妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい

じゃくまる

第39話 古本市と創作小説フェアその2

 今ではボクの親友ともいえる宮内杏ちゃん。彼女との出会いは弥生姉様経由だったけど、出会えてよかったと思う。ただまぁ、性癖はアレなんだけどね。
「杏ちゃん、本書いてたんだね」
 ボクがそう言うと杏ちゃんは恥ずかしそうにしながら、ボクに自作の本を手渡してくれた。ただこの本、ボクとの妄想を綴った物のようで、読むには勇気がいると思う。
「まぁ二次創作とかそういったものについてはボクは構わないからいいんだけど、これ、売れてるの?」
「えへへ。はい。実は結構売れてまして、現在は二巻まで出してるんです。一応出す前に弥生様と天都様に許可取りましたから問題はないんですけど、挿絵あるじゃないですか。それ、葵様が無償で書いてくださってるんですよね」
「まさか、家族で協力していたなんて……」
 どうやらボクが知らない間に布教活動的なものが進んでいたらしい。本の帯には金色の文字で『公認』と印字されている。

「でもさ、何で文章を書くことにしたの?」
 これはボクがちょっと聞きたかったことだった。何しろボクが認識している限りでは、配信が終わると必ず長文の配信感想文が送られてくる。その内容というのが、何々が良かった、可愛かった、○○が最高でした。といった肯定的な文章だけなのだ。そして最後に記載されるのが、狐白信徒No.0という謎の文字列だった。ちなみに今回の本にも裏表紙にそれがこっそり記載されていて、ちょっとだけびっくりした。
「実はあたしが運営しているWebサイトがありまして、あっ、狐の拠り所というサイトなんですけど、最近そこで一番かわいい妖狐を決めようという話しが出てきたんですよ」
「はぁ。そうなんだ?」
「はい。それでアンケートを取ってみたところ、子狐小毬票が六割、あと三割が弥生様、残り一割が色々な名前が記載されるという結果でした」
「へ、へぇ~」
 ボクは杏ちゃんの話を聞きながら若干引いていた。なぜなら、一番かわいい妖狐は弥生姉様以外はありえないはずで、でもそれを言いふらすことには意味なんてないと思っていたからだ。それなのに、さも当然のように投票しちゃう杏ちゃんとみんなの行動力に若干の怖さすら感じていた。
「で、ですね。その一割の何パーセントかに真白狐白の名前がありまして。これはいけない、もっと布教しなければ! と思ったわけなんです。でもただ単に布教するための文章を書くなら動画でも十分です。ならいっそ、あたし自信が感じている魅力全てを文章にして想いをぶつけてやれ! って思ったんですよ。なのでこうして書いちゃいました」
 やってやりました! と言わんばかりににっこり微笑みながらそう言う杏ちゃん。ボクから言わせれば、恐ろしい子である。まぁ認知度が低いのには理由がある。エゴサとかサボっているし、もっと人気のあるコンテンツに全振りしていないというのも原因だと思う。特によくあるシチュエーションを使ったセリフなんかは恥ずかしくて言えたものじゃない。
「う、う~ん。知らないなら知らないでいいんじゃないかとも思うんだけど、杏ちゃん的にはダメ……なんだよね?」
「ダメに決まってます! あたしの大好きで大切な人を一番にしたいんです!!」
「お、おう」
 若干大きめの声でスペースの机から身を乗り出してそう言う杏ちゃんの勢いに、ボクは若干気圧されてしまった。杏ちゃんの言葉は嬉しいんだけど、さすがに目の前でいわれると照れるというものだ。

「とりあえずよくわかったよ。杏ちゃんの気持ちも、今やりたいこともね」
 興奮気味の杏ちゃんを落ちつけさせ、ボクは杏ちゃんにそう言った。
「で、ボクはどうすればいいと思う? 何かやりたいこととかやってほしいことはある? コラボは少し予定考えなきゃいけないけど」
「売り子をお願いします!!」
「んん??」
 杏ちゃんの求めるボク像はわからないけど、杏ちゃんにそう言ったらなぜか売り子をお願いされてしまった。しかもノータイムでだ。それはもう脊髄反射ともいえるレベルで。
「ええっと……。ボク、売り子したことないんだけど」
「大丈夫です! その尊さだけでオールオッケーです!」
「あ、はい」
 ボクは杏ちゃんの勢いに負けて売り子を引き受けることになってしまった。正直、人が多いところは苦手なんだよねぇ。
「あ、暮葉様。このまま動画の冒頭部分だけ撮影しちゃってもいいですか? リアル撮影ではありますけど、Vと見た目も声も同じなので」
 どうやら杏ちゃんはこの流れでツーショット動画を作成したいようだ。問題があるかないかでいえば問題はない。けど、はっきり言って恥ずかしい。現実とVがごっちゃになってしまいそうなので、ファンの人たちには申し訳ないと思うけど、お互いの元が妖精郷での姿なので、違和感なくできてしまうのだ。これがコスプレとかだったら違和感を感じたかもしれないけどね。

「じゃあ撮りま~す。は~い、お兄ちゃんたちお姉ちゃんたち~、こんこま~! 子狐小毬だよっ。今日は妖精郷で創作小説フェアの会場に来てま~す。なんと、真白狐白ちゃんも一緒で~す。ぎゅ~」
「あうあうあう。皆さんこんにちわ~、真白狐白だよ~。今小毬ちゃんにくっ付かれているのではがそうと必死です。は~な~れ~て~」
「や~です♪」
「ぐぬぅ。仕方ない。今日はボクたちは同じ会場に来てるわけなんですけど、肖像権とかいろいろあるので周りは映せません。悪しからず。妖精郷ではボクたちは結構見慣れたものなので、何かやってるときは遠くから見守られたりしています。今もなんですけど。ところで周りにいる警備スタッフさん、いつから来たのかな?」
「あ、それはですね~。最初に申請しておくんですよ。妖精郷出身のVtuberって結構いて、こういったところでもちょくちょく見かけることがあるんです。なので、事前にそう申請しておくと警備が付くようになるんです。狐白ちゃんの周りにもいたの気が付きませんでしたか?」
「あ、そういえばいたかも。入り口で申請書みたいなのを強制的に書かされたりもしたし」
「です! 安全委配慮したり配信開始とかした場合に対応できるようになっているんです。あ、でも無許可撮影や配信は怒られますから、ちゃんと申請しましょうね」
 こうしてにこにこ笑顔のまま、杏ちゃんによる子狐小毬としての撮影が始まったのだった。

「そういえば、一部のVtuberの方からもっと絡みやすくなる配信方法ない? って聞かれたんですよね。あたしたち妖種はこうやって妖精郷からできますけど、人間の方は見た目とのギャップあって大変じゃないですか」
「あぁ~、うん。そうだよね~。でも安心してください。実はもうすぐ、実験的にですけどバーチャル街が登場します。ここでは実際に登録されたVの方が、同じVの方と直接並んで同じ場所で配信することができるようになります。テスト公開はボクがやるので楽しみにしていてくださいね。今までよりもずっとコラボ配信がしやすくなりますよ。例えばパーティーゲームも、みんなで集まってできますし、お鍋なんかも一緒に食べられちゃいます。同棲配信みたいなのも可能なので、エッチな方面の事でなければどんと来いといった感じです」
「へぇ~、すごいですね~。あ、ちなみにあたしも参加しま~す。ラナ・マリンちゃんたちも来るのでよろしくぅ~」

 こうして、ちょくちょく重大発表を交えつつ、撮影は順調に進んでいったのだった。ちなみに、先ほど出会った人狼のお姉さんも特別出演し本の宣伝をしたりもした。本人はすっごくガッチガチだったけど、精神安定剤代わりのボク抱き枕を使用して、無事に乗り切ったことだけは報告しておこう。

 ~後日~

「なんか小説系人狼Vtuberが増えたらしいぜ」
「えっ?」
 ボクは学校で酒吞童子からそんな情報を聞かされた。
「なんでも暮葉たちの放送に出たのが原因らしいぜ」
「あわわわわ」
 ボクの知らないところで人狼のお姉さんにファンが付いた。

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