妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい

じゃくまる

第32話 転移前には説明を。説明は重要事項です!

 すべての授業が終わった後、ボクはみぃくんを案内するために先に理事長室に来ていた。ここでやるべきことは単純。この先にはポータルと呼ばれるものがあり、それを介して特定の世界へと遊びに行けるようになっているのだ。いわゆる『異世界転移』というものなわけだけど、外部の世界には危険もあるためある程度身を守れる品物を渡す必要がある。それと細やかな規則の説明などもあるわけだけど、要点だけまとめてさくっと終わらせるつもりだ。

「暮葉ちゃん、来たようじゃぞ」
「ありがとうございます、ぬらりひょんさん」
 この学園の理事長であるぬらりひょんさんはみんなの前では別の名前を名乗っている。一般の人にぬらりひょんとか言っても分かるわけもないし、妖種だということがばれても面倒なのでそのように通しているようだ。一応妖種がいることはそれとなく知られてはいるものの、やはり広く認知されているわけではないので、怖がられないようにするためにも必要なことなのだ。
「失礼します。ここに暮葉が来ているって聞いたのですが」
「あぁおるよ。お入り」
「やっほー。まってたよ、みぃくん」
「あ、それともう一人いるのですが……」
 みぃくんは扉の外を一回見ると、申し訳なさそうにそう言ってきた。
「もう一人連れてくるかもしれんとは聞いておるからのぅ。気にせず共に入ってきなさい」
「はい、失礼します」
「し、失礼します!」
 みぃくんと共に緊張気味に入ってきたのはひょろっとした眼鏡の男子だった。おそらく例の友達だろう。ボク自身はちゃんと見たことはないので、いるということを知っているだけだったりする。

「さて、それじゃあ候補者のお二人さんにはこれからのことを説明するね。あ、注意事項だけど、学業を疎かにした場合資格はく奪するので覚えておいて。それと開放は放課後及び土日祝日、それと長期休暇のみなのでご理解よろしくお願いします。大学に行ったらその限りじゃないけど」
 真っ先に言わなければいけないことを二人に説明する。というのも、ここの管理はボクが任されているのだ。前に「管理をしてほしい」と、そう言われたときに断ったことがあるけど、ここはボクが管理しなければいけないと強く言われたことがある。なんでも、この先の運営はお父様がしていたらしいので、ボクじゃなければできないことがあるらしい。
「わかったよ」
「あ、はい。わかりました」
 二人は基本的な注意事項を理解してくれたようで素直に返事をしてくれた。

「それと今から支給するデバイスは通信装置としても使えるけど、アイテムを収納するインベントリ機能とアイテムを合成する合成機能が付いてるから向こうで重宝すると思うよ。でもこっちでは一切使えないから注意してね」
 そう言ってボクは二人にスマートホン型のデバイスを渡す。スマホの形はしているけどスマホではない。どちらかというと通話もできるタブレットPCというのが正しい。ちなみにOSは一般に普及していない特殊なものが使われている。
「それと、最初にたどり着く場所はこの世界とそう変わりません。まぁちょっと技術が進んでると思うけど、そこは気にしないように。ボクはまだ行ったことがないので、どんなところかはちょっとわからないので具体的な説明はできません。気になるなら紹介映像があるから、それを見ていくといいかもです」
 紹介映像はあちら側の世界や種族、システムについてを簡単に紹介したものとなっていて、住んでいる種族や各種ルールやおすすめの保険、登録サービスなどが挙げられている。現在、あちらの世界に住んでいる種族は人間種、妖精種、獣人種、天使族、悪魔族、精霊族、それと妖種で、一定のルールの下で皆仲良く暮らしている。技術レベルはこの世界より一つ二つほど上で、少しSFチックかもしれない。なお、魔物のようなものは基本的にいないが、その場所からいけるポータルの先には中世程度の文明レベルを持った世界が広がっていて、そこには魔物が生息しているらしい。

 最初に到着した人がやることといえば、まずは各種登録が挙げられる。これは安全かつ快適に過ごすための住民登録のようなものらしく、登録すれば各種サービスや緊急事態に対する支援も受けられるようになるそうだ。

「へぇ~、すごいんだな。にしても本当に本当に異世界じゃん! でもちょっとだけ未来っぽい感じか?」
 映像を見ながらみぃくんは興奮気味にそんな感想を口にした。実際『未来っぽい』という言葉は間違っていない。
「エルフっていう種族はいないんですね。となると妖精種あたりですかね?」
 名前をまだ知らない眼鏡君は映像を見つつ、エルフの分類について考えているようだ。
「エルフやダークエルフは属性が違う『妖精種』ですね。ちなみにドワーフやオークも同じですよ」
「へぇ~。というかオークもいるんですね」
 眼鏡君の疑問に答えつつボクはふとゲートとなるポータルに目を向けた。
 すると――。

「やっぱり向こうは面白いね~」
「わかるわかる」
「ほれほれ、二人とも。今は普通科の子が来てるのじゃから、そのような恰好でいるでない」
 どうやら向こうから誰かが帰って来たようだった。ぬらりひょんさんが咎めるような話し方をしていることから特別総合クラスの子だと思われる。
「あわわ、誰でしょうか?」
「あ、暮葉だ」
「ん? 黒奈と……誰だっけ?」
「あわわわわ、暮葉様!? えっとえっと、私は『暁夏希(あかつきなつき)』と言います」
「あ、うん。よろしく。ところで黒奈と暁さんは向こうから帰って来たんだよね? 耳消えてないよ?」
 ボクは二人の頭を交互に見比べながら両手を頭の上で耳のようにぴょこぴょこ動かして、耳が残っていることを伝えた。
 黒奈はボクの言葉を聞くとすぐに自身の頭の上に手を置き「セーフ」と言い、暁さんは自身の頭の上に耳があったのに気が付くと「あわわわわ」と言いながら急いで消していた。

「暁さんは猫又族?」
 ボクは二人に近づき周囲には聞こえないように問いかけた。特に今映像視聴中の二人には気が付かれないように注意しながらだ。
「そうです、黒奈ちゃんとは幼馴染なんです」
「黒奈にも歴史あり。暮葉のお付きというのも自慢だけど、夏希の友達というのもそれなりに自慢」
 若干胸を張りながらそう話す黒奈。どうやらちょっと変わった経歴を持っている子のようだ。
「ちなみにどんな事を?」
 黒奈の言い方が少し気になったボクは、暁さんに問いかける。
「ここだけの話ですけど、Vtuberをやってるんです。今回はVR的異世界配信ってことで、あちら側を少し」
「へぇ~。良かったらあとで教えてよ。どこに所属してるのかもね」
「はい! 名前は『猫村七海』です。灰色髪が特徴的な猫娘やってます」
 暁さんは黒奈よりも大きな胸を張り『えっへん』と言わんばかりにそう教えてくれた。ちなみに今の暁さんの髪色は茶色なんだけどね。
「今は茶色い髪ですけど、妖化すると灰色になるんです」
「そうなんだ。やっぱりみんな自分の姿に似せて作るんだね。それにしても黒奈に友達がいたとは思わなかったよ」
 ボクは普段の黒奈を完全に理解しているわけではないので、こういった完全プライベートな時の姿をあまり知らない。なので、なんだか新鮮な気分だったりする。
「黒奈ちゃんは行動するときは元気で、それ以外は眠そうにしていますね。昔からそうなんですけど、興味のない事柄には本当に動かない子というか……」
「わかる」
 暁さんの言葉に思わず同意してしまった。
「二人ともひどい。でも夏希と遊ぶ時間もそれなりに多いけど、暮葉の近くにいる時間のほうが圧倒的に多いからなかなか分からないかもしれない」
 どうやら黒奈はどこに行っても黒奈であることに変わりはないようだ。ちょっとだけ安心かな。
「それはそうと、普通科の方があちらへ行きたいだなんて珍しいですね。何かに影響されたのでしょうか」
 暁さんはそう言うと、映像視聴中の二人がいる方向を手で指し示す。
「まぁボクの昔馴染みとその友達なんだけど、どうもケモミミやエルフの子が好きらしくて、異世界へ行って探しに行きたいんだってさ」
「最近そういう人増えてるみたいですね。でも、実際に行けるわけでもないから皆さん我慢しているようですけど」
「そうだね。でもそんなにケモミミやエルフがいいものなのかな?」
 最近はそういう需要が多いことは聞いているし知っている。でもそんなに良いものなのだろうか? と同時に思ったりもする。
「どうでしょうね。ないものに憧れているのかもしれませんね。そうでなくとも私たちは毛繕いとかするので、それで満たしているのかもしれませんけど」
「毛繕いかぁ」
 ボクは暁さんの言葉を聞いて、普段の行動を振り返ってみた。すると、何もしていない暇なときは、妖化して尻尾のブラッシングをしていることが多いことに気が付く。
「たしかにそうかもね」
「私もそうだった」
「黒奈ちゃんの毛繕いは私も手伝ってますからね」
「それもそうだった」
 ボクが行動を振り返ると同時に二人も同じように振り返っていたようだ。と同時に毛繕いをお互いでしている姿を想像してほっこりする。

「暮葉~、観終わったぞ~」
 ボクたちが話していると、映像を視聴していたみぃくんの声が聞こえてきた。
「は~い。じゃあ最後の案内するからちょっとまっててね」
 ボクはみぃくんに聞こえるようにそう言うと、猫又二人の方を向いた。
「じゃあ今度放送観に行くから、黒奈経由でもいいから教えてね? ちょっとだけお仕事してくるよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
「がんば」
 二人に声をかけながら見送られる。新しい友達が増えたことも嬉しいけど、まだ知らないVtuber仲間を見つけられたことも嬉しかった。
「暁さんの異世界放送、どんな感じなんだろう。楽しみだな~」
 そんなことを思いながらワクワクしつつ、ボクはみぃくんたちに最後の説明をしに行くのだった。

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品