元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

姉妹校!



7月の下旬白星高校は夏休みに入ろうとしていた。
夏休みとともに夏の甲子園も開催されようとしていた。




福岡女子野球の四強を崩すことが出来ず、4年連続での出場となる福岡県大会優勝の天神女学院と、姉の母校である準優勝の城西高校が甲子園出場を決めていた。




来年以降の戦力分析のために試合は欠かさずチェックしていたが、チームの特色が徹底されてる感じがしたし、レギュラーの選択も実力あるだろうがチームにあった選手を選択してきている。






足を使うチーム、守り勝つチーム色々とあるのは俺にも分かるがそれが最善だとは限らない。


うちのチームはカラーが決まる程選手の完成度が高い訳では無いし、熟練度や経験が足りていない。




ならどんな野球を目指すかと言われれば答えは一つだけしかない。




「どんな野球だろうが勝つだけだ。」






勝利至上主義ではないが、何のために野球をやってるかと言われれば好きだからと答えるか、試合で活躍したい目立ちたい試合に勝ちたいと答えるのではないだろうか?




野球はチームのためにプレーをするが、みんながみんなそうではないしそういう色んな人間が集まってやるのがスポーツであり、野球なのだ。






人によってはチームの為に犠牲になるプレーも必要になるが、逆にそれを絶対にしたくないという選手がいるというのも現実だ。




ならその選手を試合につかわないと言われれば答えはNoだ。


実際そんなプレー拒否している1年生のかのんがレギュラーを取っているし、もし桔梗がそういうタイプの選手だったとしても試合には使われるだろう。






1人のプレイヤーとして高いレベルにあれば試合に使ってもらえるだろが、チームの為に必要かどうかは別の問題になってくると俺は思っている。






野球は上手いが、自己中心的でチームに馴染まない、勝つためのプレーをせずに自分の成績ばかり気にする選手を依怙贔屓して使い続けて勝てればいいが、負けた時に負けた責任を押し付ける相手は一体誰になるのだろうか?






野球はチームスポーツだが、基本的に対決するのは1対1で味方から多少のアシストは貰えても投げるのは自分で、打つのも自分以外は干渉することもしてもらうことも出来ない。




だったら実力のある選手を使うのは当たり前!となるのだろうが、前にも言ったようにチームとしてと言う話になり堂々巡りになってしまうのだ。






なぜこんな話をしているかと言うと、四強と呼ばれるチームにはかなりしっかりしたチームの方針が良く感じられたが、そのせいで力を出し切れていない選手も少なからず居たように思う。




だが、結果として四強として甲子園に出場しているしチームとして学校としてはなにも間違っていない。




俺にそれが出来るかと考えた時チームを勝たせることよりも選手達に野球をやめて欲しくない、嫌いになって欲しくないって気持ちが強すぎて勝てるチームを作れないかもしれない。






「ししょー!難しい顔してどしたのー?おばかちんと一緒でテストの補習だらけになっちゃったとか?」




「雪山ってやっぱり馬鹿だったのか。俺は赤点は回避出来たから大丈夫。かのんは…。いや、聞くだけ無駄だね。」




詳しく話をきくと俺が雪山がテストで補習がついた理由が判明した。


雪山は理系がダメで、逆に英語や国語などの点数がかなりいいみたいで平均点として見るとやや低いくらいで目立たなかったがなんとも雪山らしい結果だ。






「かのんはねー。全教科77点取ったんだよー!凄いでしょー!」




普通科トップがかのんじゃないって噂で聞いたが、2位かと思っていたがまさかの全教科同じ点数を狙ってやったのか…。






「なら100点取ることもできたりする?」






「当たり前だよーん。だって答えまでの道筋があって、明確な答えががあるものを間違える方が難しいけどね?天才だからそう思うのかもだけどねー。」








かのんのいいたいことは分かるが、シンプルでかつ1番難しいことを言ってのける。
理解はできるが、それに同意するのは俺には無理だとすぐに悟った。




「だからこそ野球なんだよー!相手が抑えるために思考を巡らせてくるしー、磨き上げた技術とか肉体も必要だしね。そこまでしても状況によっては運が絡むんだよ?そんな理不尽で楽しいから野球は止められないよね。」






「かのんらしいな。けど、その強い気持ちと考え方を曲げてでもチームの犠牲にならないと行けない時が必ず来ると思う。その時にどうするか考えておいた方が…。」


「かのんはかのんの為に野球をしてるの。やることは決まってる。考えるまでもないよー?」






かなり食い気味で宣言してきた。
かのんがここに来ると決めたあの時と何も変わっていない。








「そう言うと思ってた。前に言ったこと覚えるよね?」






「覚えてるよ。そのためにここに来たんだからよろしくね?






そう俺に言ってきたかのんの顔はいつものかのんとは違い、したたかで強い意志を持ったかのんだった。




俺は天真爛漫なかのんも好きだが、ここまで芯の通った人としてみると俺は羨ましくもあった。






「ししょー!今日も練習しよ!」




さっきまでのかのんはいつの間にか消えており、いつもの元気いっぱいの野球少女に戻っていた。






こうして俺たちの早すぎた一学期が終わりを告げた。




何かあったといえばあった気もするし、何も無かったと言われればそんな気がするあっという間の時間だった。






「はーい。みんな集合ー!」






「「はい!!!」」






「明後日から長崎の姉妹校の彼杵友愛そのぎゆうあい高校との合宿だから相手方に迷惑をかけないように。それと他県の結果だから知らない人も居るかもだけど、県大会ベスト4のチームだから格上の相手だからこそ色んなことを吸収してね。」






今年長崎県の代表は佐世保中央という長崎では強豪のチームが春に続き甲子園出場を決めた。


だが、佐世保中央を1番苦しめたチームが準決勝の友愛だった。


スコアは11-15で負けているが、4回までは8-3で友愛が勝っていたが投手の大乱調と守備の乱れで結果このスコアになっている。






一言で言うなら打撃特化のチーム。




1番から9番までスイングが豪快で、ヒットの大半が打ちそこないで無理矢理持っていく打撃で準決勝までの4試合で毎試合ホームラン出ていて6本打ってるというのは女子高校野球では考えずらいことだった。




練習試合、公式戦でバント数0。
たまにバントして成功せずに0かと思いきや、企画数も0。
そもそも野球からバントという戦術を排除してるとしか思えないチーム作りと戦法をとってきている。






天見監督と友愛の監督は大学の先輩後輩らしく、友愛の監督が2歳年上だと聞いた。


最初戦術を聞いた時面白いなと思ったが、それをやっているのが女性の監督だと知って更に驚いたし、友愛の監督は投手だというのにも驚きを隠せなかった。






友愛はレギュラーのほとんどが2年生で、来年このままパワーアップすることがあれば甲子園に出るのは友愛かもしれない。






合宿には最初乗り気ではなかった俺も、そんな面白いチームと練習出来るとなると少しはやる気にもなった。


梨花や海崎先輩の投手陣がどれだけ通用するのかも楽しみにひとつになっていた。




完全に抑えるのは難しいが、いい勝負にはなると思っていたが勝負はやってみないとわからない。
打たれたら打たれた時に改善点を考えていくしかないし、抑えたら抑えたで自信もついてどちらに転んでも良かった。












「美弥ちゃんババ抜き強すぎー!」






バスの中で定番のトランプで遊んでるようだが、マネージャーの猫田さんを誰もビリにすることが出来ないようだった。






ちらちら見ていたが、さすがいうか表情には一切なにも情報を出さずに情報を得るのも一苦労なようだ。
しかもリアルラックが強いのかカードがいつも少ない気もするが、ババを相手に引かせるその能力の高さ凄いみたいだ。






「マネージャーとコーチで勝負してよ!」






「やだよ。負けたら対したことないって言われるのが目に見えてるやもん。」






「コーチもしかして負けるのが怖いんッスか?野球では勝ててもトランプでは勝てないんッスよね?」




雪山が俺の事を煽ってくるが、まぁ半分は当たってるからなんとも言えない気持ちになってきた。


マネージャーに負けるのが嫌な訳では無いが、彼女の表情や心の揺らぎ、雰囲気はある意味研ぎ澄まされており俺の手には負えない。






有名な芸能人となる人はそれくらいの処世術くらい持ってないとダメなんだろうかと、少しだけマネージャーを尊敬すると同時に可哀想にも思えた。






「なら東奈くん。お互いにカードを5枚ずつもって相手のジョーカーを引いたら勝ちってゲームしないかな?」








「マネージャーもなんだかんだこういう遊びが好きなんだね。いいよ。けど、勝っても負けても1回だけね。」








俺とマネージャーはカードで勝負することになった。


ルールは簡単で、相手の手札の5枚から1枚の当たりを引くだけ。
先行後攻はあるけど、先行がジョーカーを引いても後攻がジョーカーを引ければ引き分けでもう一度らしい。




俺はカードゲームは基本的にやらないことにしている。




将棋など戦略性があって頭の良さが必要なものはやるが、相手の雰囲気の揺らぎや気持ちの動揺が見える俺がカードゲームやるのは卑怯だと思っていた。




「さぁー。東奈くんマネージャーとコーチの正々堂々の対決だぞ!」






とにかく楽しそうに俺に向かって5枚のカードを突き出してくる。


よくある1枚だけカードが離れているとか突き出ているとか駆け引きはしてこなかった。
俺が1番何が嫌かと言うと結構近い距離で、福岡のアイドルと顔を付き合わせないといけないというのが俺にとっては中々きつさを感じる。






まずはカード1枚1枚を抜く動作をして、相手の反応を見る。
ジョーカーなら他のカードよりもやや力が入ってるとか、雰囲気が揺れるとかを期待して5枚のカードに触れ終わった。






「わかんねえ。ちゃんとその5枚のカードにジョーカー入ってる?」




「えへへ。面白いこと言うね。ジョーカーを確認させようとしたのかな?もし入ってなくても確認しようがないよね?入ってるか入ってないか分からないカードから選びなさーい。」






そう満面の笑みで俺に笑顔を振りまいてくるが、一瞬だけ反応した気がする。


多分真ん中から右側の3枚のどれかだろう。
5枚カードを触った時に右から二番目のカードだけやたら力が抜けてて取りやすかった。




抜けやすいということはジョーカーじゃないと思っていたが、4枚も取らせれるカードがあるのにその1枚だけ緩いというのは少しだけ考えずらい。




「右から2番目のカードがジョーカーじゃないんかな?」






「そう思う?私も東奈くんなら右から2番目のカードがジョーカーだと思うかもだし。」






雰囲気の揺れも顔からの情報量もない。
可愛らしい顔でえげつないことをしているのに気づいている人はいるのだろうか?






「そこまでいうならその右から二番目のカード引かせてもらうね。」






俺はここまで迷ったが、最後はあっさりと決めると心に決めていた。
急に最後の決断を簡単に決めてしまって行動に移した時に、相手にとって好都合なら突如舞い降りた幸運、逆なら不幸になるのか。






俺は躊躇なく右から二番目のカードを手に取り、一気に抜いた。






と俺もマネージャーもそう思っていたが、俺の手が完全に抜き切る寸前でカードを止めていた。


彼女から微かに勝利を確信するような気持ちの緩みを寸前に感じ取ってしまったのだ。






こうなってしまうとこのカードをこのカードまま抜くことは出来ない。
マネージャーの顔をちらりと見たが、少し驚いた表情といつもの笑顔が目に映った。






「取らないの?」






「ごめん。そのカードは取らないよ。」






俺はここまで来たら完全に自分の相手の雰囲気を読む力を信じ切る事にした。




俺の雰囲気を読める力はみんな知っていると思われがちだが、俺はほとんどの人に話していない為、読心術を使えると思われている。






俺はゆっくりとカードから指を離した。




その一瞬で光明が見えた。
指を離す瞬間はそのカードを見ているが、カードから指を離してその手をマネージャーから遠ざかりながら、一旦考え直す時間のほんの一瞬気が緩む時間がある。




取るときやめくる時にはイカサマや結果を見るために集中してカードを見つめるが、カード手離したり、場に捨てたり、カードを配り終えて手札に集中する瞬間は誰もが自分の方に意識を向ける。






俺が手を離して一瞬そのカードから目を離そうとした時、マネージャーは俺が手放したカードを手札に戻そうとしていた。






「りゅー。勝負は決着が着くまでどちらが優勢とか劣勢なんてないよ。」






俺は昔姉に言われた勝負での注意点を思い出した。


勝負はどれだけ優勢でもなにか間を取られたり、なにか相手に策を講じる時間を与えた時点で、それまでの優勢がそのまま優勢ということはないと姉がよく言っていた。






俺の目の錯覚ではなければ、俺が目を離す寸前にさっき戻したカードと真ん中のカードを目に戻らぬ早さで入れ替えたように見えた。






俺は自分の目の錯覚と思えず、1度戻したはずだったカードにもう一度手を伸ばしてそのカードを取った。




すり替えられる前に俺は右から二番目のカードを取って合っているかどうかカードを見た。






「流石だね。」






やはり最初取ろうとしたカードはハズレで、戻したところに当たりのカードを差し替えた。
どうやったのか分からないが早業で、目を切っていたら入れ替えていたのに気づかなかっただろう。






別に入れ替えてはいけないというルールはないし、あれも凄い手先の器用さから来るものだと思ったがバレてもニコニコして動揺を感じられない。






俺が分かっていることはあのカードをすり替える早さも加わったら絶対に長引いたら負ける。




もし勝ちに行くのであればここでジョーカー以外を引かせるしかない。
だが悲しいことに攻めることは得意でも、受け身になったら俺は多分基本的に何も出来ないだろう。






「東奈くん。次はこっちの番だね。」






マネージャーが何をしてくるかは分からない。
多分揺さぶりとかそういう類のものだろうが、それを俺がかわせるとも思えないし、シンプルにいくか。






俺はカードを5枚とも伏せてカードの中身を見ないようにした。


それがなんの攻略法になるかと言われれば分からない。
何故かと言うと俺はカードゲームをしたことがないし、セオリー通りにやって勝てる気もしない。






「ここから選べばいいの?」






そう言うと俺に揺さぶりをかけることも無くど真ん中のカードに手を伸ばした。


真ん中のカードを手に取って、めくらずに俺の方をチラ見してきた。
その表情は確実に狩りを行ってきたであろう狩人のそのもので、アイドルの顔ではなかった。






俺は負けを確信していた。
何故かと言うと真ん中のカードがジョーカーだからだ。
パッと見てカードに傷もないし、目印をされているわけでも無いが何故か真ん中のカードに手を伸ばされている。






「様子見だったけど、このままこのカードにするね。」






俺はあんなに時間がかかったが、マネージャーはあっさりとジョーカーを引き当てた。






「次は俺がまた当てないといけないのか。もう流石に2回目は無理だと思うんだけどな。」






「そう言わずに当ててみてよ。はやらないから純粋に東奈くんの力見てみたいなと思って。」






ここまで来ると強いとか言うレベルではなく完全にマネージャーのお遊びに付き合わされてる。


負けたくないという気持ちはあるが、カードゲームという観点でいえば心理的なこと、カードを上手く操る技術的なことで言えばお話にならない。






俺はカードを1枚ずつ触れていき、相手の雰囲気の揺れを感じようとしたが無理だった。


どのカードに触れても等しく喜びの雰囲気が溢れ出ているし、俺の事を品定めしようという気持ちがひしひしと伝わって来るのはもはや勝負とは言えないだろう。






選んだカードは真ん中。
策はいくつか試したが、最後に俺が決めたのは一回目の勝負どどちらもジョーカーを真ん中に置いたという理由だけで真ん中に決めた。






「残念ー。それじゃそのカードここに戻して。」






当たり前のように俺の狙いは外れたし、向こうも俺が外したことに対して何も思っていないようだ。


俺は言われるまま外したカードを真ん中に刺し直してマネージャーはそのまま俺にカードを渡してきた。






『なるほどね。これじゃ俺が勝てるわけないよな。』






彼女はカードを一切いじらずにこちらにそのカードまま渡してきた。


俺が戻したはずの真ん中のカードがジョーカーをになっていた。


理屈はわからないし、俺が引いたカードに細工されていてジョーカーを引いたのにそれに気づかなかった?




謎は深まるばかりで、そのままの気持ちでで勝負を再開すればもちろんのこと為す術なくジョーカーを当てられるだけであった。






「東奈くん楽しかったよ。何かを感じとれる相手と勝負したの初めてだよ。偽物な私じゃ卑怯な気がしたけど勝負は勝たないとダメって思うから。」








いつもの明るいマネージャーではなく、そこには少しだけわかって欲しくてもわかって貰えない普通の少女がそこにはいた。






「いいんじゃないかな?そういうマネージャーを信頼してるチームメイトもいるし、分かり合えなくても分かり合おうとする人が居れば。」






俺はそう言うとマネージャーの勝利を嬉しそうにしている雪山やその他少数の方を指さした。


マネージャーもその方向を見て何となく恥ずかしそうだけど、嬉しそうな雰囲気を今日初めて感じられた。






そんなことしてる間にもいつの間にかバスは目的地に着いていた。






「みんなー!友愛がいくら強くても気持ちで負けずに行くぞ!」






「「おーー!!!!」」






大湊キャプテンの気合いを入れ直す声に応じてみんなももう一度合宿に来たという気持ちを入れ直したようだ。








「よし。そろそろいくか。」






俺はそのままバスを降りて友愛が待つ合宿場へと向かった。









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