妖狐な少女は気ままにバーチャルゲーム配信がしたい

じゃくまる

第1話 真白狐白のまったりゲームチャンネル

「んふふ~、やっぱり帰ってきたら動物動画を観るに限りますな~」
ボクは布団に潜り込みながら携帯端末でお気に入りの狐動画を見ながらにやにやしていた。
やはりこのモフっとした太めの尻尾と愛らしい顔、ピンと立った耳に愛らしさを感じる。
イヌ科でありながらネコ目に分類されるこの動物の動き回る様はいつ見ても愛らしく、ボクの心を捉えて離さない。
とはいえ、野生の狐と触れ合うことは寄生虫と蚤の危険があるので避けたほうがいい。
かといって、狐を飼育している施設やショップに行くのは地味に面倒で気分が乗らない。

「はぁ、どこかに寄生虫も蚤もいない可愛い狐いたりしないかな~」
ボクはそんなことをつぶやくが、そんな都合のいい生き物がいるわけもなかった。
悲しいけど諦めよう。うん。

暮葉くれはちゃんお休み中?」
「うにゅ?」
ふと部屋の入り口から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「あ、弥生やよい姉様」
部屋の入り口にはボクの二番目の姉様がいた。どうやらボクに用事があるようで部屋の中を覗いている。
そういえば学校から帰ってきてからすぐに着替えて布団に潜り込んだため部屋の扉は開けっ放しだったっけ。

「弥生姉様どうしたの? ボクに用事?」
ボクの家の上から二番目の姉様である夕霧弥生ゆうぎりやよい
こげ茶色の髪の毛を腰まで伸ばしたボクと似た顔立ちをしている、美少女だ。
実際サイズの違いを除けば双子のように見えるだろう。
まぁ似ていると言っても雰囲気は違うので、優しい姉に比べればボクのグレードはかなり落ちることだろう。
そんな弥生姉様は個人勢としてVtuberをしている。
基本的にかわいいものが好きな弥生姉様は、イラストが上手な一番上のあおい姉様とモデリングが上手な宗親むねちか兄様にキャラクターを作成してもらって自由に動かしては楽しんでいた。
その後どうしてかはわからないが、いきなり個人勢のvtuberとしてデビューを果たした。
ただ同時期に、弥生姉様の幼馴染の女子三人もデビューしていたので前々から何かしら計画していたのかもしれない。
ちなみにだが、弥生姉様のキャラクターは金髪のロングヘアがきれいな淑やか令嬢といった感じの妖狐の少女だ。控えめに言ってとても可愛らしい。
キャラクター名は『山吹凛音やまぶきりんね』といい、凛音りんねねえもしくは凛音りんね姉と呼ばれている。

「暮葉ちゃん、この前は放送来てくれてありがとう。暮葉ちゃんが来てくれていると思うと嬉しくてしかたなかったの」
少しもじもじしながら可愛らしくそう話す弥生姉様。
現在のボクの推しの一人でもある。

「また行くから放送するときは教えてね? 弥生姉様自身も大好きだけど弥生姉様たちの掛け合いは楽しくて好き」
放送中の弥生姉様の動きは実際の動きと同じなので、恥ずかしい時はキャラクター姿でも可愛らしい動きをしてくれるのだ。
まぁこれを知っているのは弥生姉様関係者だけなので、身近な者の特権と言えるだろう。

「ふふ、私も暮葉ちゃん大好き。ところで暮葉ちゃんも私とペアを組んで姉妹vtuberとしてやらない?」
「ん~、今しばらくは良いかな~と思っている。前に出るの得意じゃないし」
弥生姉様のいうボクの配信用キャラクターは青銀色の毛をした妖狐の少女だ。
身長はボクと同じく140センチ前後と小学生くらいの大きさしかない。
腰まで伸ばした長い髪の毛がよく似合っていると思う。
ちなみに服装はいくつかあり、小袖バージョンのほか所謂巫女服と言われるバージョンと大正風女袴も存在する。
デフォルトは薄い桃色の小袖だ。
製作は葵姉様と宗親兄様で、本人たちも推してくれている逸品だ。
ボクをモデルにしているだけあって、ボクに非常にそっくりにできている。

「まぁでも友達もやりたいっていえば考えるかもね。でも今はただの孤独なゲーム実況配信者でいいよ。人に多く来られても恥ずかしいし……」
コミュ障というほどではないけれど、ボクは結構な人見知りだ。
なので積極的に人前に出ることは基本的に拒否している。
配信用キャラクターを使っているときはなんとなく楽しい気分なので多少はマシになっているけどね。

「でも可愛い妹のために宣伝くらいはしたいと思うの。宣伝してもいい?」
少し申し訳なさそうにしつつも弥生姉様はボクにそう許可を求めてきた。
個人的には構わないけど、変な人が増えても困るしなぁ……。

「ん~、いいけど、こっちに来てがっかりしても責任は取れないからね?」
仕方なしにボクは許可を出す。

「うん、ありがとう~。でも暮葉ちゃん可愛いからすぐ登録者増えちゃうと思うよ?」
「うぅ~……」
ボク自身はバーチャルキャラクターを使用してのゲーム実況者だと思っているけど、やっていることはvtuberと変わらないよね。
実際何度もツッコまれているし。


真白狐白ましろこはくのまったりゲームチャンネル』

「こんばんわ~、真白狐白だよ~。今日ものんびりゲーム配信していくからゆっくりしていってよね~」
午後九時、夜一時間だけのゲーム配信を開始。
視聴者数は現在1000人もいる。皆ここに来ていていいのだろうか? そんなことを考えながら早速今日のゲームプレイを始めた。

「今日は最近ずっとやっているサンドボックスゲームだよ~。うん、今日も探索とお豆腐建築をしていこうかな」
さぁ今日も材料を集めて豆腐を増殖させてやろうじゃないか。

ボクが動くと画面上のボクのキャラクターが同じような動きを取る。
楽しそうに体を動かしてきょろきょろしてみると、キャラクターもそれに沿って動く。
動きを検知するソフトを導入しているからできる芸当だね。
素晴らしい!
ただそのせいで、ボクがビビりだということがばれてしまったのはいただけない。
ぐぬぬ。

「さ~て、ちょっと不安だけど暗い洞窟を探検しましょうか。撮れ高も大事だからね~」
洞窟前にたどり着いたボクはすぐに洞窟には入らなかった。
急に不安になったボクは、お日様の位置を確認したり暗闇の奥をちらっと覗いたり、周りを意味もなくうろうろしたりしていた。

『草』
『草』
『草』
『すでに入り口から挙動不審で草』
『ビビる狐白ちゃん』

「びっ、びびりじゃないです~! ちょ~っと不安なだけです~!」
以前の配信時、背後から唐突に響いた爆発生物の落下音に驚いて盛大に画面を揺らしてしまったことがあった。
もちろん画面上のキャラクターも大慌てだったわけで、視聴者には目撃されまくってしまったのだ。

「も~、フラグ立てないでよ~。松明よし、装備よし、ご飯よし、原木石材木炭よし」

『ヨシッ』
『ヨシッ』
『ヨシッ』
『よしっ』
『作業前確認かな?』
『作業前確認草』

「後で忘れ物しても面倒だもん、今確認するしかないよね」
深くまで探索するとき、途中で資材が切れたら面倒なことこの上ない。
一時間しかやらないのだからある程度準備しておく必要がある。

「さ、さて、いきますか」
気合を入れて暗い洞窟へと足を踏み入れていく。
時々どこからか空洞音が聞こえてくる。それがボクの不安感を煽ってくる。

「どう考えてもホラゲーだよねこれ。ちょっと空洞音先輩空気読みすぎじゃないですかねぇ」

『子狐ビビり始める』
『始まったな』
『知ってた』

「ま、まだビビってないですし! も、もう突入しちゃうからね!」
洞窟に入るとまず最初に松明を設置していく。
まだ敵が沸いていないのか声も聞こえず道も一本道なので安心感がある。
前に進む足も軽いというものだ。もちろんボクのキャラクターも尻尾を振り振り嬉しそうだ。

「探索の基本は行かない場所は閉じる、塞ぐ。あとは上と下の穴に気を付ける」
暗い洞窟を明るく照らしながら周囲を忙しなく確認。そして現れた腐乱死体と動くカルシウムを発見しては頑張って動かなくする。

「ふひひ、順調順調。どう? ボクはビビりじゃないでしょう?」
カメラに向けてちょっとだけドヤっとした表情をするとすぐに反響が返ってくる。

『ビビり子狐がドヤ顔していて草』
『狐白ちゃん、それフラグ』
『気を付けろ、上からくるぞ!』
『怯える狐白ちゃんはよ』
実に皆言いたい放題だ。
でもうちのチャンネルは大体こんな感じなので、いつものことだけどね。

「中々順調に採掘できているし、もう少し探索したら帰ろうかな。今日は建築もできたらしたいし」
さて、帰ったらどんな豆腐ハウスを作ろう?
たまには三角屋根も作らないといけないとは思っているのだけど、ついつい便利な思考停止した豆腐ハウスを作ってしまう。

『そろそろ大規模建築とかやらないの?』
『豆腐が乱立するのもいいけど、色んな屋根の家作ろうぜ』
『失敗しても不細工でもいいからやらなきゃ慣れないよ?』
「う~ん、わかっているけどねぇ。まぁ少しずつがんばってみるよ。みんなありがとう!」
コメントにそう答えながら、ボクは洞窟を進んでいく。
行き止まりか複雑に広がった空間に出たら帰ろう、そうしよう。

分岐を塞ぎつつ、まっすぐに進んでいくと突如大きな空間が広がった。
渓谷だ。
しかも底はマグマで溢れている。

「うわぁ、もう帰ろう。ここは危ない。カルシウムに狙撃されたらあっという間に落ちちゃうじゃん」
その恐ろしい光景を目の当たりにしたボクは、ゆっくりと後ずさりをしながら引き返していく。

『狐白ちゃん、そういう時は上の段差に気を付けなよ? 時々落ちてくるから』
そのコメントを見て、ボクは「どういうこと?」と返したその時。

とさっ、しゅっ。
そんな音が背後から聞こえ、「ふぇっ?」とボクは声を出しながら振り向いた。
そして奴はいた。

「ぴぃっ!?」
ボクが振り向いた先には緑の爆発生物がそこにいて、きれいなほど白く輝いて膨らんでいた。

「あっ」

ズドンという音と共に吹き飛ぶボク。
体力は半分減ったけど無事に生き抜いていた。

「やった、耐え」
まだ続行できる! そうボクは一瞬考えたが世界は甘くなかった。

ゲームの中のボクは未だ地面に着地にしていなかったのだ。
そう、振り向く直前にあったのは溶岩を底にため込んだ渓谷……。

「あっ、あっ!!」
なすすべもなく焼き尽くされるボク。
やがて画面はキャラクターの死を知らせる表示を出し、同時にじゅっじゅっと何かを溶かす音が聞こえてきた。

「あう……」
呆然とするボクと大賑わいのチャット。

『よく頑張った、感動した!』
『なんて華麗なダイブだろうか。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね』
『元気出して! 狐白ちゃん今回はあまりビビらなかったからすごい進歩だよ!!』
『 全 ロ ス 確 定 』

「あうあうあうあう」
ショックだった。
頑張って探索を共にしてきた相棒たちが、一瞬にして消えてなくなってしまったのだから。
それからしばらくは、ボクを励ますコメントと慰めるコメントがチャットを埋め尽くしていた。

そして失意のまま配信終了時間を迎えるのだった。

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