首吊り死体が呪う村、痣のスミレの狂い咲き

藤野

縄垂らしの仕業

 あんなやつらがこの村をまとめているなんて、聞いて呆れるよ。僕は顔だけをあの二人に向けたまま、スミレさんの方に体を直した。
「スミレさん、裏に行きましょう。」
「で、ですが——」


「愛子さん、あのあばずれ、梅園の出来損ないを誘ってますわよ」
「まあ! よりにもよってあんなのを選ぶなんて……。失礼、違いましたわ、あんなのしか釣れないんでしたねぇ」


 二人はそう言って高笑いした。気持ち悪い笑い声が神社中をこだまする。そして村人のほとんどが、僕達を横目で睨んでいた。
「……こうじゅさん、行きましょう」
「もちろんです!」
 僕達は——残念ながら手を繋ぐことはできなかったけど——早歩きで神社の後ろ側に回った。
 ふわりと甘い匂いの風が吹く。
 誰かの、服を着た白い背中が見えた。


「お、香寿かぁ! それに菫ちゃんも。こんな早くにどうした? 鈴子か?」
「ううん……。ちょっと視線が痛かったから……。それよりしげるさん、縄垂らしって?」
 茂さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに話し出した。


「縄垂らし……っつうのはなあ、幽霊みたいなもんだ。目をつけたやつのところに行って、首を吊らせて殺してしまう。
 なんで縄垂らしとか言う名前なのかあ、俺も知らないな。噂じゃあ首から縄を垂らしてるからって聞くが……。菫ちゃんは何か知ってるか?」
「な、縄垂らしのことでしたら、私もあまり分かりません。あっ、でも……」
「でも、どうした?」


 どうやらスミレさんは、茂さんとはちゃんと話せるらしい。


「一年に何人かは縄垂らしのせいで亡くなっていると、風の噂で聞きました」
「そりゃあ怖いなあ。ま、俺や鈴子はここの神様に守ってもらってるからなーんてことないがな」
 茂さんと、僕と同い年の鈴子ちゃんの桃園家は神社の裏に住んでいる。だから茂さんは神主で、鈴子ちゃんはこの歳で巫女としてお手伝いをしているのだ。
「ほれ二人とも、そろそろ参拝してこい。香寿、学校遅れるぞ。俺は戻るから、じゃあな」


 茂さんはくるりと向きを変えて、家の中に入っていった。風に乗ってきたように甘い匂いがする。


「こうじゅさん……行きましょう」
「はっ、はい」
 ゆるやかな風が木の葉をさわさわと揺らしている。木漏れ日でキラキラ光るスミレさんの髪の毛に夢中になっている間に、僕達はまた表に出ていた。


 ——驚くほど……人がいない。


「あっ、香寿! 菫ちゃんっ! 探したんだよ、どこ行ってたの? もう」
「結愛、それどころじゃないわ。……あのね、二人とも」


 二人は顔を見合わせて、せーのでこう言った。


『竹園家の将太さんが首を吊った』と。

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