首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き

藤野

葬式

 そうしてあっと言う間に一日が過ぎ、僕は布団で目を覚ました。またいつも通りに参拝をして帰って来たら、茂さんが来ていた。


 昨日は誰も死者が出なくて、なんだか今日の朝は普段に戻ったような気がしていた。でもお母さんが泣きながらお父さんの首の痣を化粧で隠そうとしているのを見て、まだ戻っていないと痛感した。


 ずきりと心が痛む。お父さんが死んでしまったのは悲しいけれど、あの時泣いてから僕は吹っ切れたように少しも悲しんでいない。
 いくら養子だからって、僕は家族になったのに。そう思うと自分がひどく冷たい人間のように思えてきて、尚更お母さんを見ているのが辛かった。


 同じように悲しめない、罪悪感からなのかもしれない。


 その後、茂さんがまた昨日と同じようにお経を唱えて、焼香をすると、なぜか皆白い着物に着替えさせられた。
 スミレさんもだ。どうやら、嫁入り前ではあるもののもう家族同然らしい。


「ねえ茂さん、どうして白い服にするの?」
 茂さんはちょっと考える素振りをすると、
「亡くなった人は白い服を着てるだろ。あの世に行くのに、一人じゃないよって言う意味……なのかな。俺の親父はそう言ってたよ。文字にして残してる訳じゃないから、意味に多少の違いはあるだろうけどな」
 そう言った。


 それでわざわざ着替えてまでやったことは、この前瀬戸さんが言っていた、『野辺送り』だった。青年団の人達を呼んで、お父さんが眠っている柩を担いで石畳の階段を登る。
 紫首神社の鳥居を潜って、少し歩いて紫霊峠のすぐ前まで来て止まった。


 どうやらこれから先は、僕達家族は行けないらしい。
 高く高くそびえ立った階段の向こうから風が吹き、微かにニオイスミレの甘い匂いがする。この峠を境として異界が広がっているような気がした。


 美しい花畑とお墓と木々で隠している中に、とても忌々しい何かがあるんじゃないかと思えてくる。


 僕達は、とぼとぼとした足取りで家に戻った。






「香寿」
 帰ってすぐ愛花姉さんが、僕が普段着ていない綺麗な服を僕に差し出した。
「え……これは?」
「これから松園家で松竹梅集まって会食するからね。あんたは次期当主なんだから、新品じゃない服を着てたら馬鹿にされるよ。酷いことばかり言われるかもしれないけど……耐えるんだよ」
 皆の緊張した空気に、僕はつられて背中に冷や汗をかいた。

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