首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き
夕暮れ
僕は家に帰ってすぐ学校へ行き、学校から帰って来た頃には雨も止み、綺麗な夕暮れ時だった。
水溜りを避けながら歩く。ぐーんと伸びた自分の影が、まるで大人になった僕みたいだった。
……これから、どうなるんだろうなあ。
漠然とした不安が、胸の中で渦巻いていた。
すると、向こう側からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。何やら沢山荷物を持っている。
目を凝らす。僕も進むし、向こうも近づいてくるので、段々とそれが誰だか分かってきた。
祐三さんだ。
竹園祐三さん。でも分かったところでどうと言うことでは無い。でも、あんなに荷物を持って何をするんだろう。物凄く、それが気になりだした。
聞こうか。でも、怖い。喋ったことがないし、向こうも僕の顔なんか覚えてないだろう。会食のときは優しそうに見えたけど、一対一だと何をされるか分からない……。
でも、どんどんどんどん距離は縮まる。
「あ、あのっ、その荷物……どうしたんですか」
祐三さんはちょっと驚いたように足を止めると、僕の顔と荷物を見比べた。
ちょっとして、何かに納得したように「ああ」と言う。
「お前、梅園のか。……家を出るんだ」
「えっ?」
こんな間抜けな返答をすると、松竹の家の人は大抵馬鹿にしそうなものだけど、祐三さんは馬鹿にするでも怒るでも無く続けた。
「家出だよ。あんな家にはもういられねえからな。お前もそう思うだろ?」
「……ちょっとは、ですけど……。でも、どうして今なんですか?」
確かにそう思ってるので、否定はできない。でも竹園家の人に面と向かってそんなことを言うのも怖い。
「家が入れ替わるんだって? 俺はあんなの知らなかったんだ。でも親父もお袋も、祐一と裕二も知ってやがった。どーせ首吊りのことなんかも、あいつらが色々やってたんだろ。あんな人の血が流れてねぇ奴らと一緒にゃ住みたく無いね。
あとなんだ、あー……あの、スミレ? だったか、女の子」
この村でスミレさんの名前を覚えてない人なんて、いたんだ……。
「は、はい、合ってます」
「俺は祟りだのなんだの信じてないからよ、結婚すんなら祝福するぜ」
ニッと口角を上げて、肩をぽんぽんと叩かれた。
泣きそうになる。
「あと最後に……。もし竹園の誰かが犯人だったとして、裕二は絶対に無い。あいつには自分でやれるような覚悟は無い上、裕一が当主になって、自分は次男として楽をして甘い蜜を吸う気満々だ」
そんな人なのか。祐三さんのうんざりしたような言い方に、よっぽど嫌っているのが分かる。
「それじゃ、俺は行くぜ。汽車が行っちまうからな。んと……なんてったっけ、お前」
「香寿です」
「コウジュ、達者でな」
そう言うと、手を振って行ってしまった。
気がつくと、僕の影はますます長くなっていた。
あの時声をかけたおかげで、祐三さんが良い人だと知ることができた。それに、思わぬ収穫もあったし。
そんな事を考えながら、一人とぼとぼ帰路を歩く。
僕の影の隣に、スミレさんの影を想像した。
二人は大人で、もうすでに結婚していて、愛し合っている、なんて妄想をする。想像の中の二人が、口付けをした。
僕の顔も熱くなる。
夕暮れ時の、空に溶けかけている真っ赤な太陽が、ついでに背中も熱くした。
水溜りを避けながら歩く。ぐーんと伸びた自分の影が、まるで大人になった僕みたいだった。
……これから、どうなるんだろうなあ。
漠然とした不安が、胸の中で渦巻いていた。
すると、向こう側からこちらに向かって歩いてくる人影が見えた。何やら沢山荷物を持っている。
目を凝らす。僕も進むし、向こうも近づいてくるので、段々とそれが誰だか分かってきた。
祐三さんだ。
竹園祐三さん。でも分かったところでどうと言うことでは無い。でも、あんなに荷物を持って何をするんだろう。物凄く、それが気になりだした。
聞こうか。でも、怖い。喋ったことがないし、向こうも僕の顔なんか覚えてないだろう。会食のときは優しそうに見えたけど、一対一だと何をされるか分からない……。
でも、どんどんどんどん距離は縮まる。
「あ、あのっ、その荷物……どうしたんですか」
祐三さんはちょっと驚いたように足を止めると、僕の顔と荷物を見比べた。
ちょっとして、何かに納得したように「ああ」と言う。
「お前、梅園のか。……家を出るんだ」
「えっ?」
こんな間抜けな返答をすると、松竹の家の人は大抵馬鹿にしそうなものだけど、祐三さんは馬鹿にするでも怒るでも無く続けた。
「家出だよ。あんな家にはもういられねえからな。お前もそう思うだろ?」
「……ちょっとは、ですけど……。でも、どうして今なんですか?」
確かにそう思ってるので、否定はできない。でも竹園家の人に面と向かってそんなことを言うのも怖い。
「家が入れ替わるんだって? 俺はあんなの知らなかったんだ。でも親父もお袋も、祐一と裕二も知ってやがった。どーせ首吊りのことなんかも、あいつらが色々やってたんだろ。あんな人の血が流れてねぇ奴らと一緒にゃ住みたく無いね。
あとなんだ、あー……あの、スミレ? だったか、女の子」
この村でスミレさんの名前を覚えてない人なんて、いたんだ……。
「は、はい、合ってます」
「俺は祟りだのなんだの信じてないからよ、結婚すんなら祝福するぜ」
ニッと口角を上げて、肩をぽんぽんと叩かれた。
泣きそうになる。
「あと最後に……。もし竹園の誰かが犯人だったとして、裕二は絶対に無い。あいつには自分でやれるような覚悟は無い上、裕一が当主になって、自分は次男として楽をして甘い蜜を吸う気満々だ」
そんな人なのか。祐三さんのうんざりしたような言い方に、よっぽど嫌っているのが分かる。
「それじゃ、俺は行くぜ。汽車が行っちまうからな。んと……なんてったっけ、お前」
「香寿です」
「コウジュ、達者でな」
そう言うと、手を振って行ってしまった。
気がつくと、僕の影はますます長くなっていた。
あの時声をかけたおかげで、祐三さんが良い人だと知ることができた。それに、思わぬ収穫もあったし。
そんな事を考えながら、一人とぼとぼ帰路を歩く。
僕の影の隣に、スミレさんの影を想像した。
二人は大人で、もうすでに結婚していて、愛し合っている、なんて妄想をする。想像の中の二人が、口付けをした。
僕の顔も熱くなる。
夕暮れ時の、空に溶けかけている真っ赤な太陽が、ついでに背中も熱くした。
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