怠惰の大罪を背負ったけど何の因果か同時に娯楽神の加護を授かったおかげで働いたら負けの無敵状態になってゲーム三昧

きゅーびー

英雄も事件が無ければただの人3

 俺の部屋の前まで先輩が来てくれたので迎え入れる。
「どうぞ」
「ありがとう!」
「適当に座ってください」

 先輩は部屋に入ると、俺がパソコンデスクの前に置いてあるゲーミングチェアに座っているのを確認してから俺と正対するようにちゃぶ台の席へと着いた。

「それで、わざわざ部屋に呼んでまで相談したい事って何かな?」

 いつものように人当たりの良い、美少女アイドルのような微笑みで俺の目を見つめながら何の用事なのかと聞いてきた。
 この変わってしまった世界で家族を守る為ならば、使えるものは何でも使うつもりでは居るが、躊躇しない訳では無い。
 先輩には迷惑を掛ける事は間違い無い上に先輩の身内にさえも迷惑を掛けてしまうお願いを俺は今からする。
 ゲーミングチェアから降り、先輩の目の前の席に座り直してから浅く息を吸い込み、意を決して口を開く。

「先輩……いきなりで申し訳ないのですが、お願いがあります」

「急に改まってどうしたんだい?」
 真剣な顔をして喋る俺を怪訝な顔で見つめる先輩。
 
「もしかして……婚約破棄?」
 俺が口を開く前に先輩が不安そうに聞いて来た。

「そんな訳無いでしょ!そこまで無責任じゃ無いですよ俺は!……酔った勢いでというのは自分の事ながらかなり無責任な行動だとは思いますが、それだけが理由で純と結婚したいと思った訳じゃ無いし、何よりも俺はずっと純の事が好きだった!振られてからもずっと!」

「そっか……ありがとう!色々あり過ぎて自分でも気づかない内に少々精神が参っていたのかもしれない……はっ!もしやこれが噂に聞くマリッジブルーというものなの?私の予定ではもう少し先の予定だったんだけど……ふふっ!」

 先輩はいつもこうして俺を気遣ってくれたなと、昔を思い出して少し嬉しくなった。
 空気が悪くなってもわざと冗談を言って場を和ませてくれる先輩を俺は心の底から尊敬している。

「ははっ!ありがとうございます先輩」
 気付けば自然とお互い笑い合っていた。

 暫く二人で笑い合い、いよいよ本題を切り出す。

「先輩」
「純って名前で呼んで欲しいし、出来るなら敬語も辞めて欲しいなぁ」
 先輩と呼ぶとそんな風に言われてしまった。
「善処するよ」
「よろしい!……それで本題は何かな?君がわざわざ部屋に呼んだって事から推測するに、私の実家に関係する事だと思うけどね!遠慮なく言って良いよ!これからは夫婦になるんだしね!」

 純は察しが良くて俺的には話がしやすくてとても助かる、基本スペックが本当に高いのだ、いつもの事ながら感心してしまう。
 居住まいを正し、真剣にお願いする。

「じゃあ遠慮なく……とはいえ強制する気は全く無いんで、無理なら無理と言ってください。ふぅ……それでお願いというのが<超常現象対策本部>とは別に、対ダンジョンの民間団体の立ち上げに純の実家にも協力を頼みたいって事なんですけど……まだ具体的には何も決まっていないのでその事についても純に相談したいんだ」

 言ってしまった。
 多少の後悔はある。

「にゃははは!もう!笑わせないでよ!もうもうもう!馬鹿だなー!くふふふふふ!」

 何かツボにハマる事があったのか、ちゃぶ台に何度も手を叩きつけながら爆笑する純を見ているしか出来ない。
 特におかしな事を言ったつもりも無い俺は困惑するしかない。

「いやー!面白い!くふっ!脳内フォルダに永久保存確定だねこれは!くふふふふふ!」

 何がそんなに面白いのか理解出来ないが、このままでは話が進まないので無理やり話を戻す事にした。

「答えは出来るだけ早めに出してくれるとありがたいんだけど……」
「答えは勿論イエス!断る理由が無いからね!……にしてもくふふふ!そんなに大した事でも無いのに、あれこれ悩んでると禿げちゃうよ?くひひっ!真剣な顔して敬語とタメ語がぐちゃぐちゃで、相変わらず君は面白いね!……ふふっ!思い出すと笑いが止まらなくなる……ふふふ!可愛いなぁ!もう!愛してるぜ!旦那様!くふふっ!」

 どうやら真剣な顔して喋り方がおかしかった事がツボにはまったらしい。
 俺からすれば何も面白いとは思わないしその感性には全く共感は出来ないが、嬉しそうに笑う姿が見れたので得した気分になる。

「そんな簡単にイエスって……まぁありがたいけど」

 それから暫くの間、純の笑いが収まるのを待った。


 ☆ ☆ ☆


「ごめんね!もう大丈夫!それじゃあ改めて!民間団体について考えようか!」

 大丈夫と言いつつ口元は上がっており、ニヤけるのを止められていない。
 話が出来ればそれで良いので放っておく。

「ます始めに、民間団体設立をする理由を説明しておく。まぁ端的に言えば<怠惰>のデメリットを発動させないようにアバターでダンジョン攻略をしながらも俺自身と<怠惰>については外部に秘匿する事。それから民間団体の勢力を大きくして影響力と発言力を得て<超常現象対策本部>側から民間団体へと情報提供とダンジョン攻略についての要請をしてもらう事。この二つが主な目的だな」

 真剣な顔つきで俺の話を聞いた純は何かを考えているようで右手を口元に当てながら小刻みに頭を揺らしていた。
 一体何を考えているのかは伺い知れないが、俺なんかよりも頭の良い人だ。
 きっと民間団体について色々と考えてくれているのだろう。


「……少し考えてみて、何とか二択までは絞れたから拓美君の意見も取り入れる為に質問しても良いかい?」

 もう既に何か考え着いたようで、更には二択まで絞り込んだらしい。
 何がかは全く分からないが。
「なんでも聞いてくれ」

「ありがとう!これから先、民間団体として運営していく上で何よりも人を集めるのが重要になるでしょ?そうなると大事になってくるのは一般人に広く民間団体について知ってもらわなくちゃいけないよね?ここまでは大丈夫?」

 優しい声音で、俺でも理解できるように説明が為される。

「大丈夫だ」

「じゃあ続けるね!人を集める為にメディアとかSNSで宣伝活動はするよね?ここで私は迷ってるんだけど……宣伝効果を上げる為には分かりやすい名前というのが必要でしょ?だからその名前を考えてたんだけど……<冒険者協会>と<冒険者ギルド>で迷ってるんだけど……どっちが良いと思う?」

 真剣に話を聞いていた。
 俺の頭だけでは民間団体設立なんて絶対に出来ないとわかっているから。
 俺は俺自身の力量を良く分かっている。
 何が出来て何が出来ないか。
 出来ない事は出来る人に任せる。
 出来る事でも俺以外で出来る人が居るなら任せる。
 それが俺のやり方だった。
 俺自身を一番信用していないからこそ他人に任せる。
 良い事では無いのかもしれない、嫌われるやり方なのかもしれない。
 誰に何を言われようがそのやり方が効率が良いのであれば俺はそうする。
 何よりも俺は努力という行為が嫌いだ。
 頑張るという事が嫌いだ。
 苦労が嫌いだ。
 楽ができるなら楽がしたい。
 誰もが言ってくるのだ「もっと頑張れ」と。
 頑張った所で無理な事もあると知っていながら。
 そんな人たちが嫌いだった。
 世の中は結果が全てだと知っている癖に無駄な事を強要してくる奴らが嫌いだった。
 楽をする事が悪だと決めつける方が悪だろう。
 才能がある人が好きだ。
 努力している人が好きだ。
 頑張っている人が好きだ。
 自分に無い物を持っている人が好きだ。
 だけどそう感じている自分が本当に嫌いだった。
 そんな事を感じている自分という生物がとても醜い化物のような気がしたから。
 人間は醜い生き物だと聞いたことがある。
 その通りかもしれないがそれが全てでは無い。
 醜さの中に美しさを持っている。
 俺はそういう人とずっと一緒だったから。
 醜さと美しさを持っているから人間は人間で居られるのだと思う。
 醜さしかない奴は化物だ。
 美しさしかない奴は偽物だ。
 だから俺は化物だった。
 自分自身に美しい物が何も無かったから。

 でもある時言われた「現実の厳しさを受け入れながらも頑張る人を馬鹿にしないで応援出来る君は美しい心をもってるんだよ」と。
 純粋に嬉しかった。
 褒められ慣れていなかっただけかもしれない。
 ただのお世辞だったかもしれない。
 それでも嬉しかったのだ。
 特に美少女に言われたことが。

 だから言わせて欲しい。
 化物だと思われても構わない。



















「どっちでも良いっす!」
 民間団体の名称が<冒険者協会>になろうが<冒険者ギルド>になろうがどうでも良い。



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