首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き

藤野

浮かぶ犯人

「香寿、香寿!」


 背中をばしばし叩かれている。目を開けると、愛花姉さんだった。
「あれ……僕、寝てた?」
「ずーっとだよ。警察の人来てるから、早く起きな」
「茂さんは?」
「もう行った。一応瀬戸さんの提案で、ここの駐在さんも一人ついてってるから。夕方には帰ってくると思うよ」


 愛花姉さんは「立った立った」と、無理矢理僕を起こさせた。


「居間に行くよ。ちょっと休んだら、あとは好きなだけ菫ちゃんのとこにいていいから」
「うん……」
 ちょっと強引に押されて、僕は居間へ向かう。


 結愛姉さんと千愛姉さんと瀬戸さんが、ちゃぶ台を囲んで談笑していた。
 ……そして、何人か警察の人もいる。


「香寿君、おはよう」
「あ……おはようございます」
 瀬戸さんが声をかけてくれたので近くに寄って、
「どうして居間に警察の人が?」
 と小声で聞く。


「香寿君が寝ている間に、現場の調査はしたんだよ。……犯人の目星がついてるから、今はここで待機してるの」
 衝撃だった。目星がついているだなんて。
「……皆にね、協力してもらったんだ。香寿君にとってその人が犯人だと衝撃だと思うし、あらぬ誤解を与えたくないから分かってから伝えたいんだけど、いい?」


「は、はい……」
 ということは、身近な人なのだろうか。でも、ここの皆に協力してもらったということは、少なくとも僕の家族ではないだろう。
 その事実に、僕は少しだけ安堵した。


「ね、ねえ香寿、鈴子ちゃんに会いに行ったら?」
 さっきまで下を向いていた結愛姉さんが、いきなり顔を上げてそう言った。


「でも一人で外出ちゃ危ないかも——」
「あたしもついてくからさ、行って来なよ……。喜ぶと思うよ、鈴子ちゃん」


 言っていることは特におかしくない。でも、結愛姉さんが言っていることに強烈な違和感を感じた。
 結愛姉さんは、一番縄垂らしのことを怖がっていたのに。
 なのになぜわざわざ今、鈴子ちゃんに会いに行かせようとする?
 それに、自分がついて行くと言っている。


 さっき瀬戸さん達と話したときに、殺人が縄垂らしの可能性が低いという話をされたのだろうか。
 でも、犯人が人であった方が外に出ると危ないんじゃないか。


 そこで、ある可能性に気がつく。


 犯人がからじゃないか?


 そして今確実に逢園村にいないと分かっているのは、茂さん——。


 瀬戸さんは、駐在さんが一人ついて行っていると言った。それは、茂さんが逃げないようにするためじゃないか?
 茂さんに行かせたのは、僕達が茂さんのことを疑っていないと思わせるため……。直前まで駐在さんも連れて行くことを言わなければ、茂さんとしては逃げる機会がいつでもあるように感じられる。


 直前まで逃げる機会があると勘違いさせておけば、僕達が茂さんを疑っているだなんて微塵も思わないだろう。でも、駐在さんを連れて行くと知ったところで、約束をした後でやっぱり止めると辞退するのはあまりにも不自然だ。


 茂さんが犯人なら——僕は確かに衝撃を受けるだろう。そして、鈴子ちゃんとも会いにくくなる……。


 そこから浮かび上がった犯人は、茂さんしかいない。


 どうか違う人であってくれと思いながら、僕は鈴子ちゃんに会いに行くと言った。

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