妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい

じゃくまる

第57話 バレンタインって大変だよね

 朝起きてやることといえば、まずは身だしなみを整えること。
 それから『おはよう』と呟くことだ。
 でも今日は少しだけリアルな画像をぱしゃり。
 顔は隠して体とチョコを写して投稿する。
『おはよう、みんな。今日はバレンタイン。ボクもチョコ作ってみたよ』
 さて、反応は後で確認するとして、まずは学校に行かなきゃ。
 こうしてボクはみんなが待つ外へと出た。

「おはようございまーす」
「おはよ~」
「今日バレンタインだよね。誰にあげるの?」
「硬貨チョコ買ったからそれ配るわ」
「マジ? じゃあうちは石チョコにしとこ」
 周りではそんな話がちらほらと漏れ聞こえてくる。
 みんな楽しそうだなぁ。
「そりゃあいつらには大事な時期だからなぁ」
「ふふ。でも輝いて見えるよね」
「バレンタインになるとみんなキラキラしていてかわいい」
「そんなことより寒い」
「ねーむーいー」
 一緒に登校する五人の鬼たちはみんな自由だ。
 バレンタインに興味津々なのは茨木童子と熊童子でそれ以外のメンバーは全く興味がなさそうに見える。
「そんなに浮かれるようなことかなぁ?」
「暮葉にゃわかんねーよ。そーいや朝呟いてただろ?」
「あ、うん。見た?」
「おう。わざわざ妖狐の姿で撮ったのな」
「うん、着替えた後だったからね」
 撮影したときの姿はモコモコのポンチョみたいなのを着ていたので、素手と素足くらいは見えていたかもしれない。
「尻尾丸見えだったからお前のファン、めっちゃ喜んでたぞ?」
「えっ、そうなの!?」
「おうよ。リアルケモミミ少女とかな」
「あぁ見た見た。一般じゃまだ妖種のリアルな姿見たことない人が多いからね」
「結構拡散されてるみたいよ? 確認してないの?」
「ん~? げげ。もう一万超えて拡散されてる!?」
 みんなに言われてスマホを確認してみると、拡散といいねはすでに一万を超えていた。
 普段は通知を切ってるから全然わからなかったよ。
「しっかり確認しとけよな? バズりついでに何か言っておけばよかったのに」
「う~ん。面倒だからいいよ~」
 今朝は朝からいろんなことが起きていて大変だった。

「やー、やっとお昼かぁ。ていうか、鈴。ものすごくチョコもらってない?」
 ボクは酒呑童子こと酒井鈴の机の周りを見て驚いていた。
 結構な量の箱が積み上げられているのだ。
「あぁ、なんかもらった。俺になんか渡すよりほかのやつに渡せばいいのによ」
「鈴でこれなんだから、三奈はもっとすごいんじゃない?」
 茨木童子こと茨木三奈の机をちらりと見るが、そこには箱の一つも存在していない。
 箱はいったいどこに? まさか貰ってないなんてことはないよね?
「おっと、どうしたんだい? 暮葉」
 声のした方を見ると、三奈がこっちを見て立っていた。
 その三奈の腕には抱えられたきれいな箱がたくさんあった。
「あれ? 三奈、それだけ?」
「ん? あぁ。私だけじゃどうにもできないから美和のバッグに入れてきたんだよ」
 金熊童子こと金井美和は食べることが大好きなので、お菓子とかあげると嬉しそうに食べてくれたりする。
 そんな美和の食べ方は小動物みたいな感じの食べ方なのでクラスでも愛らしいと評判だ。
「もしかして机の周りになにもないのって、美和に食べさせちゃってるから?」
 ボクがそう言うと、三奈は困ったような顔をしながら小声で言った。
「内緒だよ?」
「うわぉ」
 耳元でささやかれると、ぞくぞくしてしまう。こそばゆい。
「ふふ。いい声出すね」
「むぅ。三奈、ボクで遊んでない?」
「あれ? バレちゃったか」
「バレちゃったかじゃないよ。まったく」
「いいじゃねえか。三奈も暮葉と絡みたいんだしよ。それよか、あいついいのか?」
「あいつ?」
 鈴が示す方向を見る。そこには扉の向こうからこっちを見るみぃくんの姿があった。
「みぃくん、なにしてんの?」
「おぉ、くれは~」
「うげっ、なになに」
「聞いてくれよ~。今年もチョコ0なんだよ~」
「あ、はい」
 泣きそうな顔をしながらボクにしがみついてこようとするみぃくんを、鈴がガードして阻止する。
 さすがは守るのも得意な鬼だけあるね。
「異世界行って彼女作ってきたんじゃなかったの?」
 みぃくんは以前、ケモミミ少女を求めて異世界へ旅立ったことがある。
 何やら冒険もしたみたいだけど、結局彼女はできなかったと聞いたが……。
「うん、だめだった」
「あ、そうなんだ」
 ごめんみぃくん。その情報とその表情、ちょっと面白い。
「はいはい。市販品でよかったらあげるよ? これで我慢して」
 ボクはそう言うとみぃくんにボールチョコを一粒渡す。
「ぐっ。でも、ないよりはましか……」
 なんか余計にダメージを与えちゃった気がするけど、ごめんよ。
 みぃくんにあげる予定なかったんだよ。
「まぁまぁ、今度はもっといいのあげるからさ。とりあえず彼女作っちゃいなよ」
「だなぁ。まぁがんばれよ、田中」
「ちっくしょおおおおおおお」
 みぃくんはそう言いながら去っていった。
「ふん。まぁいい薬になっただろうぜ。あいつもちゃんとすればそれなりにできるだろうにな」
「鈴、いじわる」
 鈴はみぃくんをいじるのが結構好きだ。
 もういっそ鈴がみぃくんの彼女になったらどうだろうか? いや、無理か。
 みぃくんには鈴を御せる気がしない。
「ところでよ、今日は配信するのか?」
「うん、一応ね。バレンタイン配信。まぁもしかしたら過ぎるかもだけど」
「まぁ今日もなんだかんだで忙しいからな」
 ボクたちがそんな話をしながら歩いていると、誰かが近寄ってくるのが見えた。
「くーれーはーちゃああああん!!」
 その何かはそのままボクに体当たりを仕掛けてきた。
「ふぐぅっ!?」
 そのまま近寄ってきた誰かはボクの鳩尾に突き刺さる。
「くくく。油断しすぎだぜ? 暮葉」
「うぐぐ、り~ん~」
 今回は鈴がガードしなかったということは、敵意のない知り合いということだ。
「暮葉ちゃん! 暮葉ちゃん! すーはーすーはーくんかくんか」
「いや、嗅ぐなし!?」
 この時点でだれか分かった。というか知ってる匂いの子だ。
「杏ちゃん、すとおおおっぷ!!」
「はぁはぁ。残念」
「相変わらずだなぁ。まぁいいか。ほれよ、作ってきたチョコだ。残り二人の分もあるから頼んだぜ?」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあボクも。はい、御津と作ったんだ。食べて食べて」
「ええええええええ!? 暮葉ちゃんと御津ちゃんが……。家宝にしていいですか!?」
「だめです。たべてください」
 ボクがそう言うと、杏ちゃんは少し不満そうにする。
 でも、カビ生える前に食べてほしいんだよ。
「ああぅぅぅ。こんなのをもらってしまうなんて、あたしはなんて幸せ者なんでしょうか。あ、そうだ。今日は暮葉ちゃんの家に泊まりに行っていいでしょうか!?」
「え? あ、うん。いいけど。どうせならラナ・マリンちゃんと昴ちゃんも連れておいでよ」
「あ、そうですね。わかりました!」
 なんか急にお泊りが決まったけど、うちとしては問題ないので残り二人も連れて一緒に来てほしい。
 多いほうが楽しいもんね。
「くくく。まぁそうはうまくいかないよな」
「鈴もそういわないの。こういうこともあるでしょ?」
「もう、鈴も三奈も何言ってんの?」
 ボクたちのやり取りを見て鈴と三奈が何かを言っている、
 何の話をしてるんだか……。
「まぁまぁ。そろそろ残りのメンツもくるだろ? メシの準備しちまおうぜ」
「あ、うん。そうだね」
 こうしてボクたちはお弁当を広げるのだった。
 それからしばらく後、弥生姉様と雫ちゃん達も合流。
 ボクたちはにぎやかなランチタイムへ突入したのだった。
 今日はお泊りもあるので、バレンタイン配信はちょっとすぎちゃうかもね。

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