元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

リベンジ戦!




9月の中旬、まだまだ残暑がきつく、10時現在で気温は30度もある。



「んーまだまだ暑いな。」



今年の夏は特に暑い気がする。

今日は2試合目からなので、球場の外でメンバーは準備運動をしているだろう。


1試合目の行橋商業vs博多南高校の試合を見ていた。


この試合の勝者と明日2回戦をやることになる。

今の試合を見ている感じ、特にどちらもそんなに強いとは思えない。

今日の1回戦の竹葉よりは楽に勝てる相手だと思う。



総合力はそこそこあると思うが、あんまり特徴がなくて、強いて言うならピッチャーがそこそこ良いくらいで、他に警戒すべき所は無さそうだ。


ピッチャーも多分エースが投げているだろうし、そのピッチャーが明日投げるとなると連投になり、今日よりもピッチング内容が良くなるとは考えづらい。


今日うちの先発が梨花か海崎先輩のどちらかは、状態を見て決めるから分からない。


明日の試合は今日先発じゃない方が投げるので、疲労していない状態の投手が投げれるというのは、かなりのアドバンテージになる。


ベンチ入り出来なかった7人のメンバーの内、5人が練習の手伝いをしてあげている。

残りの2人が試合を見てスコアブックをつけたり、カメラを回したりして明日の試合に備えている。



試合をチェックしてくれているのは、2年生達でベンチから外れた1年生達に相手チームの偵察は流石に荷が重すぎる。


現に俺がこうやって偵察しているので、スコアブック係とカメラ係だけで問題ない。



俺の居る位置から白星高校の練習も見えるし、竹葉学園の練習も見える。


やはり今日のバッテリーは右田さんと二ノ宮さんだ。

右田さんのカットボールは相変わらずだろうし、弱点だったカーブの時に少しグラブが上がる癖は直ったのだろうか?


そして、それを支える相手の裏をかくリードが出来る二ノ宮さん。


今日も簡単には打ち崩せないだろうが、あのカットボールの軌道を知っている選手も多い。


桔梗、かのん、大湊先輩、瀧上先輩はレギュラーとして出てたので、面食らうことはないだろう。



「行橋商業高校が勝ったのか。」



2-1で行橋商業が博多南を破り1回戦を勝利した。


行橋商業の気にするべき選手は1人だ。


今日の試合に勝ってからじゃないと、彼女のことを分析する必要は無い。


きっちりと竹葉にリベンジを果たして、いい気分で分析するのを楽しみに俺は野球ノートを閉じた。



「天見監督、行橋商業が勝ちました。いい投手が1人いるだけで、その投手さえ攻略出来れば大丈夫だと思います。」



「そっか。ありがとうね。今日のオーダー表はこれで、うちは先攻に決まったから。」



俺は渡された白星と竹葉のオーダー表を確認した。



白星高校

1番.四条(二)1年
2番.時任(左)1年
3番.大湊(遊)2年
4番.橘(一)1年
5番.剣崎(右)2年
6番.月成(三)1年
7番.瀧上(中)2年
8番.柳生(捕)1年
9番.海崎(投)2年



竹葉学園   


1番.中崎(遊) 2年
2番.田口(二) 2年
3番.二ノ宮(捕)2年
4番.松上(一) 2年
5番.大久保(三)1年
6番.小道(左) 2年
7番.右田(投) 1年
8番.柴田(中) 2年
9番.松村(右) 1年



相手のチームで知っているのは1番、2番で、夏の大会も試合に出ていた。


右田さんと二ノ宮さんは当たり前として、他のメンバーはこの秋からスタメンになった選手達だった。




「それにしてもサードでレギュラーの剣崎先輩がライトで、月成がサードか。」



初っ端からレギュラーに選ばれたメンバーの代わりに月成が出ている。

昨日や一昨日でも調子よさそうにしていたから、監督がそれを考慮しての月成の抜擢なんだろう。


グランド整備も終わり、俺たちは3塁側のベンチの中に入った。



「よし!気合い入れていくぞ!」



「「よぉぉし!!」」



気合いを入れてみんなキビキビと練習を開始した。

今日は監督がノックを打って、俺がバッテリーの様子を見ることになっていた。



海崎先輩はリラックスしている感じで、マイペースに投球練習を行っていた。

その隣では、梨花と七瀬が投球練習をしていた。

2人を見る感じどちらも結構調子が良さそうに見えるし、この調子ならロースコアゲームになる可能性が高いかもしれない。


梨花は先発では無いので、軽く投げるとすぐに投球練習を止めて、七瀬と軽く話しながらベンチの中へ戻っていった。



グランドを見渡すと、ノックを受けている1年生達は明らかに緊張しているように見えた。


目の前の柳生も少し表情も暗いし、何かずっと考えているような気がする。

海崎先輩はそれを気が付いて何も言わずに投球練習をしている。



「柳生、緊張してるな。夏の大会もいきなり出されて緊張もへったくれもなかったからな。」



「緊張なんてしてないし。気が散るからあっちいって。」



おいおい。
俺がコーチというのが分かっているのだろうか?


あんまりやりたくないが、キャッチャーがこのままだと試合にも影響が出ると思ったので、緊張を解させることにした。



バシッ!



「きゃっ!」



俺は海崎先輩にボールを返球するために、1度立ち上がった瞬間に結構な強さで尻を叩いた。



「これで緊張解れた…」



バチッ!



緊張を解させようとしたことを説明する前に平手打ちを喰らった。



「ばっかじゃないの!緊張してないし!ばーか!」



俺に尻を叩かれたのが恥ずかしいのか、それとも本当に怒ってるか分からないが、緊張は解れたようだ。


海崎先輩も俺と柳生の様子を見て笑っているので、バッテリー共々大丈夫だろう。

海崎先輩は今日は得意のシンカーよりも、スライダー系の横にスライドするボールがいい。


アンダースロー特有のフワッと浮き上がるように見えるストレートと、途中までそれと同じ軌道で曲がるスライダー、シンカー。


そして、変化量の多くスピードを落としたカーブを織り交ぜてタイミングをずらす。



「柳生、さっきはごめんごめん。聞くか聞かないかは好きにしていいけど、シンカーよりもスライダーを使っていった方がいいかも。」



「…はぁ…。スライダー?シンカーも全然普通に見えるけど?」



「シンカーが悪いんじゃなくて、スライダーがいいんだよ。」



「スライダーね。リードに迷ったら参考にさせてもらう。」



俺は一応軽くアトバイスしたが、これを受け入れるかどうかは柳生次第だ。

柳生は今日のスライダーの良さに気づいていないみたいだ。

一見いつもと変わらないように見えるが、曲がりだしがいつもよりも遅い。


出来るだけ打者の近くで曲がる方がバッターも打ちづらい。

1番は相手がスイングした瞬間にボールが変化するのがいいが、そんなボールを投げれる投手を見たことがない。


逆に曲がり始めが早い時は、打者に見切られやすいというのもあるが、リリースの位置が早すぎる可能性が高い。



今日の海崎先輩はいつもよりもボールを長く持ててるし、それでいてコントロールも出来ている。


リリースポイントがいつもよりもいい意味で違うことに気付けない柳生も、そこら辺の見る目はまだまだだ。


全てを今教えてあげてもいいが、今は軽いアドバイスくらいで、試合が終わったあとに答え合わせをしてあげようと思っていた。


公式戦だからこそ、新しい何かに気づくことも多いし、何でもかんでも教えてあげることがいい事だとも思えなかった。



「全員集合!!」


シートノックも終わり、全員をベンチ前に集合させた。


少なからずみんな緊張しているようだった。

キャプテンの大湊先輩もそれを出さないように振舞ってはいたが、緊張というのは周りから見ると案外分かりやすい。



「さっき、柳生のお尻を叩いて気合い入れてやったけど殴られた。殴らないなら気合入れで叩いてもいいけど、誰か叩かれたい奴いるかー?」



「えー。ししょー女の子のおしり触りたいなら、かのんのキュートなお尻触らせてあげるよっー!!」


そう言うとかのんは俺の方にお尻を向けて迫ってきていた。

俺はかのんを捕まえて、元いる位置に戻した。

そのいつもと変わらない様子の俺とかのんを見て、1年生たちの顔に笑顔が戻ってきて少しだけは緊張も解れたんだろう。



「みんな緊張するよね。私も現役の時はいつも緊張してたよ。けど、その緊張をすべて取っちゃったらダメ。程よい緊張と付き合っていければ、油断することなくいいパフォーマンスが出来るから。」



「監督の言う通り。竹葉は弱い相手ではないけど、友愛と比べると全然だし、その友愛には勝てなかったけど、いい勝負出来たうちが簡単に負けるわけない。」



俺と監督がみんなに向かって色々と声をかけた。

いつもとは違う緊張感の中で話すと俺も気を使うし、みんなの目付きも普段とは違い、かなり真剣な表情をしている。



「勝つことも大切だけど、皆が好きな野球を楽しむことも大切だよ。プレー中に苦しいことがあれば、楽しむことを思い出してみて。」



「「はいっ!!」」



「絶対勝つぞぉ!!」



「「おぉ!!!」」



大湊先輩は少ない口数でチームを鼓舞した。

みんなの声も女の子っぽいというよりも、勇敢な戦士のような声が響き渡った。



「集合!」



「白星高校対竹葉学園の試合を開始します。礼!!」



「「よろしくお願いします!!」」



遂に秋季大会1回戦の試合が開始した。


先攻白星高校  対  後攻竹葉学園



軽やかに打席に向かうのは、白星高校の不動の1番になりつつある、四条かのん。


精神力が強いのか、そもそも緊張という言葉の意味を体が理解していないのか、緊張しているところを見た事がない。


実際は緊張しているかもしれないが、それを表に出していない時点で、かなりの大物だということが分かる。


投球練習が終わり、かのんが左打席に入っていく。

ネクストバッターズサークルに入っている氷が膝をついてじっとかのんを見ていた。




「プレイボール!」



かのんは打席の中でバットをクルクルと回しながら、ピッチャーがサイン交換をするのを待っている。


野球選手というのは、自分のルーティンを持っていて、打席に入る時に左足からだとか、バットでホームベースを3回叩くだとか、いつもと同じ動作で打席に入る選手がほとんどだ。



かのんはそのほとんどに当てはまらない。

うちのチームで打席内でのルーティンが無い選手は、かのんと進藤先輩だけだ。


進藤先輩は打席に入る前にぺこりと頭を下げて入る以外は、特定の動きをすることがない。


2人ともその時によってバットを回してみたり、ブラブラとしてみたり。


ルーティンは普段通りの動きをするためや、いつもと同じ流れで行うことで、良いイメージでプレーをすることができるなど理由はある。


俺はそういう理由もあると思うが、その選手にあったルーティンが無ければ別に気にしなくてもいいと思っている。



例えば、桔梗のような打席ではじっとしているタイプのルーティンをやれといっても、かのんには合わないし、逆にリズムを崩すことにもなる。



桔梗にいきなりかのんみたいにやれといっても、どう考えてもいい方向に転がるとは思えない。


右田さんは夏の大会が終わって2ヶ月くらいで成長したのだろうか?

選手というのはたった1ヶ月でもなにかを掴んだりすると、あっという間に高いレベルに到達することもある。


今年の夏でいえば、梨花はその1人だろう。

最上さんとの出会いと対決で、梨花の本当の意味での負けたくないという気持ちが芽生えたように見えた。


高校に入って、梨花と桔梗とは実践打撃で何度も対戦していたが、やっぱりライバルと言ってもチームメイトだと本当の対決は出来ない。



その点、梨花と同等のレベルの最上さんと戦えたのはラッキーだったかもしれない。




それが右田さんにおきていて、更にレベルを上げて、うちでは手をつけられないレベルに成長してないといいが…。



右田さんは左足を上げ、今まさに第1球目を投げようとしていた。


かのんは絶対に初球をスイングする。
これまで見てきた試合で、打てないボール以外はほぼ絶対といっていいほどフルスイングする。


かのんはあまりにも特徴的なデータをしている。

0ストライクの打率が5割前後
1ストライクの打率が3割前後
2ストライクの打率が1割5分切るくらい


3-2のフルカウントまでになると1割未満になっている。


打席に入った直後の集中力は目を見張るものがあるが、打席が長引くと集中力が切れかけている。


かのんにも注意したことがあるが、本人もそのことは分かっていた。


だからこそ、早いカウントからガンガンスイングしていってるみたいだ。


それなら集中力を長く続かせる方法を考えようとならないのも、かのんらしいっちゃかのんらしい。



ブンッ!!!



強烈なフルスイングだったが、初球からカットボールを投げられて豪快に空振り。



「あちゃー!カットボールかー。」



ストレート狙いがバレバレだったんだろう。

夏の大会で右田さんはかのんに初球をホームランにされそうになっていた。


狙っているのを分かっていて、敢えて甘いコースから曲がるカットボールを選んできた。



このままかのんは手玉に取られるかと思っていたが、2.3球目は際どいコースのストレートに一切反応しなかった。


初球のフルスイングからは想像出来ないくらいに、ピタリと動かなくなった。




際どいボールを打たせて凡打にしようとさせているバッテリーの意図を、かのんは感じ取って一切手を出す素振りがない。



2-1。
バッター有利なカウント。


ここでもう一つボール球を投げて、四球を出すと向こうはかなり厄介なランナーを出すことになる。



「ストライク!」



4球目のアウトコース本当にギリギリのボールをあっさりと見逃して、2-2の平行カウントになった。


かのんは珍しくバットを振らずに、集中しているような気がする。



そして、5球目。



『カーブの癖、完全にじゃないけどほんの少しだけ残ってるな。』



5球目はここまで使ってこなかった、バッターに緩急を感じさせられる遅いカーブ。



かのんはここはストレートを狙っていたのか、タイミングを外されて、体勢もやや崩されている。



カキィン



どうにかバットにボールを当てられたが、完全に打たされて死んだ打球がサード前へ転がる。



思ったよりもカス当たりだったのか、打球が全然転がらず、サードが全力で打球を処理するために前進してくる。



かのんは打つ瞬間は体勢を崩されていたのだが、体勢を立て直して一塁へ走り始めるのがとてつもないくらい速い。



サードは前進してきているが、今にも止まりそうな打球を捕球した時にはかのんはもう3分の2は走り切っている。



「投げるな!」



キャッチャーの二ノ宮さんはサードに投げないように指示した。

投げても間に合わないし、焦って投げて暴投した場合のリスクもある。



「ナイスラン!!」

「次は盗塁していこー!」



かのんは打たされながらも、サード内野安打で塁に出た。


かのんが1塁に出るとほぼ2塁にいるといってもいい。

高校に入ってまだそこまで盗塁の企画数も少ないが、2塁への盗塁を失敗しているところを未だに見たことがない。



チームで唯一かのんはグリーンライトを与えられている。


グリーンライトは信号機の青信号機と同じ意味だ。


青信号機は前に進めではなく、進むことが出来るという意味で、盗塁を出来るなら盗塁をしてもいいという野球用語だ。


かのんには盗塁のサインは出ない。
盗塁ができるタイミングで盗塁する。


かのんは何も言わなくても勝手に走るし、成功率は今のところ100%だ。


無理にサインを出すよりも、かのんの独自のタイミングで走らせる方がいいという判断だ。



2番の氷がバッターボックスへ。
盗塁のサインはもちろん出ないし、バントのサインも出ない。


氷を2番に置いたのは多分、1番のかのんがランナーに出た時に合わせられるバッターだったからだろう。


氷はボールを自分の目で見て、わざとファールを打ったりしながらタイミングを合わせられる。




色んな選手を2番に置いてみたが、かのんが好き放題するせいで集中力を切らしたり、イライラする選手もいた。


かのんがランナーで好き放題していても、あんまり気にする様子もなく集中力も切れず、いつも通りに打てるのはレギュラーで氷しかいなかった。



右田さんはランナーを気にして、何度か牽制を入れているが、かのんは盗塁する様子もなく余裕で一塁へ帰塁出来ている。



右田さんは少し長めにボールを持って、一塁ランナーのかのんが焦ってスタートしないかを待っている。



右田さんが投げる前にかのんが少し動いた。

それを見たキャッチャーが牽制の合図を出した。



「セーフ!」



かのんは少し動いただけで盗塁をした訳ではなかった。

わざとここまで動かずに、ちょっと動いてピッチャーを揺さぶろうとしている。


ここまで3回牽制を引き出している。
牽制し過ぎて、バッターに集中でき無くなることもある。


逆にバッターもいつ投げてくるか分からずに、集中力が切れる場合もある。


かのんがその典型で、かのんが打席の時にランナーが盗塁する時はいち早く盗塁しないと、かのんが打ち気を無くす可能性もある。



そう考えるとなんて使いづらい選手なんだと思うが、走攻守全てを兼ね揃えた選手なのが更にタチが悪い。



右田さんからはあまり焦りの雰囲気を感じることができない。

ピッチャーよりもキャッチャーの方がランナーが気になっているようだ。


今は走る素振りのないかのんだが、素振りがないだけで、あの鋭い目を見れば誰が見ても盗塁してくるのは分かる。



また少し間をとりながら、氷への1球を投げようとしている。

セットポジションに入って、投げるまでに時間をかけるとランナーもなかなか走りづらい。



セットポジションに入ってから約5秒くらい経って、遂に左足を上げ、氷へ1球目を投げようとした。



「走った!!!」



かのんはあれだけ間を取られていても、ほぼ完璧なスタートを切った。


バッテリーは盗塁を読んで、外角高めへボールを外してきた。



キャッチャーはすぐにセカンドへ送球。
ここまで警戒されてボールを外されればまず盗塁は成功しない。


男子ならまず無理だし、俺がキャッチャーならここまでやられて盗塁成功させる訳にはいかない。


当たり前のことだが、男子と比べると女子はピッチャーの球も遅いし、キャッチャーの肩も強くない。


だが、盗塁技術は男子も女子も関係ない。

かのんはあのスピードも凄いが、盗塁技術が飛び抜けて凄い。


盗塁に関してだけは俺が教えることはほぼ無い。



「セーフ!!」



タイミングはさすがに際どいが、あれだけ警戒されて盗塁を成功させるのは容易ではない。


キャッチャーは苦虫を噛み潰したような顔をしていて、右田さんは少し諦めた表情をしていた。



ワンボールから氷の打席が再開された。


少し崩れるかもしれないと思っていたが、そんなことも無く2球目もしっかりと厳しいコースへ投げ込んできた。


このストレートが外れてツーボールになった。



3球目、4球目はカットボールを投げてきて連続でファールになった。


打ち損じたというよりも、ストライクゾーンのボールを外野のライン際を狙いつつ、タイミングを計っているように見える。



相手は1打席目のかのんと同じように決め球にカーブを選択してきた。


前見た時よりもカーブの精度も良くなってるし、カットボール一辺倒の投球スタイルから進化してるようだ。




「けど、そのカーブじゃ…。」



カキィィーン!!



初見のカーブを最初から狙っていたようなスイングで、お手本のような打撃でセンター前へ弾き返した。


かのんは打った瞬間ヒットになると確信したのか、2塁からホームへ向かってきた。


氷は全力でファーストまで走ってるんだろうが、2塁ランナーのかのんと比べると氷はあまりにも遅く感じる。



もちろん3塁ランナーコーチは腕を回してかのんをホームへと突っ込ませている。


センターはボールをキャッチすると、すぐにバックホームした。



「ホーム無理!」



かのんはスライディングもせず、ホーム駆け抜けた。


中継にボールが返ってくるのがやっとで、あれだけ苦労した右田さんから打者2人で1点を先制することに成功した。



「氷ー!ナイスバッチ!」

「さすが氷ー!」



一塁上でニコニコしながらこちらに両手で手を振っている。

氷がこんだけ喜ぶことは少ないが、やっぱり公式戦の先制点を上げたことが嬉しいんだろう。


俺も監督もこういう時には選手に声をかけて、手を振った来たら手を振り返す。


試合中にはあまり上下関係なく喜びを分かち合える方がチームの雰囲気もいい。




「大湊先輩、桔梗。ここで畳み掛けたら有利になれるから頼むぞ。」


ネクストバッターズサークルに向かう桔梗達に聞こえないように呟いていた。


試合は始まったばかりだが、電光石火の1年生コンビによって1歩リードした。




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