首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き

藤野

いけないこと

 花畑への階段はとても長くて大変だったのを覚えている。だからもし向こうまで行って鍵が無いと時間が無駄になってしまうので、まずは鍵を探すことにした。


 人が木陰にもいないのを確認して、裏に回る。裏には桃園家の玄関があるのだ。
 引き戸に手をかけるも、鍵がかかっていた。……と言うことは、中には誰もいない。
 前に鈴子ちゃんと遊んだとき、人がいなくても二階の窓は鍵を開けているんだと言われた。


 ここには木があるし、登れば入れるはず。


 太い枝に手と足をかけて登る。大人なら体重が重いからあまり細い枝には乗れないけど、僕は軽いから大丈夫。
 葉っぱが体を撫でてくすぐったい。
 窓の方に伸びている太い枝に乗った。


 その上をそろそろと這って、窓へ手を伸ばす。


 あと少し……。もうちょっと……。よしっ!


 指がかかり、横にずらす。指は力が入って先が白くなっていた。
 あとは中に入るだけだ。


 一度指を引っ込めて、右足を伸ばす。体勢を崩さないようにそーっと、そーっと。
 足が窓枠に触れると、心臓がよりうるさくなったのを感じた。
 僕は、いけないことをやっているんだ。


 多少の罪悪感と、それを優に越す興奮で、僕はなんとも言えない気持ちだった。
 右手で窓枠の上の部分を掴み、木に残るもう半身を一気に引きつける。
 枝が少したわんで、反動で揺れていた。


 家の中に足を入れる。バレないように窓を閉める。
 中を見渡すと——


 えっ、こ、ここ、鈴子ちゃんの部屋じゃ……。


 可愛らしい感じの勉強机と、窓の隣で束ねてある薄桃色のカーテン。
 茂さんはこんな部屋じゃないだろうし、だとしたらやっぱり鈴子ちゃんの……。


 そこまで考えて、廊下に出た。
 流石に鈴子ちゃんの部屋に鍵は無いよね。
 女の子の部屋を漁っちゃ……駄目だよ。


 僕は違う部屋に向かった。

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