首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き
神社の正体
自殺を……した。
その一言が、僕の頭をしばらくの間ぐるぐると回っていた。間違いない、ここが発端だ。
そう直感的に思う。
「二人は首を吊っていたの。人が見つけた頃には二人の首が痣で紫色に染まっていた。徳郎さんや菫ちゃんの首みたく……ね。
その後、松園家と竹園家で紫色の目をした子供が産まれるようになる。どうやら二人が心中してすぐは、松竹の家で子供が産まれると、ほとんどが紫色の目をしていたそうだよ。
それからと言うもの、不幸な出来事が続く。松園家の当主が病に伏して亡くなったり、松竹の家の、紫の目をしていない普通の子が亡くなったり、豪雨で村の川が氾濫して畑が駄目になった上、沢山の人が亡くなったり……ね」
——それじゃあまるで、祟りみたいじゃないか。
「それは……もしかして、二人の?」
瀬戸さんは頷く。
「不幸は、村全体に降りかかるものと、松竹の家限定のものがあった。そして、だんだんと原因は紫の目をした子だと気づく。
すぐにその子達は梅園家に押し付けられた。不思議と、梅園家限定の不幸は起きなかった。まあ、村全体の不幸のとばっちりは受けたらしいけど……。
それで、松竹の家ではほとんど普通の子が出来なくなり、独自の掟ができた。
松園家に後継が産まれなかった場合、竹園家と立場を入れ替えるの」
僕はその言い方に、少しとっかかりを感じた。梅園家は違うのだろうか。
僕が聞く暇も無く、瀬戸さんは続ける。
「この場合、苗字、家、財産、家具も全て入れ替わる。竹園家の家族が中身だけ変わらずに松園家になり、松園家も中身だけ変えずに竹園家になるんだ」
「でも、どうしてですか?」
真剣な表情をして、瀬戸さんは頷く。
「祟りをごまかすため」
僕はよく意味が分からず、しばらく汽車の走る音だけが流れた。
「これまでの傾向で、松園家により多くの祟りが集まることが分かっていた。よって、紫の子供が産まれやすく、その子供は梅園家に押し付けるので、後継が産まれにくかったの。竹園家もかなり多くの祟りを受けていたけど、そこそこ普通の子供は産まれてた。
そこで入れ替わりという掟を作って、祟りの矛先をごまかし、上手く家を残してきたんだよ」
「でも梅園家は……? なぜ今は梅園家も入れ替わりの対象に?」
「それは順を追って話すね。
えーっと、家を残してきたところまで話したか。それでも、村全体に降りかかる祟りも相当なもので、逢園村を出て行く家も多く、更に逢園村は廃れて行った。
そこで、二人の恨みから来た祟りなら、村全体で祀れば鎮まるんじゃないかと、当時の桃園家の当主が言ったの」
もしやそれで……。紫首神社が作られた?
「もしかして分かった? 紫首神社だよ。私達の推理通り、紫霊峠は結界の役割だった。二人の墓を移動させて、祠の中に入れ、神として祀る。結界は念には念をで祟りが村に侵入しないようにした結果らしいの。ニオイスミレは、元々村の外の方で自生していたものを移動させて作られている。
大掛かりなお供えの花として……ね」
瀬戸さんは眼鏡を外し、薄い布で拭きながら話を続ける。瞳は外の草木の色を反射して美しかった。
「神社を作ったことによって、村全体に降りかかる不幸は無くなった。でも頻度は少なくなったものの、紫の目をした子供は常に産まれていた。相変わらず松竹の家でね。
もうその頃には、松竹の家の入れ替わりもほとんど無くなり、覚えている人は少なかったの。口伝で語り継がれていた伝統みたいな感じだったから、なぜ家が入れ替わる必要があったのか知らない若者達は、当然梅園家も同じなのだろうと考えるようになったんだ」
「そこから松竹梅の家が入れ替わるという掟になったんですね」
瀬戸さんは眼鏡をかけて、頷く。
「ちょっと戻るけど、一番紫の目をした子供が産まれていたとき、その子供は皆菫と名付けられるようになったの。区別のためにね。
あと今の松竹梅の家では、女の人全員が名前に愛の文字が入っているでしょ? どうやら菫と高寿の関係は、菫が愛に飢えていたがために高寿を誘ったと考えられていたらしいの。
だからまじないで、女側が愛に飢えないように名前に愛の字を入れたんだって」
「効くんですかね、それ」
「どうだろ」
その一言が、僕の頭をしばらくの間ぐるぐると回っていた。間違いない、ここが発端だ。
そう直感的に思う。
「二人は首を吊っていたの。人が見つけた頃には二人の首が痣で紫色に染まっていた。徳郎さんや菫ちゃんの首みたく……ね。
その後、松園家と竹園家で紫色の目をした子供が産まれるようになる。どうやら二人が心中してすぐは、松竹の家で子供が産まれると、ほとんどが紫色の目をしていたそうだよ。
それからと言うもの、不幸な出来事が続く。松園家の当主が病に伏して亡くなったり、松竹の家の、紫の目をしていない普通の子が亡くなったり、豪雨で村の川が氾濫して畑が駄目になった上、沢山の人が亡くなったり……ね」
——それじゃあまるで、祟りみたいじゃないか。
「それは……もしかして、二人の?」
瀬戸さんは頷く。
「不幸は、村全体に降りかかるものと、松竹の家限定のものがあった。そして、だんだんと原因は紫の目をした子だと気づく。
すぐにその子達は梅園家に押し付けられた。不思議と、梅園家限定の不幸は起きなかった。まあ、村全体の不幸のとばっちりは受けたらしいけど……。
それで、松竹の家ではほとんど普通の子が出来なくなり、独自の掟ができた。
松園家に後継が産まれなかった場合、竹園家と立場を入れ替えるの」
僕はその言い方に、少しとっかかりを感じた。梅園家は違うのだろうか。
僕が聞く暇も無く、瀬戸さんは続ける。
「この場合、苗字、家、財産、家具も全て入れ替わる。竹園家の家族が中身だけ変わらずに松園家になり、松園家も中身だけ変えずに竹園家になるんだ」
「でも、どうしてですか?」
真剣な表情をして、瀬戸さんは頷く。
「祟りをごまかすため」
僕はよく意味が分からず、しばらく汽車の走る音だけが流れた。
「これまでの傾向で、松園家により多くの祟りが集まることが分かっていた。よって、紫の子供が産まれやすく、その子供は梅園家に押し付けるので、後継が産まれにくかったの。竹園家もかなり多くの祟りを受けていたけど、そこそこ普通の子供は産まれてた。
そこで入れ替わりという掟を作って、祟りの矛先をごまかし、上手く家を残してきたんだよ」
「でも梅園家は……? なぜ今は梅園家も入れ替わりの対象に?」
「それは順を追って話すね。
えーっと、家を残してきたところまで話したか。それでも、村全体に降りかかる祟りも相当なもので、逢園村を出て行く家も多く、更に逢園村は廃れて行った。
そこで、二人の恨みから来た祟りなら、村全体で祀れば鎮まるんじゃないかと、当時の桃園家の当主が言ったの」
もしやそれで……。紫首神社が作られた?
「もしかして分かった? 紫首神社だよ。私達の推理通り、紫霊峠は結界の役割だった。二人の墓を移動させて、祠の中に入れ、神として祀る。結界は念には念をで祟りが村に侵入しないようにした結果らしいの。ニオイスミレは、元々村の外の方で自生していたものを移動させて作られている。
大掛かりなお供えの花として……ね」
瀬戸さんは眼鏡を外し、薄い布で拭きながら話を続ける。瞳は外の草木の色を反射して美しかった。
「神社を作ったことによって、村全体に降りかかる不幸は無くなった。でも頻度は少なくなったものの、紫の目をした子供は常に産まれていた。相変わらず松竹の家でね。
もうその頃には、松竹の家の入れ替わりもほとんど無くなり、覚えている人は少なかったの。口伝で語り継がれていた伝統みたいな感じだったから、なぜ家が入れ替わる必要があったのか知らない若者達は、当然梅園家も同じなのだろうと考えるようになったんだ」
「そこから松竹梅の家が入れ替わるという掟になったんですね」
瀬戸さんは眼鏡をかけて、頷く。
「ちょっと戻るけど、一番紫の目をした子供が産まれていたとき、その子供は皆菫と名付けられるようになったの。区別のためにね。
あと今の松竹梅の家では、女の人全員が名前に愛の文字が入っているでしょ? どうやら菫と高寿の関係は、菫が愛に飢えていたがために高寿を誘ったと考えられていたらしいの。
だからまじないで、女側が愛に飢えないように名前に愛の字を入れたんだって」
「効くんですかね、それ」
「どうだろ」
「ホラー」の人気作品
書籍化作品
-
-
3087
-
-
439
-
-
0
-
-
70810
-
-
26950
-
-
0
-
-
841
-
-
159
-
-
2
コメント