元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

転校生!





木曜日の休みがやっとやってきた。
これから4日間自分の好きなように時間が使えると楽しみにしていた。


これまではみんなのことを考えて指導もしてきた、スカウトも手伝われながらなんとかやってきた。


その対価がこのおやすみだと考えると何故か少し泣けて来る気もする。




今日は朝から教室の中が少しだけ騒がしかった。
なんでかというと噂ではとてつもない美人の女の子がこのクラスに転校してくるという話だ。




この学校は早くも4人目の転校生が来るということになった。
結構積極的に他の高校で合わなかったりしたら、転校してきてもいいですよという感じのスタンスみたいだ。
かといって、女の子ばかりの学校に男が好き好んで転校してくるとは思えない。




女子が95%いるからハーレムだとかいう友人もいたが、逆に女子を敵に回すと95%が敵だと思うとやっていいことと悪いことがはっきりと分かるようになった。








「はいはーい。みんな席について!今日は転校生を紹介しますねー。」






噂は本当だったようだ。
まぁあんなに詳細な噂がガセだとも思えなかったが。






俺個人的には男子が来てくれると嬉しかったけど、女子なら目の保養になるような美人が来てくれるなら俺としてもそれは万々歳だ。


俺も男だから美人な女の子がいたらテンションも上がるし、見てるだけで幸せな気持ちになれるならそういう女の子が沢山いた方がいい。




そんなことを考えていると、ガラガラという音と共にとてつもない美人が教室に入ってきた。
流石にここまでとは思わず、女子でさえうっとりと彼女のことを凝視している。






「はじめまして。親の仕事の関係で北海道の苫小牧農林高校から来ました、三海花桜梨みうみかおりです。全く知らない土地で困ることも多々あると思うので、みなさんに色んなことを教えてもらいたいです。よろしくお願いいたします。」










パチパチパチ!!






何か凄い演説が終わったかのような全員からの拍手が鳴り響いた。
俺も拍手はしておいたが、俺には自分のこれまでの人の雰囲気を読んできた長年の勘が彼女はやばいと告げていた。






何がやばいかというと、明らかにみんなに注目されて多少なり緊張するのが普通の一般人。
緊張し過ぎたりするのもあがり症と言われるが、普通の人と言えるだろう。


彼女からは緊張という文字の欠片すら感じないほど、堂々としており周りから見たら美人でかっこいいと思うのだろうが、俺から見るとただただ不気味だ。




かのんや氷のような我が道をゆくタイプなら緊張感を感じないのは分かる。
だが、この2人には別の他の雰囲気を感じる。
とても強い意志と言えばいいのだろうか?




が、緊張したりしなかったりするタイプでもう1つ厄介なタイプもある。


それが俺のような人の気持ちをなにかしらの理由で感じられる人。
善人ならいいが、そういうのを逆手にとって簡単に人を傷つける人も普通にいるからそういう人はちゃんと警戒しないといけない。




そして俺が1番苦手なタイプが多分三海さんだ。
心が誰よりも強く緊張を押しつぶすのほどの芯が強さ。
他人を認めようとしないという強情なところも見受けられる。






美人だけど見てるだけにしておこう。






俺は変なことをしないことを心に決めて彼女から目を離そうとした。


その瞬間嫌な視線を感じた。
その視線の先には信じたくないが転校生がいた。
だが、その視線は気のせいだったのかと思うくらい一瞬だった。






『うーん。考えすぎか。』






彼女は俺の隣を通り、柳生の隣の席に座った。
柳生は相変わらず人付き合いが苦手なのか悪いのか、隣の転校生に挨拶さえしようとしない。






ホームルームが終わると転校生の周りに集まって色んなことを聞きに行っている。
柳生はバツが悪いのか珍しく俺のところにやってきた。






「おはよ。転校生とか私の手には負えないよ。しかも普通の女の子じゃないでしょ?」






「普通じゃないか…。まぁ俺もそれは否定できないかもな。悪い人がいい人かわからないが俺はあんまり関わりたくないかもね。」








「奇遇だね。東奈くんとはたまに似たところあると思ったりもするけど、友達として仲良くしたいとは思えないな。」






「おい。一言余計だぞ。まぁけど似てるとは思うことあるけど、似てるから仲良くなれるとは限らないしな。」






柳生も俺もそれには納得していた。
同じキャッチャーだからなのか、そもそもの性格が少し似ているのかたまに似たようなことを感じていたり、思ってるんじゃないかも思うことも少しはあった。






「ありきたりな質問かもだけど美弥マネージャーと三海さんってどっちが好みなの?2人ともベクトルが違って人気を二分しそうだけど。」






「ならありきたりな答えを返すけど、柳生がいいって言ったらどうする?」






「はぁ…。だから東奈くんとは仲良くできなさそうなんだよね…。」






明らかに俺の返答に飽き飽きしている。
柳生に冗談を言ったことほとんどないのにこの冷たい目線は一体何なのか。




「その反応はなんだよ。まぁ顔だけの話なら三海さんのが好みだけどね。性格は直感だと合わないというか警戒したいタイプだけど。」






「三海さん美人だもんね。マネージャーの方が愛嬌があって私はすごい好きなんだけどね。」






柳生は愛嬌抜群で要領のいい猫田さんと仲がいいみたいだ。
2人はお互いに全然違うタイプだからこそなのだろうか。








俺と柳生は内容がありそうでなさそうな話をしていたが、それに混ざることなく氷がこちらをじっと見つめていた。
今日の彼女はいつもみたいに眠いと言わずに、ボケっとしてるということは本当に眠いかご機嫌ナナメなのだろう。








「ねぇ、そこのお二人さん。ちょっといいかな?」






柳生と俺の話に割り込んできたのはまさかの三海さんだった。
あんだけさっき囲まれていたのに、それを抜け出して俺達の方に来るなんてなにか嫌な予感がする。






「三海さんだよね?よろしく。東奈龍です。」




「私は柳生愛衣。よろしくね。」




「時任氷ぃ…。ガタッ。」






何故か急に入ってきた氷に驚いたが、そのまま机に突っ伏していた。








「いきなりだけど2人は付き合ってるの?」






この質問はなんだ?
俺たちが付き合っていないことを知っていて多分この質問を飛ばしている。








「付き合ってるよ。最近からだからみんな知らないと思うよ。」






俺は一瞬だけ柳生と目を合わせた。
柳生のことを完全に無視し、完全に個人で勝手に判断して付き合ってると平然と嘘をついた。






「そうなの。あんまり人に言ってないから言いふらさないでね?」






拒否してくるかと思ったらまさかの乗ってきて俺の方が困惑した。
なかなか柳生もいい性格をしている。
俺から見ても嘘を感じられないし、顔にも一切出ていない。






「へー。初対面から嘘ついてこられるとは思わなかったなぁ。」






普通にバレた。


付き合ってないと向こうはわかっていて話をしてきているから当たり前と言えば当たり前だ。
にしても嘘だと言い切るその精神的な強さというか図太さには感心する。






「三海さんを試したかった訳じゃないよ?鋭い人かなって思って嘘ついちゃった。ごめんね。」






俺が口を開く前に柳生に先手を打たれた。
最近俺は野球部の子達に先制で逃げられることが多くなってきた。
特にこのような場面で逃げられると俺がえらい目に遭うのは誰が見ても明らかだ。








「いいのいいの。私も意地悪なこと言っちゃったしね。それで柳生さんには悪いけど、東奈くんとお話したいけど借りてもいいかな?」






普通によくない。
出来れば早くあのクラスの輪の中に入って大人しくして欲しいのだが…。






「いいよ。私は夏実とか円城寺さんと話してくるからごゆっくりね。」






そう言い残すと三海さんに見えないように俺の背中をぽんと叩いて逃げてしまった。






「ふぅ。とりあえず座って話そうか。わざわざ立って話すことも無いしね。」






「そうね。腰を据えてお話しましょ。」








俺と彼女の雰囲気は男女の甘い雰囲気とは全然違ったのか、クラスメイトも近づけずにいた。
俺が最大限に警戒してるのもあるが、彼女からもなにやら鋭い雰囲気を感じるのだろう。






「それでわざわざ俺と話したいって俺がイケてる男子だからじゃないよね?」






あんまり使いたくない自虐を踏まえながらの牽制のジャブを打つことにした。






「ふふ。そうって言ったらどうなるのかな?」






「別にどうもならないよ。多分わかってるだろうからぶっちゃけて言うと美人だけど、俺から見たら怖い。なにか企んでそうなその強い意志を感じる目。」






「あはは!よく分かってるじゃん。けどね、今は本音で東奈くんと話がしたいだけ。」






彼女の気持ちがよく分からないし、雰囲気も相当読みずらいし、なにより感情のブレを感じられないのはどうなってるんだ?
さっきは笑ってたのに、楽しいという雰囲気に少しはブレてもいい気がするがなにか強い芯で動かないと思えるくらいに感情の起伏が感じられない。








「はぁ。まぁとりあえずはそういうことにしておこうかね。それで三海さんって野球してた?俺がコーチだからまず品定めに来たとしか思えないんだよね。体つきもその顔と雰囲気の割にはしっかりと鍛えられる気もするし、それに右手のマメが気になるんだけど。」






「流石によく見てるのね。けど、残念ながら私がやってるスポーツはバドミントンよ。身体が鍛えられてるのは私のポリシーだから。美人で細ければいいって思えなくて、スポーツをやってしっかりと身体を鍛えて筋肉が多少ついても気にもならないし、そっちの方が普通じゃないの?」






まぁ彼女の言ってることに嘘はないだろう。


バドミントンをやってるというのも全く嘘とは思えなかったし、野球のことに対して図星ならほんの少しでもなにかリアクションがあるかと思えば一切なかった。
体つきについては納得出来たし、かなり色白だからこそ室内競技のバドミントンと言われて納得出来た。








「それは信じるとして、なぜ話したことも無い俺に話しかけてきた?予めなにか俺の情報を知っていたとしか思えないけど。」






「本当に鋭いというか細かいのね。逆に知らなくていきなりあなたに話し掛けたりしないよね?野球部の監督さんに聞いたの。1年生の中で私が頼れる人はいますかって質問に先生は即答であなたの名前を出していたわ。」








監督ありがとうございます。
ここまで信用してくれて俺はとても嬉しいです。
けど、彼女に俺を推薦したのは間違いだと思います…。






「あと1つ聞きたいことあるけどいい?」








ここで俺の事を助けるチャイムが鳴った。
さすがにこれ以上時間を無視して質問を続けるようなタイプではないと思うが…。








「なら放課後ね。右も左も分からない転校生を見捨てたりしないよね?」






「え…。」






「休みなのは知ってるから。今日くらい付き合ってもいいんじゃない?最悪美人を連れてると思えば我慢もできると思うけどなぁ。」








俺はここまで言われるとさすがに断る理由もない。
どうしても外せない用があるなら断ってもいいが、ここは彼女のお願いを受け入れよう。






「わかったよ。放課後どこかに出掛けながらでも話しようか。どこに行くかは考えおくよ。」








「ありがと。それじゃ放課後によろしくね。」






はにかんだ笑顔は流石に眩しいほど可愛い。
顔がいいっていうのはこんなに得するものなのかと改めて思うのであった。






「コーチが練習サボってデート。じとー。」






「俺は正式に休みもらってるし、氷もさっきの話ずっと聞いてたからわかってくれるだろ?」






「みんなに報告しておく。おやすみ。…すやすや。」






もうこうなったら俺の話を聞いてくれないのはわかっていたので、俺も疲れて氷のように机に突っ伏した。


珍しく俺はそのまま寝てしまい、氷と一緒に怒られるのであった。






そして放課後。
一旦しれっと帰ったらバレないんじゃないかと思い、忘れてたという最強の言い訳を引っさげてトンズラした。






「どこ行くのかな?忘れてたとかいう言い訳はなしだよ?」




「すまん。しれっと帰れるかもしれないと思って。」






俺の考えることなんて彼女には簡単に読まれていた。
あんまり考えないようにしていたが、女の子からしたら俺の性格は読まれやすいのではないだろうか?






俺はあっさりと女の子に捕まってしまい、どうなるか分からない放課後が始まってしまうのであった。







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