ってましたけどこの人にも現地妻の何人か居る事は知っているわ。千尋の弟や妹が何処に何人居るのかなんて私は直接は教えて貰ってませんけど、門下生の中にも何人かは居たんじゃないかと私は思ってるわよ?この人不器用だから、態度で丸わかりなのよねぇ!ふふっ!……千尋?正妻は自分だという事を忘れてはいけませんよ?正妻ということは家庭内の安寧と平穏を守るだけの責任と余裕が無ければ到底務まらないし、お家を守るのも貴方の仕事ですからね?何かあったらこの母に相談なさい?……あなたの母は意外と強かで経験も豊富だという事を覚えておきなさいね」
おばさんから衝撃のカミングアウトを受けた千尋だったが動揺や驚きも見せなかった。
「それぐらい分かってるわ、佐々木の家を守ってきたのは誰でも無いお母さんだって事も楓と誠が私の妹と弟だって事も含めてね……大体道場で気付いて無いのはまこちゃんぐらいだったしね」
まさか楓と誠の二人が千尋の兄弟だとは思っても居なかった、確かに言われてみればあの二人はおじさんにかなり可愛がられていた記憶がある。元気にしているのだろうかあの二人は。
結構な事を暴露されたおじさんは何とも思って無いのか普段と何ら変わった様子が無い、バレている事は分かっていたんだろうか。
「……えぇと、今更こんな話をするべきなのかとも思いますが、男のケジメとして言わせて頂きます!……娘さんと結婚する許可を下さい!お願いします!」
机の横に移動しておじさんとおばさんに見える場所で正座したまま頭を下げた。
「勿論だ」
「おめでとう!良かったわね!千尋!」
「ありがとうございます!」
やっと言えた。
これで後は役所に婚姻届けを提出したら俺と千尋は晴れて正式に夫婦となる。
頭を上げると、千尋とおばさんは泣いていた。
おじさんは天井に顔を向けて目を閉じていた。
親父、お袋、美奈、俺も遂に結婚するぞ。
無事結婚の許可も貰う事が出来たので<怠惰ダンジョン>と<怠惰>について一馬さんと雅さんに説明した。
☆ ☆ ☆
「……という事になってて、それで<冒険者協会>という一般社団法人を設立してるんだけど……佐々木家の力を借りたいんだ。どうか力を貸してくださいお願いします!」
全ての事を話した上で一馬さんと雅さんに<冒険者協会>設立の話をして協力を仰いだ。
「……力は貸すことは出来るが、条件を1つだけ出しても良いか?すまんが、メリットが無ければそう簡単に力を貸せる程佐々木家の名は安くは無いからな……」
「私はこの人に全て任せます」
一馬さんからは交換条件を雅さんからは特に無し。
「交換条件はなんですか?」
無理難題を言ってくる人では無いと分かっては居るのだが、歴戦の戦士を思わせる一馬さんの風格に少し気圧されそうになる。
「条件は……俺と雅のレベルアップだ」
そんな事かと胸を撫でおろす。
「それなら大丈夫。元からこの話をした時点で一馬さんと雅さんのレベルアップもする予定だったし」
レベルアップについてはどのみちしてもらう予定だったのだ、義理の両親には身を守る術を手にして欲しいから。
「そうか!すまんな!新婚だというのにいきなり義理の親と生活するのは少し気まずいかもしれんが!よろしくな!がっはははははは!」
「なん……だと?」
「あらあら?じゃあ急いで必要な荷物だけでも持ってこないと!」
どうやらこの二人我が家に住むつもりらしい。
道場はどうするつもりなのか甚だ疑問だし、嫁の両親には悪いが邪魔だ。折角の新婚生活なのに邪魔者が居ると色々とアレだ、だが俺から言うのはちょっと気まずい。
「ちょっと待って!悪いんだけど、この家に住まわせるつもりは無いから!」
流石は千尋、俺が言いにくい事も言ってくれる。
千尋に便乗して援護したいところだが、ここはひとまず千尋に孤軍奮闘して貰おう。
「あら、どうして?ここに一緒に住んだ方が効率も良いし、安全よね?」
雅さんが俺に同意を求めるように話を振ってきた、それはずるいと思う。
嫁の母親に真っ向から対峙出来る程俺は強く無いので、ここは曖昧に濁しておくしかない。
「いやぁ……まぁ千尋次第っすかねぇ」
横目で千尋を見ると鬼のような顔で俺を睨みつけていた。
仕方がないので千尋に念話する。
『勘弁してくれ、援護したくても出来ないんだ。ここで俺が義理の両親と対立関係になれば色々とマズイ事ぐらい分かってくれよ』
『面倒臭いだけでしょ!このままじゃホントにここへ引っ越してくるわよ?それでも良いの?純先輩が可哀そうな事になるよ?』
『いや、それは駄目だ!どうにか出来ないか?』
『まこちゃんが一言言えば済む話でしょ?』
『いや、そうだけどさぁ……』
『わかった、やれるだけはやるから』
「さっきから黙ってどうしたのかしら?もしかして……嫌なのかしら?」
またも俺に話を振ってきた。
この話を断れば<冒険者協会>の今後にも関わる話でもあるし、俺が断り辛いと分かったうえで俺に話を振っているのだ。
まさか雅さんがこんなにも厄介な人だとは思ってもみなかった、長年佐々木家を守りつづけたのは伊達じゃない。
「嫌と言いますか……ねぇ?」
『千尋助けて!』
情けなくも千尋に助けを求めた、こちらは頼みを聞いてもらう側なので強くは出られない。
「だから!住むなって言ってるの!」
千尋と雅さん親子による舌戦が開幕した。
☆ ☆ ☆
あれから千尋と雅さんは舌戦をかれこれ数十分は繰り広げているだろうか、俺と一馬さんはもはや蚊帳の外で二人して無言で舌戦の行方を見守っていた。
千尋は色々と理由を付けて一緒に住めないの一点張り。
雅さんは言われた事に対しての解決策や妥協案を提示し続けて同居しても問題は無い事を訥々と語り、千尋が出す問題をのらりくらりと躱し続けている。
お互いが主張を曲げず、話は平行線のままだったが遂に千尋がお手上げなのか、両手を上に挙げた。
「はぁ……そんなにこの家に住もうとするホントの理由を聞かせて」
千尋が溜息を吐いてから降参するように雅さんに質問を投げ掛けた。
何か拘る理由があるのだろうか。
「私はこの人がここに住みたいと言うから手伝っただけよ?千尋?こういう場合はね、攻める相手を間違えては駄目よ?今回の場合だと、いくら私を説得しようとしても無駄なの。私がここに住みたい訳では無いし、私なら千尋が提示する問題点の解決策や妥協案をいくらでも出すことが出来るわ。私の真意が分かっていれば説得する相手が私じゃないってわかった筈よ?もう少し頑張りましょうね!」
俺にはなんの事だか良く分からないが、千尋には雅さんの言いたい事が理解出来たのか納得したように数度頷いていた。
「つまりお母さんの勝利条件を叶えてあげれば良かったって事よね?」
「そうね!良く出来ました!」
「つまりどういう事?」
分からない事は素直に聞く。
これが世の中を上手く生きていく上ではもっとも大事だと俺は思うんだ。
「今回のお母さんの勝利条件は、お父さんの意見を通す事よ……お母さん自体は元々ここへ住むつもりなんか無い。けどお父さんがここに住みたいと言ったから、その願いを叶える為に動いているのよ、だから最初からお父さんだけを説得すれば良かったって事よ」
「なるほど?」
実はあんまり理解出来てない。
「だから……お父さん、私は一緒に住みたく無いの。新婚だし、この家には私達以外にも住んでる人が居るし、それも女性ばかりなの。この家には男はまこちゃん以外は必要無いのよ、だから一緒には住めない。分かった?」
「獅子の群れに雄は二匹も不要という事だな!分かった!ここへは家から通うとしよう!」
「これで良いんでしょ?お母さん」
「そうよ!今後こういう面倒な事もあると思うけど、お家を守っていくには柔軟な考えを持って臨機応変に対応出来ないと駄目よ?……今日はこれから純ちゃんのご両親も来るんでしょ?しっかりしなさいね!いくら純ちゃんが頭が良くて、貴方よりも優秀でも正妻は貴方なのよ?これから児玉家を支え、守る義務が貴方にはある事を忘れないようにね?」
「……ありがとう、お母さん、お父さんも」
千尋が徐に立ち上り雅さんに抱き着いた。
雅さんも我が子を優しく抱きしめる。
神々しさすらも感じる親子の抱擁シーンを見て俺も目頭が熱くなる。
どんな思いで感謝の言葉を口にしたのだろう、どんな思いで抱き合っているのだろう。
俺には分からない親子の絆が有る気がした。
「千尋……頑張れよ!」
一馬さんが言いながら千尋と雅さんを抱き締めようと両手を広げながら近づく。
「……いくらお父さんでも夫の前で男に抱かれるのはちょっと無理かな」
素気無く拒否された一馬さんは哀愁が漂っていた。
☆ ☆ ☆
佐々木家の協力を確約して貰う事が出来たので今日話さないといけない事も全て話すことが出来たので、解散する運びとなった。
「じゃあな!明日、道場が終わってからここへ来るからな!」
「また明日来るわ!レベリングのお手伝いお願いね?」
「じゃあ、送ってくるから何かあったら連絡してね」
「また明日!……あぁ気を付けてな」
千尋と千尋の両親を見送り、家の中へ戻る。
「疲れた。でもまさか楓と誠が千尋の腹違いの兄弟だったとはなぁ、おじさんも意外とプレイボーイだったんだな……あの家柄であの顔でお金もあるうえに武芸も出来るってなれば世の女性が放っておかないわな」
「お疲れ様です!マスター!」
「「「お疲れ様です!」」」
「あぁ、ありがとう」
居間へ戻るとコーヒーやお茶菓子は既に片付けられていた。
千尋の両親はなんとか説得できた。
ずるいかもしれないが<怠惰の居城>の効果範囲に入った時点で勝ちを確信していた。
千尋が有る程度説得して、結婚に関しては認めてくれていたので更に勝率は上がっていたんだと思う。
その証拠に二人が居城の効果範囲に入っただけで<怠惰の従者>判定が二人には為されていたのだから。
「もうすぐ純のご両親とご対面か……」
会ったことが無いので不安しかない。
疲れた頭と体を冷やしたい。
「緑茶を一杯くれ、キンキンに冷えたやつ」
4人のメイズにお茶を頼む。
「「「「かしこま!」」」」
リーダーだけ恥ずかしそうにアイドルポーズしてるのがとても可愛かった。
暫くしておじさんが目を赤くさせたまま居間へと戻ってきた。
きっと親父とお袋と色々な事を話したのだろう。
「悪いな!」
おじさんもおばさんの隣の席に着いた。
俺の左隣には千尋が居て俺の正面にはおじさんが居る。
俺は軽く居住まいを正して真っ直ぐにおじさんの目を見つめながら口を開いた。
「おじさん、おばさん。今日ここへ二人を招待したのは俺と千尋から報告する事が出来たからです」
誠実に嘘偽りなく真実を詳らかにしようとしたが、おじさんが待ったを掛けるように手を突き出してきたので、まずはおじさんの話を聞こうと軽く頷いた。
「すまんが俺から話をさせて貰うぞ。一応軽く千尋からは説明はされたよ、婚約の事と妾が居る事もな。正直な話をすれば、いくら親友の息子であるとはいえ娘の旦那に妾が居るという事は今の時代では考えられない事だとは思うし、普通の親としては反対するべき事ではある。だがまぁ……俺の爺さんにも妾と呼べる人は居たし、甲斐性があって娘が幸せなら俺は後は当人達次第だと思ってる。それに俺としては千尋には拓美と結婚して貰いたいとずっと思っていた。結婚に関しては俺から何かを言うつもりは無いという事は覚えておいてくれ」
「ありがとうございます!」
予め千尋がおじさんとおばさんを説得してくれていたんだと思う。結婚自体は認めてくれるようで安心はしたが、まだ俺からは何も言えて無いので改めて俺の口から伝えよう。
「そうそう!私も別に反対なんてしないわ!……大体が佐々木の人間ですから、妾の一人二人じゃ何も思わないわよ!ねぇ?一馬さん?……偉そうにお爺様がどうのこうの言ってましたけどこの人にも現地妻の何人か居る事は知っているわ。千尋の弟や妹が何処に何人居るのかなんて私は直接は教えて貰ってませんけど、門下生の中にも何人かは居たんじゃないかと私は思ってるわよ?この人不器用だから、態度で丸わかりなのよねぇ!ふふっ!……千尋?正妻は自分だという事を忘れてはいけませんよ?正妻ということは家庭内の安寧と平穏を守るだけの責任と余裕が無ければ到底務まらないし、お家を守るのも貴方の仕事ですからね?何かあったらこの母に相談なさい?……あなたの母は意外と強かで経験も豊富だという事を覚えておきなさいね」
おばさんから衝撃のカミングアウトを受けた千尋だったが動揺や驚きも見せなかった。
「それぐらい分かってるわ、佐々木の家を守ってきたのは誰でも無いお母さんだって事も楓と誠が私の妹と弟だって事も含めてね……大体道場で気付いて無いのはまこちゃんぐらいだったしね」
まさか楓と誠の二人が千尋の兄弟だとは思っても居なかった、確かに言われてみればあの二人はおじさんにかなり可愛がられていた記憶がある。元気にしているのだろうかあの二人は。
結構な事を暴露されたおじさんは何とも思って無いのか普段と何ら変わった様子が無い、バレている事は分かっていたんだろうか。
「……えぇと、今更こんな話をするべきなのかとも思いますが、男のケジメとして言わせて頂きます!……娘さんと結婚する許可を下さい!お願いします!」
机の横に移動しておじさんとおばさんに見える場所で正座したまま頭を下げた。
「勿論だ」
「おめでとう!良かったわね!千尋!」
「ありがとうございます!」
やっと言えた。
これで後は役所に婚姻届けを提出したら俺と千尋は晴れて正式に夫婦となる。
頭を上げると、千尋とおばさんは泣いていた。
おじさんは天井に顔を向けて目を閉じていた。
親父、お袋、美奈、俺も遂に結婚するぞ。
無事結婚の許可も貰う事が出来たので<怠惰ダンジョン>と<怠惰>について一馬さんと雅さんに説明した。
☆ ☆ ☆
「……という事になってて、それで<冒険者協会>という一般社団法人を設立してるんだけど……佐々木家の力を借りたいんだ。どうか力を貸してくださいお願いします!」
全ての事を話した上で一馬さんと雅さんに<冒険者協会>設立の話をして協力を仰いだ。
「……力は貸すことは出来るが、条件を1つだけ出しても良いか?すまんが、メリットが無ければそう簡単に力を貸せる程佐々木家の名は安くは無いからな……」
「私はこの人に全て任せます」
一馬さんからは交換条件を雅さんからは特に無し。
「交換条件はなんですか?」
無理難題を言ってくる人では無いと分かっては居るのだが、歴戦の戦士を思わせる一馬さんの風格に少し気圧されそうになる。
「条件は……俺と雅のレベルアップだ」
そんな事かと胸を撫でおろす。
「それなら大丈夫。元からこの話をした時点で一馬さんと雅さんのレベルアップもする予定だったし」
レベルアップについてはどのみちしてもらう予定だったのだ、義理の両親には身を守る術を手にして欲しいから。
「そうか!すまんな!新婚だというのにいきなり義理の親と生活するのは少し気まずいかもしれんが!よろしくな!がっはははははは!」
「なん……だと?」
「あらあら?じゃあ急いで必要な荷物だけでも持ってこないと!」
どうやらこの二人我が家に住むつもりらしい。
道場はどうするつもりなのか甚だ疑問だし、嫁の両親には悪いが邪魔だ。折角の新婚生活なのに邪魔者が居ると色々とアレだ、だが俺から言うのはちょっと気まずい。
「ちょっと待って!悪いんだけど、この家に住まわせるつもりは無いから!」
流石は千尋、俺が言いにくい事も言ってくれる。
千尋に便乗して援護したいところだが、ここはひとまず千尋に孤軍奮闘して貰おう。
「あら、どうして?ここに一緒に住んだ方が効率も良いし、安全よね?」
雅さんが俺に同意を求めるように話を振ってきた、それはずるいと思う。
嫁の母親に真っ向から対峙出来る程俺は強く無いので、ここは曖昧に濁しておくしかない。
「いやぁ……まぁ千尋次第っすかねぇ」
横目で千尋を見ると鬼のような顔で俺を睨みつけていた。
仕方がないので千尋に念話する。
『勘弁してくれ、援護したくても出来ないんだ。ここで俺が義理の両親と対立関係になれば色々とマズイ事ぐらい分かってくれよ』
『面倒臭いだけでしょ!このままじゃホントにここへ引っ越してくるわよ?それでも良いの?純先輩が可哀そうな事になるよ?』
『いや、それは駄目だ!どうにか出来ないか?』
『まこちゃんが一言言えば済む話でしょ?』
『いや、そうだけどさぁ……』
『わかった、やれるだけはやるから』
「さっきから黙ってどうしたのかしら?もしかして……嫌なのかしら?」
またも俺に話を振ってきた。
この話を断れば<冒険者協会>の今後にも関わる話でもあるし、俺が断り辛いと分かったうえで俺に話を振っているのだ。
まさか雅さんがこんなにも厄介な人だとは思ってもみなかった、長年佐々木家を守りつづけたのは伊達じゃない。
「嫌と言いますか……ねぇ?」
『千尋助けて!』
情けなくも千尋に助けを求めた、こちらは頼みを聞いてもらう側なので強くは出られない。
「だから!住むなって言ってるの!」
千尋と雅さん親子による舌戦が開幕した。
☆ ☆ ☆
あれから千尋と雅さんは舌戦をかれこれ数十分は繰り広げているだろうか、俺と一馬さんはもはや蚊帳の外で二人して無言で舌戦の行方を見守っていた。
千尋は色々と理由を付けて一緒に住めないの一点張り。
雅さんは言われた事に対しての解決策や妥協案を提示し続けて同居しても問題は無い事を訥々と語り、千尋が出す問題をのらりくらりと躱し続けている。
お互いが主張を曲げず、話は平行線のままだったが遂に千尋がお手上げなのか、両手を上に挙げた。
「はぁ……そんなにこの家に住もうとするホントの理由を聞かせて」
千尋が溜息を吐いてから降参するように雅さんに質問を投げ掛けた。
何か拘る理由があるのだろうか。
「私はこの人がここに住みたいと言うから手伝っただけよ?千尋?こういう場合はね、攻める相手を間違えては駄目よ?今回の場合だと、いくら私を説得しようとしても無駄なの。私がここに住みたい訳では無いし、私なら千尋が提示する問題点の解決策や妥協案をいくらでも出すことが出来るわ。私の真意が分かっていれば説得する相手が私じゃないってわかった筈よ?もう少し頑張りましょうね!」
俺にはなんの事だか良く分からないが、千尋には雅さんの言いたい事が理解出来たのか納得したように数度頷いていた。
「つまりお母さんの勝利条件を叶えてあげれば良かったって事よね?」
「そうね!良く出来ました!」
「つまりどういう事?」
分からない事は素直に聞く。
これが世の中を上手く生きていく上ではもっとも大事だと俺は思うんだ。
「今回のお母さんの勝利条件は、お父さんの意見を通す事よ……お母さん自体は元々ここへ住むつもりなんか無い。けどお父さんがここに住みたいと言ったから、その願いを叶える為に動いているのよ、だから最初からお父さんだけを説得すれば良かったって事よ」
「なるほど?」
実はあんまり理解出来てない。
「だから……お父さん、私は一緒に住みたく無いの。新婚だし、この家には私達以外にも住んでる人が居るし、それも女性ばかりなの。この家には男はまこちゃん以外は必要無いのよ、だから一緒には住めない。分かった?」
「獅子の群れに雄は二匹も不要という事だな!分かった!ここへは家から通うとしよう!」
「これで良いんでしょ?お母さん」
「そうよ!今後こういう面倒な事もあると思うけど、お家を守っていくには柔軟な考えを持って臨機応変に対応出来ないと駄目よ?……今日はこれから純ちゃんのご両親も来るんでしょ?しっかりしなさいね!いくら純ちゃんが頭が良くて、貴方よりも優秀でも正妻は貴方なのよ?これから児玉家を支え、守る義務が貴方にはある事を忘れないようにね?」
「……ありがとう、お母さん、お父さんも」
千尋が徐に立ち上り雅さんに抱き着いた。
雅さんも我が子を優しく抱きしめる。
神々しさすらも感じる親子の抱擁シーンを見て俺も目頭が熱くなる。
どんな思いで感謝の言葉を口にしたのだろう、どんな思いで抱き合っているのだろう。
俺には分からない親子の絆が有る気がした。
「千尋……頑張れよ!」
一馬さんが言いながら千尋と雅さんを抱き締めようと両手を広げながら近づく。
「……いくらお父さんでも夫の前で男に抱かれるのはちょっと無理かな」
素気無く拒否された一馬さんは哀愁が漂っていた。
☆ ☆ ☆
佐々木家の協力を確約して貰う事が出来たので今日話さないといけない事も全て話すことが出来たので、解散する運びとなった。
「じゃあな!明日、道場が終わってからここへ来るからな!」
「また明日来るわ!レベリングのお手伝いお願いね?」
「じゃあ、送ってくるから何かあったら連絡してね」
「また明日!……あぁ気を付けてな」
千尋と千尋の両親を見送り、家の中へ戻る。
「疲れた。でもまさか楓と誠が千尋の腹違いの兄弟だったとはなぁ、おじさんも意外とプレイボーイだったんだな……あの家柄であの顔でお金もあるうえに武芸も出来るってなれば世の女性が放っておかないわな」
「お疲れ様です!マスター!」
「「「お疲れ様です!」」」
「あぁ、ありがとう」
居間へ戻るとコーヒーやお茶菓子は既に片付けられていた。
千尋の両親はなんとか説得できた。
ずるいかもしれないが<怠惰の居城>の効果範囲に入った時点で勝ちを確信していた。
千尋が有る程度説得して、結婚に関しては認めてくれていたので更に勝率は上がっていたんだと思う。
その証拠に二人が居城の効果範囲に入っただけで<怠惰の従者>判定が二人には為されていたのだから。
「もうすぐ純のご両親とご対面か……」
会ったことが無いので不安しかない。
疲れた頭と体を冷やしたい。
「緑茶を一杯くれ、キンキンに冷えたやつ」
4人のメイズにお茶を頼む。
「「「「かしこま!」」」」
リーダーだけ恥ずかしそうにアイドルポーズしてるのがとても可愛かった。
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