妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい

じゃくまる

第3話 まさかの放送事故

ボクの学校生活というのは平凡なもので、クラスに着くと皆に挨拶をすることから始まる。
そして男子が話しかけてこようものなら酒吞童子がそれとなく遮る。
クラスの女子が来る場合は遮ることはなく、一緒に混じって話をしたりするということを繰り返していた。
役目に忠実ともいえるけど、この場合は報酬のお酒が目的なだけだったりする。
この鬼はお酒に弱いのだ。

「なぁ酒井に金井に星野に熊谷、それと茨木。どうしてお前たちは俺たちが夕霧に話しかけようとすると阻止するんだ?」
と、ある時とある男子が酒吞たちに問いかけたエピソードがある。
その際はこんなやり取りがあった。

「暮葉はこう見えて人見知りなんだ。怯えさせないためにも俺たちが守ってあげてるだけだから気にするな。暮葉が話したいっていうなら別だけどな。どうする? 暮葉」
「ん~、別に」
「てわけだ。あんまり無理強いすると嫌われるぞ」
こうして男子たちは引き下がっていったのだ。
まぁ話しかけられても答えることもできないし、どう話していいかわからないから助かるんだけど。
ちなみに酒吞たちは人間が一緒にいる場所では名前を変えている。
酒吞童子は『酒井鈴』で茨木童子は『茨木三奈』、熊童子は『熊谷加奈』で金熊童子は『金井美和』、そして星熊童子は『星野真央』だ。
両面宿儺ことスクナは『少名水樹』と名乗っている。
とまぁ、これが大体のボクの日常ってわけだ。

「ふぃ~、ただいま~」
学校というのはなんでこうも疲れるのだろう。
今日はゲーム配信がしたいので、友達の誘いを断りつつそそくさと酒吞たちと一緒に帰ってきた。
今のボクは完全消耗状態だ。

「あぁ~、もふもふがほしい。でもうちでは飼えない。癒しはいずこ~」
仕方ないので部屋にある狐のぬいぐるみをもふることにする。
「あぁ~、もふもふがしみわたるんじゃ~」
完全消耗状態のボクは服を脱いで部屋着に着替えるとすぐに人化を解いて妖狐の形態となり狐のぬいぐるみにダイブした。
これこそがボクが完全なる癒しを求めるときの体勢である。

「あぁ~、素晴らしいもふもふ感だよぉ」
ふわもふな狐のぬいぐるみに顔を埋めていると、ボクの尻尾がそれに呼応してかパタパタと激しく振られているのが分かる。

「自分の尻尾を自分でもふっても感動は半減なんだよね。姉様たちの尻尾をもふってもいいけど、いきなりやると怒られるし……」
妖狐には妖狐の悩みがあるのだ。
まぁ毛並みに関しては例え姉様であっても負けるつもりはないけど。

「でも、妖狐が妖狐のキャラクターで配信してるなんてこと、だ~れも思わないよね~」
世の中のvtuberのうち、何割くらいが本物なのか、きっと考えたこともないだろう。
少なくとも人間の世界にはケモ耳自体が存在しないわけで、それはファンタジーという想像の世界の中でのみ語り継がれているだけに留まる。
実は案外近くにいるということを彼らは知らないのだ。
もちろん教える気はないけどね。

「でもそうは言っても、やっぱり他所の妖狐系vtuberはかわいいからしゅき」
なんだかんだ言いはするものの、結局ボクもvtuberが好きなただのオタクなのだ。
そして妖狐系に限らず、かわいいものは好き。

そして夜――。

「真白狐白のまったりゲームチャンネル~!!」
昨日ぶりの配信を開始したのだった。

「は~い、皆元気かな~? 真白狐白だよ~! 今日は少し元気めでいくよ~」
配信時のテンションはその時の気分次第だ。
なのでだる~いときもあれば今みたいに元気な時もある。
来てくれる人は受け入れてくれているようなので、安心してその日のテンションで配信することが出来るので非常に助かっている。

『狐白ちゃん今日は元気だな』
『元気な狐白ちゃんもかわいいゾ』
『こんばんわ~』
『わこつです~』

事前に告知したおかげか、今日の視聴者は2000人もいた。
ボクの平均は1000から1300人程度なので今日は多いほうだ。
もっとも、人気な配信者であればその数はもっと上を行くことだろう。

『狐白ちゃん、スパチャいつ解禁するん? だいぶ前に収益化通ってたって言ってたけど』
「あ~、スパチャかぁ。う~ん、まだいいかな~とか思ってたんですよね。人気配信者ってわけでもないですし」

『いやいや、結構人気あると思うよ?』
『もっと宣伝したりコラボすれば結構伸びると思うけどな~』
『狐白ちゃんは基本的に自己評価が低いからナ』

スパチャ設定は現在オフのままだ。
収益化が通ったおかげでボクいは少なくない金額が入っているが、それでもまだ投げ銭ともいえるスパチャをもらう勇気はなかった。
期待値に対してのリターンを提供できる自信がないのだ。
弥生姉様はすでに結構なファンがいてよくスパチャを投げられているのを見るけど、その見返りに癒しややってほしいことのリクエストに応えたりしている。
こんな気ままに配信しているぐーたらなチャンネルではもらっていいのか悩んでしまうのだ。

『真白凛音:狐白ちゃん、どんどんもらいなさ~い。お姉ちゃん、もらってくれると嬉しいと思ってるんだよ~?』
『うおっ、山吹凛音だ』
『ばっかお前、もう真白凛音に変更したって言ってただろ?』
『つか、真白真白ってことはやっぱり関係者?』
『言ってたじゃん、妹が真白狐白だってよ』
『マジか! 俺たちはあの凛音姉の妹ちゃんのファンだったとは! 燃えてきたぜ! いや、萌えてきただな!』
急にコメントが盛り上がってきたと思ったら、弥生姉様が降臨していたようだ。
いつの間に嗅ぎつけてきたんだろう?

「姉様、いつのまに……」
『真白凛音:うふふ、お姉ちゃん狐白ちゃんのファンだからね~。
今そっち行くね~』
「えっ? 今って?」
ボクがそう問いかけるが、姉様からの反応はなかった。
代わりに、ノック後に扉が開かれ、弥生姉様が入ってきたのだ。

「ちょ、姉様! そっち行くって物理的に!?」
「うふふ、そうよ~? というわけでこっそりひっそりオフコラボしちゃいましょ? はい、狐白ちゃんはここね」
マイク前の椅子に弥生姉様が座りその膝の上をぽんぽんと叩いている。
つまりボクにここに座れと言っているのだ。

「うへぇ、これ恥ずかしいよ~……」
「い~の。狐白ちゃんは私の可愛い可愛い妹なんだから定位置は私のお膝の上よ?」
マイクには姉様の声も入っているため、コメントは大盛り上がりを見せていた。

『真白狐白と真白凛音のゲリラ姉妹オフコラボ、イン膝の上』
『ここにキマシタワーを建てよう』
『おう、建設資金投げさせろやあああ』
『リアル姉妹てぇてぇ』
『ここがもふもふ教の聖地か』

言いたい放題のコメントにボクは思わず突っ込みを入れてしまう。
「君ら自由かっ! まったく、配信予定が狂っちゃうよ~」
「ごめんなさい、狐白ちゃん。嫌だった?」
「あ、いえ、そうじゃないです。座ります! 座りますから泣かないで!」

最愛の姉であり推しでもある弥生姉様にの泣き顔には勝てなかったよ。
ボクはすべてを諦めてそのお膝の上に座った。

「うん。はい、じゃあぎゅ~」
「うぐぐ、恥ずかしい……」
後ろから抱きすくめられた形になるボク。
姉様は実に幸せそうにボクの髪の匂いを嗅いでいた。
てか、嗅がないでほしいんですけど……。

『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
『てぇてぇ』
うぅ、もういっそ殺してほしいくらい恥ずかしい。

「はい、え~っと。ちょっと恥ずかしいですけど、ゲーム配信していきますよ。今日はあの有名なオープンワールドのRPGです。バニラではそれなりにやったので今日はMODを入れてますよ。可愛いフォロワーとか入れちゃいました! では開始~」
ボクが始めたのはリアルな描写が人気の某RPGだ。
殺伐とした汚い感じの、それでいてリアルな世界観のゲームで、主人公はドラゴンと関わりながら色々な冒険をしていくというものだ。
とはいってもドラゴンに出会うのは最初だけで、そのあとはイベントを起こさない限りドラゴンに出会うことはない。
そんな世界には様々な種族がいるわけだが、皆基本的に顔がゲフンゲフン。
なので、可愛らしいフォロワーたちをMODで追加して華を添えようとボクは思ったのだ。

『あ~、これか! 故郷に帰ってきた気分だ』
『蜂蜜酒蜂蜜酒』
『フォロワー何入れたんだろう?』
『さて狐白ちゃんはどんなスタイルでプレイするのかな?』

コメントを見る限り皆も知っているようでよかった。
それなりに古いゲームだけど今も人気は衰えていない不朽の名作だ。

ゲームはオープニングイベントが終わった後の最寄りの村から始めた。
いったんカメラを回して自キャラを皆に見せる。
するとすぐに反応が返ってきた。

「はい、これがうちの子で~す。どうかな?」
『うおおお、かわえええ』
『美化MOD搭載済みか、これは良いキャラクリエイト』
『こんな子と旅をしたい人生だった』
『この子と旅したけどいい人生だったぞ』
『旅したニキは成仏しないで苦しんでくれ』
『鬼畜かな?』

コメントの盛り上がりを見ながらボクはキャラクターを操っていく。
まずは導入したMODのフォロワーを勧誘を完了させると、適当に付近を探索することにした。

『ほぉ、これは可愛いフォロワー』
『あ~、この子か! 俺のお気に入り!』
『あれ? うちの嫁が何でこんなところにいるんだ?』
『お前の嫁なら俺の隣で寝てるぞ』
『マジかよ、俺の隣で寝てるのがお前だったとは』
『すまない、ホ〇は帰ってくれないか?』

「あはは。この子可愛いよね~。ボクも一目で気に入っちゃった」
「うんうん、可愛い」
どうやら姉様も気に入った様子だ。

「ところでここからどうするのかな?」
「え~っと、まず近くの遺跡を探索してみようかな~って」
「もう結構やったの?」
「ううん、まだですよ? 街道うろついて山賊ぐさ~ってやってただけです」
弥生姉様はこの手のゲームをやったことがないようで、興味津々な様子でボクに聞いてきた。
ボクもそんなにやっているわけではないので詳しくはないけど、遺跡とか面白いものが多いらしい。

「じゃあさっそく遺跡に入ってみようかな」

『ワクワク』
『さて、狐白ちゃんはどこまで耐えられるかな?』
『楽しみだね~』
なんだかコメントがすごく不穏なんですけど……。

遺跡に入る前に敵が近くにいたため、戦闘態勢に入るボクとフォロワーの女の子。
山道を先陣切って駆け抜けていった。
ボクは出遅れたものの、剣を抜いて先行したフォロワーを追いかける。

しかしそこで問題が発生した。

「狐白ちゃん大変!」
「どうしたんですか? 姉様」
「あの女の子、はいてないわ」
急に焦った声を出した姉様にボクは問いかけた。
が、同時にコメントも慌ただしくなっていた。

『はいてない……だと!?』
『マジかよ、あのフォロワーはいてないのか』
『丸見え!? BANされちゃう!』
『狐白ちゃん、気づいて!!』
えぇ? はいてない? なにを?
コメントの指摘に対してボクは困惑していた。
しかしそれでも確認しないわけにはいかない。
なので前で戦っているフォロワーの女の子をじっくりと観察してみた。
戦闘するたびに激しく動く体とスカート。
その奥には丁寧に描写された肌色。

「あああああああああ!? はいてない!? なんで!?」
大変不本意な放送事故が起きてしまったのだ。
確認不足だった。完全に。
まさか戦闘時に着替える服にそんな落とし穴があるとは思いもよらなかったのだ。

「あわわわあ、ど、どうしよう!?」
慌てるボクに視聴者から助言が入る。

『それ倒したら服着替えさせればOK』
ボクはそのコメントの指示通り、敵を蹂躙して満足そうな顔で戻ってくるフォロワーの女の子の服を回収した服にすることで緊急事態を回避したのだった。

気を付けよう、MODのフォロワーとその服のこと。

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