首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き

藤野

出来るのは今日だけ

 参拝を終えて家に戻ると、駐在さんがいた。
「……香寿、お母さんはあの人とお話ししてるから、学校行くよ」
「う、うん」
 愛花姉さんに肩を叩かれる。
 本当は行かないんだけど、準備をするふりをした。
「僕のこと待たなくていいよ姉さん達」
「そ……じゃ、お先に行ってきまーす」
 次々と出て行く姉さん達を見送る。


「……全員行きましたね。こうじゅさん、本当にいいんですか?」
「はい。スミレさんも、お母さんと駐在さんの話を聞いていてくださいね」
「もちろんです。……では、気をつけて」
「い、行ってきます……」


 不安そうに見つめるスミレさんを何度か振り返って手を振り、何度目かで僕は階段の方へ走った。松園家と竹園家の立派な家が流れるように視界から消える。
 両脇を木で囲まれた石畳の階段前に着くと、上を見た。幸いなことに、村の人は殆どいないようだ。
 少なくとも僕の顔を分かる人はいない……。


 一段一段上って行く。なるべく顔を見られないように下を見て。それでも緊張からどんどん足が早くなる。
 一番上まで辿り着いて、顔を上げた。
 大きな鳥居がそびえ立っていて、なんだかドキドキする。


 今日は二度めだ……。


 お辞儀をして、僕は鳥居をくぐった。
 まるで誰かが図ってやってくれたかのように人がいない。


 今日だ。もう今日しかない……!


 神社の奥の方から、花畑の匂いを乗せた生暖かい風が吹いた。

コメント

コメントを書く

「ホラー」の人気作品

書籍化作品