発見

　僕はぼーっとした頭で考える。このまま部屋に戻って何も無かったように眠れば、誰かがお父さんを発見するだろう。
　そしたら、その人が第一発見者になって、僕が見たことは誰も知らないから、僕は見ていないことになる。
　それでいつも通り寝ている僕を起こして、お父さんが首を吊って死んだと報告するのだろう。


　僕は立ち上がり、廊下に出た。襖を閉める。
　足音を立てないように、でも、それでも早歩きで部屋に向かった。


　僕は何も見ていない。朝起きて誰かにその事実を伝えられ、そこで初めてお父さんが死んだことを知って悲しむのだ。
　……それで、いい。
　自分の部屋の襖を開けて、部屋の中に入り、また何事も無かったかのように閉めた。
　布団に潜り込む。
　しばらくすると睡魔に襲われて、僕はそれに大人しく身を委ねた。




　体が強く揺すられている。
　大きな声がする——。


「香寿！　お、お父さんが、お父さんが……っ」
　愛花姉さんが切羽詰まった顔で僕に言っている。……そうだった。
　僕は何も知らなかったかのような、ぽかんとした表情を作る。
「く、首を吊って……死んでたって」
「え……？」
　飛び起きるフリをして、愛花姉さんを見つめる。
　ありえない、どうして、なんでお父さんが——と言いたげな表情を作って。
　でも実際、僕もさっきはそう思ってたんだ。だから嘘じゃない。
「と、取り敢えずさ、皆のとこ行こうよ。全員起きてるから」
　こくりと頷く。そして僕は起き上がった。
　なぜかズキズキ頭が痛む。泣いたからなのか、単なる寝不足なのか分からないけれど。
　明るい日差しで目が痛くて、不安定な足取りで僕は廊下を歩いた。


　愛花姉さんが入ってから僕も続くと、茶の間には全員が暗い表情を浮かべて座っていた。雰囲気がなんとも言えない。
　全員が疑心暗鬼になっているような、悲しみよりも恐怖が打ち勝っているような嫌な空気だ。


　そして全員、スミレさんを意識しているようだった。