元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

準備万端!



「おかえりなさーい!」


「え?あ、穂里か。ただいま。」


「試合見てたよー!連続バント上手くいってたねー。」


「まぁ一応って感じだけどね。光瑠はもう帰ったんかな?」


「光瑠ちゃんは試合見てから、お母さんと一緒に帰って行ったよー。」


「そうなんやね。今日はまだ身体動かしてないから一緒に練習でもしようか。」


「やるやる!まず何からするー?」


俺と穂里はみっちりと2時間練習した。
一緒に練習して改めて気づいたことがあった。



『こいつは一体どんな選手になるんだ…?』


これまで色んな女子選手を見てきたが、潜在的な能力だけで言えば姉の光に近いものを感じる。

ただ、姉は小さい頃からずっと野球をやっていたので、経験の差は相当大きいものがある。


それを加味した上で、恐ろしいまでの身体能力とスポーツの才能を感じる。

野球で凄い選手になるか、それとも他のスポーツ選手としてかは分からないが、1年半くらい女子選手を見てきた俺でも分かる凄さだ。


だからこそ、光瑠は穂里の才能が恐ろしかったんだろう。

俺と姉は異性だったのであまり比べられることもなかったし、俺自身が羨ましいという気持ちではなく、尊敬する気持ちがとても大きかった。



「実践練習はこんなもんかな?後は筋トレするけど穂里もやる?」


「やるやるー!体力だけは自信あるから任せてっ!」


追加で1時間くらい筋トレをした後に、ストレッチをしながら穂里の今後の予定を聞いていた。



「穂里ってどこのチームに入るんだ?桔梗がいたプリティーガールズか?」


「入団断れちゃったー。硬球経験も無いし、こんな時期だからね。千早マーメイドガールズってチーム。」


「うちの高校からも近いのに聞いたことないね。新しく出来たチーム?」


「そうみたいだよ?今年から出来たチームで、チームメンバーも12人しかいないから大歓迎されちゃった!」


「監督とか、チームメイトは穂里の実力知ってるのか?」


「知らないと思うけどー?テストとかなくすんなり入れたし。」


多分そのチームの関係者は、中学校から野球始めて軟式からきた選手の実力なんてたかが知れてると思っているだろう。


そこに穂里が入って、いい方向に働けばチームは見違えるように強くなるだろうし、穂里の才能に嫉妬して諦めるような選手たちなら穂里自身も腐ってしまうかもしれない。


「どんなチームかは分からないけど、自分ができる限界までプレーするんだよ。勝ちそうだから、負けそうだからとかじゃなくて、自分に出来ること全てをやって負けないと分からないことがある。」



「うーん。負けて分かることねー。」



穂里は個人競技だと基本的には負けてこなかったかもしれない。

それが団体競技になるといくら実力があっても、野球だと自分はチームの中の1/9であること。


その1/9という数字自体は2/9にも出来るし、力を抜いて1/9よりも小さい数字にも出来るということ。



「言いたいことは分かったよ!けどね、私は絶対に妥協なんてしないよ。地元には友達だっていたんだよ。私には私の目標があるからここにいるってこと忘れないでね?」


確かに言われてみたら至極当たり前のことだった。

野球のために緩い寮への入寮にも近いものがあるし、クラブチームの練習から帰ってきて俺の練習に付き合うのは中々大変になるだろう。



「白星に入学する時には私が即レギュラー取るからね!その為にたくさん練習する!」


「そうだね。少しずつ頑張っていこう!」


穂里は満足そうな顔をして、先にお風呂に入りに行った。

風呂に入っている間に、明日の対戦校のデータを調べることにした。


「今日勝ち上がってきたのは…。久留米美凪?美凪って確か…。」


久留米美凪みなぎ高校は、九州大会1回戦で友愛に12-4で5回コールドで負けていたはず。


1年生大会の事なんて頭になかったので、友愛の選手に美凪高校のことを一切聞いていなかった。

もしかすると、誰かが話を聞いている可能性あるけど…。


「あ、そうだ。」


俺はこういう時のために連絡先を交換したことを思い出した。

向こうはそんなつもりではなかったかもしれないけど、使える時に使わないとなんの意味もない。



「もしもし。青柳さんですか?今大丈夫ですか?」


友愛で連絡先知っているのは青柳さんだった。

合宿の時に連絡先を交換して、時々連絡を取り合ったり、野球のことについて相談されることもあった。


「東奈くん?電話とか初めてじゃない?今は自由時間だから大丈夫だよ。」


「明日1年生大会で美凪と戦うんですけど、相手の1年生で覚えてることとか、注目した方がいい選手とかいました?」


「明日美凪と試合なんだ。強くはなかったかな。けど、1年生主体のチームだったね。6人だったかな?だから、1年生大会で当たるなら少しは苦労するかも。」


1年生主体のチームか。

白星は1年生レギュラーは4人だから、それ以上に多いということは、決して楽して勝てるチームではなさそうだ。



赤羽逢里あかはねあいりさんだったか?珍しい1番キャッチャーだったからよく覚えてるけど、3安打されて、盗塁も2つされたから気をつけた方がいいかもね。」



「瞬足のキャッチャーですか。居ないことは無いですけど、珍しいですね。情報ありがとうございます!」



「いつも話聞いてもらってるから気にしないで?明日も頑張ってね。うちも明日も勝つから。」


「はい。友愛も3回戦頑張ってくださいね。」


友愛はこのまま行けば、春の甲子園も夢ではなさそうだ。

準々決勝では多分福岡商業と当たると思うが、それさえ勝てれば春の甲子園確定となる。


準決勝は波風との対決になるんだろうけど、かなり厳しい勝負になりそうな気がする。


それは俺が考えることではないけど、出来れば波風を倒すところが見てみたい。


とりあえず明日のスタメンやピッチャーの起用法を考えながら、パソコンと向き合っていた。


美凪は想定よりも強い可能性が高いが、この試合までは使っていない選手たちを、出来るだけ使いつつ勝ちに行きたい。


美凪は友愛から4点は一応取っているし、いくら守備が下手でもそこまでエラーしまくっていたという訳でもないだろう。



「とりあえず明日これで行くか。」


選手たちに特に問題がなければ、明日のスタメンはこれで行こうと決めておいた。




1番.四条(遊)
2番.王寺(中)
3番.中田(投)
4番.時任(左)
5番.円城寺(一)
6番.七瀬(捕)
7番.江波(右)
8番.花田(三)
9番.雪山(二)



点差がギリギリつかないであろうメンバーを選出した。

かのんの本職はセカンドだが、やや送球難のある雪山よりは何十倍も上手いはずだ。


途中出場だった花田をスタメンに持ってきて、出来れば早めに雪山のところに市ヶ谷を持ってくる予定にしてある。


夏実か凛は打撃が奮わなそうな方と奈良原を交代して、青島も後半に一塁で出してあげたい。


それよりも桔梗の使い所が1番難しい。

代打で使えるから負けていた時の切り札にしやすいが、途中から出すとその強みもなくなるので、最後まで温存しておきたくなる。


月成もどこでも守れるし、チャンスでの謎?の力も俺は頼りにしている。


柳生は試合にちょこっとしか出れないことに不満があるんだろうが、ここまで公式戦でほぼずっと使い続けたので我慢してもらう。


そして、エースの梨花は明日投げると3連投になってしまう。

波風は74球、京都西は34球で高校野球で言えば球数は少ない方だと思う。


それでも、梨花はあまり連投の経験が少なく、わざわざ3連投で投げさせるような試合でもないと思っていた。


俺の予定だと美咲に5回、七瀬に2回を投げてもらって、延長戦になるようだったら七瀬を出来るだけ引っ張って、バテてきたら梨花でいいと思っていた。



とりあえずある程度試合の流れを想定して、対応策も考えておいた。


後は明日になって彼女達を見守るだけだ。




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