首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き

藤野

警察

 僕達は急いで石畳の階段を降りて、家まで走った。スミレさんは当然だけど松園家に帰ってしまった。


「な、何があったの?」


 僕は家の中に集まった姉さん達に聞いた。愛花姉さんも、学校から帰ってきている。


「二人に聞いたでしょ? 香寿。そのまんまだよ、将太さんが首を吊った——」
 愛花姉さんが苦虫を噛み潰したような顔で言う。
「で、でもなんで……あの人が自殺なんて、それこそ理由がないよ! なんにも不自由していなかった。もし首を吊ったのが松園家の人なら——」


 竹園家の人がやっていたかもしれないのに——と、僕は言いかけていたのを飲み込んだ。いくらなんでも不謹慎だ。でももしそうだったら、あいつらはきっとスミレさんのせいにするんだろう。
 玄関からドタバタともつれた足音が聞こえてきた。
 お父さんだ。


「あ、あなた……っ! どうだった? 竹園家はどう処理するの……?」
 お父さんは詰め寄るお母さんを片手で制する素振りをし、息を整えている。
 数十秒ぜえぜえと下を向いていたが、ようやく起き上がった。


「遺書が……あったらしい……」


 一瞬だけ全員が黙り込んだ。


「遺書って……。自殺ってこと?」
 と、愛花姉さんがお父さんに言った。
「だから警察には出さないらしい。……トイレにニオイスミレの砂糖漬けが落ちててな……、根まで砂糖漬けにされてたんだってよ。
 遺書には毒で自殺するつもりって書いてあったらしいが、首を吊ってただろ。竹園家の奴らは、自殺しきれずに毒の効果で吐き、早く死ぬために首を吊ったんじゃないかと言っている……」
「ちょ、ちょっと待ってよお父さん。まずニオイスミレって毒があるの? お父さんは遺書を見た? まさか全部聞いただけじゃ……」


 お父さんは険しい顔をしてこっくりと頷いた。


「ああ、そうだよ愛花。松園家は何か知ってたみたいだがなぁ……。また梅園家は仲間外れだよ。
 ……あとさっきも言った通り、ニオイスミレには根に毒がある。以上だ、皆学校に行け」


 妙な沈黙が流れる。お父さんが先に部屋から出て行き、数秒してから愛花姉さんが鞄を手に取った。
 結愛姉さんと千愛姉さんも出て行き、僕とお母さんだけになった。


「香寿。行きなさい。学校には連絡するから……」
「うん……」

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