妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい

じゃくまる

第48話 アマテラス、暴走す

 妖精郷にダンジョンができた。
 おそらく現代では初めてかもしれない。
 まぁ日本には新宿やら梅田やらにダンジョンがあるとの噂なので、それと比べたら劣ることは確実だろうけど。
 ダンジョン作成の発案者は天照大神で、これにはイザナギ様たちもご満悦なご様子。

「で、あーちゃん? バーチャル街ってどうなったの?」
 妖精郷の一事業にバーチャル街を構築するというものがある。
 前にも説明したことだが、作られては消えていくバーチャルキャラクターたちが可愛そうという話から立ち上がったこの計画は、現代には存在しない超高度な技術を用いて行われた。
 電脳世界をゲートを通して現実の一部に繋げて、そこからVRゴーグルなどを通してキャラクターたちに会いに行くという一次計画と、妖精郷バーチャル街地区を新たに創設し、そこにホムンクルス技術を駆使して受肉させたバーチャルキャラクターたちを生活させるという二次計画の二つがあった。
 電脳世界に関してはアクセス方法を考えればいいだけなのでそれほど問題ではないものの、実際に受肉させる場合、キャラクターたちの自由意志などの問題もあって、遅々として進んではいなかったのだ。
「概ね完了、ってところかなぁ。あとの問題点は、外部の人。つまり人間界の人間たちがどうやってキャラクターを手に入れるかということと、どうやって妖精郷での生活を垣間見るか、体験できるかを考えることだけかなぁ」
「ふぅん。人間さんたちもこっちに簡単に来れるようになればいいのにね」
「あはは。それは無理かなぁ。宗教とか価値観とか、それ以前の問題として、あたしたちって間接的にしか関わらないようにしてるじゃない? 神族も妖種も。だから、直接関われるようにできる場所はある程度限定されるべきなの。まぁ昔はこういう場所もなかったから、高天原と人間界の二つしかなくて、妖種は怪異、つまり妖怪として人間界で隠れ暮らすしかなかったっていう事情もあったから、もっと問題は多かったけどね。今はこうして妖精郷を介して関われるようになってきてるけど、あっちとこっちでは文化は似てるけど、色々と違うから絶対混乱が起きる。そうなるとまた昔みたいに、妖怪の討伐なんていう物騒な人間たちが現れると思うの。それを考えるとちょっとね」
 少なくともあーちゃんはボクよりもずっと長く存在している。まぁ身体は小さく胸も平べったいけど。
 おっと、あーちゃんがこっちを見てきた。
 ボクにはまだよくわからないけど、昔はもっといろいろなことがあったんだなと思う。今はある程度認知されていて、仲良く暮らしているともいえなくもないんだろうけど。
「まぁ、無用のトラブルを避けるためにも、人間界で過ごす場合は、人間に変化して暮らすようにって指示はしてるけど」
 このあたりをうっかり守らないと、ボクでも怒られるんだよね。でも部屋では割と妖狐の姿で過ごしているんだけど。
「う〜ん、それじゃあやっぱり向こうの人たちは機器を通して垣間見るしかないってこと?」
 ボクの疑問に答えるようにあーちゃんは頷いた。
「でも、概ね出来上がってるから、初期に申請してくれた子たちの身体は出来てるし、対象者には接続機器と接続パスは伝えてあるわよ」
「おー、仕事が早い!」
「でっしょー? バーチャル街に出て街の様子を配信したりできるわよ」
 小さな胸を張ってあーちゃんがドヤ顔をした。
 これからボクもバーチャル街で配信ができるね。

「それじゃあご褒美をもらっちゃおうかな〜」
「ほ?」
 あーちゃんはそう言うと、ボクを軽々と持ち上げて膝の上に載せた。
「あー、やわらかいわー。ふわっふわだわー」
「ちょっ、勝手に何してるのさ!?」
「大きな仕事終えたんだから、ご褒美をもらおうと思ってね〜。すーはーすーはー」
「撫でるな、吸うなー!!」
 吸うなら猫にしてほしい。ボクのような狐じゃなくて久遠さんみたいな猫でお願いしたい。
「猫吸いならぬ狐吸い! 背徳的!!」
「じゃあ猫吸いなよ? あそこにいるでしょ?」
 そう言ってボクは久遠さんの方を示した。
「猫は猫でも、巨乳美少女を吸ったら犯罪でしょ? それに絵面が悪くない?」
 なら小さくて平たいボクは吸ってもいいというのだろうか?
「吸えないのなら巨乳を打ち倒すのです。なんなら揉み倒せ!」
「そっか。それもそうだよね。ちょっと行ってくるね」
「いってらっしゃーい」
 よし、これでボクは開放されるはずだ。その隙に逃げれば安全。久遠さんには悪いけど生贄になってもらおう。
「さぁいくよ、くーちゃん!」
「は?」
「ごー!」
「ちょっ、ボクは置いてってー!!」
 ボクの計画はもろくも崩れ去った。まさかボクごと久遠さんの元へ行くなんて。
「巨乳、覚悟ー!!」
「ふぇ? あ、アマテラス様!?」
「くーちゃんの助言により、巨乳を揉み倒しにやってきたぞー!」
「!?」
 あーちゃん、恐ろしい子!!
 どうやらあーちゃんはボク諸共自爆しに行くつもりのようだ。
 というか、いい加減に開放してほしいんだけど。
「わ、わわ。弥生ちゃん、助けて!」
「あらら。さすがにアマテラス様が相手では無理かなぁ〜。それはそうと暮葉ちゃんだけでも助けないと」
「弥生ちゃん、薄情!」
「久遠ちゃんも大切だけど、やっぱり暮葉ちゃんのほうが大切だし」
「ふふふ、大人しくしなさい」
「おとなしくもまれるのだー」
 何という茶番か。あーちゃんに合わせてボクも棒読みなセリフを吐いてみた。もうどうにでもなれ。
「あ、ちょ、そんな!?」
「うわっ、なにこれ!? もっちり柔らかくて指が埋まる!?」
「なんかすごい光景で草。久遠さん南無」
「暮葉ちゃん、見てないで助けて〜」
 残念、猫耳巨乳美少女久遠さんはあーちゃんによって胸を揉まれてしまうのでした。
「さ、暮葉ちゃん、今よ」
「あ、ありがとうございます。弥生姉様」
 夢中になって久遠さんの胸を揉み倒しているあーちゃんが油断した隙に、ボクは弥生姉様によって救出された。
 久遠さん、優しくて可愛らしい女性でした。尊い犠牲だなぁ……。

「ところで、アマテラス様とは何のお話してたの?」
 ボクを救出してくれた弥生姉様は、ボクを膝に載せて抱きかかえながらそう問いかけてきた。
「バーチャル街が出来たって言ってました。登録した妖種ならもう見られるみたいですよ?」
 あーちゃんの懸念点は人間側からの接続に関するものだった。
 言い換えれば妖種については特に問題ないということだ。
「そっかー。じゃあ今度行ってみましょうか」
「はい、もちろん行きます」
 弥生姉様とならたとえ火の中水の中、どこにでもお供いたしましょう。
「やめてーたすけてー! あっ、そこだめっ!」
「よいではないか、よいではないか」
 もうあーちゃんは完全に揉むことに夢中になっているようだ。やれやれ。
「弥生姉様、助けないの?」
 あーちゃんによって揉み倒されている久遠さんを眺めつつ、ボクは敬愛する姉様に問いかけてみた。
「んー、私じゃ無理だから、キリのいいところで助けてあげて?」
 むぅ。やっぱりボクがやらないとだめなのか。
「は〜い。あーちゃん、もう終わるよ〜」
「あれ? くーちゃんがいつの間にかいなくなってる!?」
 ボクの呼びかけで正気を取り戻したあーちゃんが、手元を確認しながらそう言った。
 そんな手で持てるほどボクは小さくないよ? あーちゃんはボクの大きさをポケットサイズか何かと勘違いしているんじゃないだろうか。
「ところであーちゃん、妖種はもうバーチャル街には行けるの?」
「うん、妖種は大丈夫よ」
「ありがとー」
 ということで確認も取れたし、そのうちバーチャル街に行ってみようかな。
 ついでに生配信なんかもしたりしてね。
 あ、権利関係ってどうなってるんだろう? 買い上げてるのかな?
 よくわからないので、そのあたりは後で確認してみよう。

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