元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

お弁当!





「なるほどね。けど、龍くんそれで大丈夫なの?スカウトしてきた人にこれまでなにも文句もないし、1年生たちはよくやってると思うから信頼してるけど。」




次の日俺は朝から職員室に出向き、監督に昨日のことを伝えていた。
流石にあの条件でスカウトしたことに苦笑いして、困った表情をしていた。






「大丈夫と思いますけどね。試合中は支持に従うってしっかりと言ってましたし、監督さんもそれは間違いないって。最悪自分や監督の指導を聞かなくても守備固めとして使うなら最高の守備型の選手だと思います。」






「はぁ…。また一番最初に結構な問題児をスカウトしてきたもんだね。けど、それくらいしてきても光さんの弟なら凄く納得出来るから諦めもつきやすいよ。」






そういうと俺が姉から何かを押し付けられたと同じような心情になっているのだろう。
俺も多分こんな雰囲気になって、こんな顔をしているのだろうと思って逆に申し訳なくなってしまった。






「申し訳ないです。それではよろしくお願いしますね。」






「気にしなくて大丈夫よ。それじゃ引き続き頑張ってね。あ、上木和水さんだっけ?その子の話聞く限り、接し方とか仲間と上手く出来るかってかなり難しい問題になると思うけど、多分携帯で取ってくれてるピッチングとかバッティングとか見る限り光さんのことを一瞬過ぎらせてきたから、かなりいい選手になれると思う。是非スカウト頑張って!」








「わかりました。そこらへんは慎重にゆっくりとやっていきます。監督もスカウト頑張ってください。」






「あ、私も昨日正式に特待生として来てくれる子が2人決まったよ。ごめんけど、1人がA、もう1人がBにしちゃったけど、私なりの資料とこのディスクに映像も入ってるから、それを見たら少しは納得してくれると思う。」






さすが監督。




去年も氷と柳生を連れてきてくれたが、その2人は新チームでもレギュラーにかなり近い2人だ。
監督が連れてきた選手はどんな選手なのかとても楽しみだ。






「じっくりと見させてもらいますね。それじゃホームルーム始まるので失礼します。」






「うん。それじゃ、勉学もしっかりと頑張ってね!」






俺は一礼して職員室を出ると、そこには大湊先輩が俺の事を待っていた。




「おはよう。東奈コーチ。あんまり今時間ないから昼休みに部室前に来てくれる?ちょっと話があって。」






「おはようございます。キャプテンがわざわざ自分を探してたんですか?」






「そんなとこだね。別に部室でどうこうしようとかじゃないから安心して。私個人は君の指導とか野球に対する姿勢や相手を分析する能力を高く評価してるし、私にもぜひ指導してもらいたいと思ってるしね。」






大湊先輩は試合中でも俺にちょこちょこ質問してきたり、球種のサインでも迷うことなく信じて打ちに行ってくれたりしていた。
瀧上先輩と大湊選手は俺のことを信頼してくれてる先輩と言ってもいいのかも?






「わかりました。昼休みに部室前ですね。」






「うんうん。それじゃまた後でね。」








俺はまた軽く一礼すると向こうも軽く手を振って2年の教室のある方へ戻って行った。


一体大湊選手は昼休みに部室前とか人がいないところを指定して何をするつもりなのか?
流石に闇討ちされたりはしないだろうが、相手が女子だから尚更少し不安になるところはある。






「あら。おはようございます。大湊キャプテンに呼び出されてましたね。」




「あ、円城寺さん。おはよう。」






後ろから現れたのは金髪を優雅に靡かせながら、今どきのハーフタレントの年齢問わずタメ口とは真逆で、誰に対しても丁寧な口調がいかにもギャップ萌えしそうだといつも思わせる、同じクラスの筋肉美少女の円城寺緒花だ。






「昼休みあたしも着いて行ってもいいでしょうか?大湊キャプテンは別に隠すようなことが無ければ構わないと思うのですが、どうでしょう?」






俺は少しだけ悩んだが、向こうは一人で来てと俺に言わなかった。
もし、誰にも聞かれたくない相談だったらこんなところで俺を待たずに、人が少ないところで話をして呼び出せばいいのだ。




「いいんじゃないかな?もしかして席外してって言われるかもしれないけど大丈夫?」




「その時は大湊キャプテンにしっかりと理由をお話してもらいます。」




「まぁ大丈夫と思うけどね。それじゃクラスに戻らないと野球部はって怒られるよ。」






俺と円城寺はゆっくりと2人で教室に向かった。
そういえば、2人で話すこと自体あまりなかった気がする。
スカウトした時もなんだかんだ月成が割り込んできて、月成は何者なんだって思ったことから始まってクラスでも大体夏実と2人でいるからこうやって話す機会があってもいいだろうと思っていた。






「緒花ちゃんおはよー!あ、東奈くんもおはよ!」




教室に入ると夏実と蓮司が話していて、そこの間に円城寺が座る形になった。
この3人は咳が近い事もあり、俺の友人で話しやすい蓮司とも仲良くしている。






「龍、野球部休みって夏実ちゃんから聞いたぜ。土日どっか行こうや。」




「そうだな。もしなにも無ければたまには遊びに行くか。」






野球の試合を見に行かないと行けないと分かっていたが、まぁいいやと思いながら守れそうにない約束をしてしまった。


それを察してかいきなり変なことを言い始めた。






「スカウト活動してるんだよな?なら土日試合みにいくんだろ?俺も着いて行っていいか?」




「え?お前が一緒に?別にいいけど、急にどうした。」




「俺も野球してたし、お前がどんな選手をスカウトするのか1回くらい見たくてな。桔梗と3人で行くか?」




「桔梗ちゃんがいいって言えば行ってもいいけど、つまんないとか言ったら流石に怒るからな。」




「大丈夫大丈夫。俺は口はうめーからもした助け舟出せそうなら助けてやるぜ。」






俺はこいつの口のうまさにはこれまで大概驚かされてきたから、もしかしら役に立つ瞬間が来るかもしれないと一瞬だけ思った。


昨日の前島さんのときも蓮司がいたら、もっと上手く話を進めてどうしてそうするのかまで聞けた可能性すら考えられる。




「期待してないけど、試合見に行くなら連絡するし行かないなら遊びに行こうか。」






「OK。緒花ちゃんと夏実ちゃんも一緒に遊びに行く?」






こいつのナンパテクニックに俺が使われた気がしたが、蓮司は女の子をたぶらかしたり侍らせたりしたいのではなく、純粋に色んな人と楽しく遊んだりするのが好きなのだ。






「おはよー。ねむねむ。」




「おはよ。そんなこと言ってないでもうホームルーム始まるから起きなさい。」






俺は席に着くといつも氷の挨拶を返して、すぐに教科書ではなく監督から受け取った資料を開いて内容確認をした。








今長谷恋いまはせれん




右投左打のサード。
157cm.48kg。


ハンドリングが上手く、強烈な打球にもしっかりと反応して捕球することが出来る。
守備範囲は程々だが、かなりの度胸を兼ね備えている為強烈な打球に臆することも無い。
強肩で送球も結構正確でサードとしての適性はかなり高い。




打撃はかなりのハイボールヒッターで高めの打率は5割近いが、低めの打率が1割5分くらいで特にアウトコースの低めに弱く1割を切っている。


ただ、長打力もバットコントロールも普通。




「ハイボールヒッターか。高め5割打てるなら中々面白いけど、低めに投げられたらほぼ終わりか。バレないようにしないと上木さんみたいなコントロール抜群の選手と当たると何も出来ないだろうな。」






足の速さは普通で盗塁、走塁も普通。
遅くも早くもないという評価ならサードなら別に問題は無さそうだ。




『うーん。サードとしていい適性を持ってるし、サードにばっちりハマってるから監督はいい選手見つけてきたな。』






俺は資料をざっくりと読んで少しニヤニヤしていた。
後はプレーを実際に見て確認するのを楽しみにしておこう。






もう1人は…。




授業が始まってしまったのであと一人は時間のある時にでも確認してみよう。


とりあえず今長谷さんという選手は身長も体重もほぼ標準だからどんな体型でどれくらい鍛えてるのかも確認したいところだ。






「東奈さん。お昼ご飯食べる前に部室に行きませんか?」




「そうだね。もしかしたら大湊先輩も早く来てるかもしれないし。」






俺と円城寺は昼休みになってすぐに部室に向かった。
流石にご飯食べて先輩を待たせたりするのは流石に俺も円城寺もよろしくないと思ったからだ。






「お。円城寺も着いてきたのか。」




「キャプテンこんにちは。あたしもここに居てもよろしいでしょうか?」






「全然大丈夫だよ。桜、出てきていいよ。」






キャプテンが桜と呼ぶと物陰からこちらを伺うように進藤先輩が現れた。
前も紹介したが、元々サードで末松元キャプテンがサードだった為ファーストを守っていたが桔梗にファーストをとられてしまった少し運の悪い先輩だ。






「こ、こんにちは。」




「進藤先輩こんにちは。」






進藤先輩には弱点があった。


小中と女子校に通っていて、野球をするために白星高校に入学したみたいだが、まさか男性の俺がコーチになると思わずに苦労してるみたいだ。
簡単に言えば男性恐怖症というやつだ。






「それで昨日と一昨日、あれだけ練習してる1年生が誰もグランドに来なかったからおかしいと思って話を聞いたら、スカウトする選手をみんなで探してコーチを助けようって話を聞いてね。それで桜が君にいい選手に心当たりがあるから話したかったらしいけど、2人じゃ無理って言ってきたからここまで来てもらったって感じ。」








なるほど。
確かに男性が苦手な進藤先輩が俺をここに呼び出して二人で話しするなんて無理だろう。






「わかりました。それで、進藤先輩が心当たりある選手ってどんな選手なのですか?」






俺が進藤先輩を見ると少しだけ後退りしたが、逃げ出すギリギリのところで踏ん張った。
俺は隣にいる円城寺に代わりに話を聞いてもらおうと目配せをしたら、それをちゃんと察したのか俺の少し前に出て代わりに話をしてくれた。






「進藤先輩。大丈夫ですよ。どんな選手なのか名前とかゆっくりでもいいので教えて貰えますか?」






「う、うん…。名前は油布美紅ちゃんって子なんだけど…。美紅ちゃんっていう感じじゃないけど…







油布美紅ゆふみく
俺のスカウトノートにも名前はあったし、その名前はよく覚えている。
そのチームの練習と試合を見に行ったが、怪我しているのか1度もプレーを見た事がない。




何故名前を書いているのかというと素晴らしい体格を持っていた為、マークはしていたがプレーを見ないことには分からないことだらけだ。






「175cmくらいある選手ですよね?去年は怪我してたのか、練習も見学してて試合にも出てなかったのでわからなくて。」






「え…。そうなんだ…。」






進藤先輩はガッカリするしたような顔ではなく、油布さんのことを心配しているような顔をしていた。






「それなら東奈さん。進藤先輩に聞いて練習今日見に行って見ませんか?どんな選手かあたしも気になるので。」




「それなら私も行っていいかな?円城寺と東奈くんともゆっくり話す機会少なかったから話してみたいしね。」






「わ、わたしもいく!美紅ちゃんの様子も気になるし、1年の時から凄いパワーでボールを飛ばしてたからどうなってるか気になるし…。」








進藤先輩は着いてきてもらえると助かるが、俺も一緒で大丈夫なのだろうか?
いや、俺がいないとなんの意味もないから行かないという選択肢はないのだが。






進藤先輩は学園のアイドルと言われている。
確かに風貌だけ見るとかなりの美少女と言えるだろう。
猫田マネージャーも元アイドルで可愛いと思うが、どちらかというと愛嬌があって芸能人という感じが伝わってくるプロの可愛さな感じがする。




こんなことマネージャーに言ったら怒られると思うが、進藤はダイヤモンドの原石と言えばわかりやすいだろうか?






「行くのは決まったとして、どこで練習してるの?それによっては早く行かないと行けないだろうし。」






「遠くないよ。電車で30分乗ってそこから20分くらい歩いたところに練習場があるよ。今日水曜日だよね?変わってなければ練習日だから見に行けるよ。」






俺は練習場を知っているが、一人で行く訳にも行かず今日も4人で選手を見に行くというのもかなり目立つし、大変だが決まってしまったことにとやかく言うことも無いだろう。








「それじゃ、放課後に箱崎駅でいいですかね?多分4時くらいには電車乗れると思いますけど。」






「わかった。それじゃ放課後箱崎駅で待ち合わせで。」






俺たちは放課後に練習を見に行く約束をして、すぐにお昼ご飯を食べに教室に戻ることにした。






「東奈さん。お昼用意してないのなら私と部室前でお弁当を食べませんか?」






「いつも学食だからもしお弁当とか食べさせてくれるなら食べさせてもらおうかな。」






俺は急に人生で初めて女の子のお弁当を食べることになった。
目の前に現れたのはかなり大きめの立派な日本の漆塗り?というもの?の2段になった重箱か出てきた。


その横にはティーセットみたいなものも現れていつも使っているスポーツドリンクを飲むためのティーカップ。




「おー!立派な弁当箱に中身のかなりしっかりとバランスの考えられた美味そうなおかずと、色んな味のおにぎり!見た目が美味そうだと食欲も出るよね。これは円城寺さんが作ったもの?」






「そうですよ。今日は最初から東奈さんと昼休みに二人でお食事をしようと思って用意してきたのですよ。あんまり深く話したこともなくて、私のプレーについても色々と聞いてみたかったのです。」






「そうなのか。それじゃ遠慮せずに頂きます。」






卵焼きをまず最初に食べてみた。
ほんのりと甘めの卵焼きだった。


味はかなり美味しいし、この料理を1から作ったと思ったら円城寺は相当な料理上手だなと感心しっぱなしだった。






「卵焼きもおにぎりの塩加減とかもいい感じだしお弁当なのが勿体ないくらいだよ。出来たてだったら更に上手いと思う。」






べた褒めし過ぎたのか流石に恥ずかしそうにしながらも、お上品に弁当のおかずを食べていた。






「あたし、野球上手くなってるのでしょうか?去年硬式に慣れるための練習場に行ったり、東奈さんからもらったメモ通りに練習してきましたが、力ばっかりついて野球が上達してるとは思えないのです。」






「そういうことね。野球が上手くなってるかと言えばまだ上手くなってないと思うよ。けど、それはレギュラーで出てる桔梗やかのんにも同じことが言えるんだよ。まだ入学して3ヶ月で先輩達がいる中で、しっかりと練習出来ずに基礎練習ばかりやらせてるからそう思うかもしれない。」






「上手くなるっていうのは難しいことではないけど、それを自分で実感するのはとても難しい。
打撃練習で10球打ってヒットコースに飛ばせるようになるのが、4球から5球になった。
ノックで平均10球連続エラーしないのが11球に伸びたとか少しの差を自分で実感ってなかなか出来ないんだよ。」






俺の話を目を逸らさずにじっと見ている。
俺はお腹がすいてるので、軽くつまみながら口の中に物を入れながら喋らないように気をつけていたが、食べてる俺が悪いような気もしてきた。






「円城寺さんも食べながら聞いていいよ。あんまり見つめられると恥ずかしいし。」






「あっ!ごめんなさい!つい…。」








そういうと顔を直ぐに逸らして弁当を結構な勢いで食べ始めた。
そこまでしなくてもいいのにと思いながら話を続けることにした。








「自分が上手くなったとか何かできるようになったとかは、これまで出来なかったことが出来るようになると上手くなったと感じられると思う。
円城寺さんはレフトには練習でホームランに打ってるけど、センター、ライトには1本も打ったことないよね? 
筋力とかパワーとかは申し分ないけど、それでも桔梗みたいに広角にボールを飛ばせないって言うのは遠くに飛ばす技術をまだ会得してないからなんだよね。」








「そういうのを会得したら上手くなったと言えるのでしょうか?」






「それはわかんない。円城寺が自分で達成出来たと満足出来れば上手くなったとも思えるだろうし、こんなんじゃ足りないと思えば上手くなったとはおもえないんじゃないかな?
ただ、出来なかったことが出来た時にすぐに出来るようになったからと言って練習を辞めたらだめだよ。
それを当たり前にできるようになって一流半。試合で出来るようになって一流の技術と思ってくれたらいいよ。」






円城寺さんは俺の話を聞いてとても納得してくれた様だ。昨日の凛や美咲は全然納得してくれてなかったので特にそう思えてるのかもしれない。






「そのためには練習しないといけませんね。その時はご指導の方をよろしくお願いしますね。」






「それが俺の仕事だからね。とりあえず秋の大会まではみんな横1列で基礎的な練習するけど、秋が終わったら各個人別の課題に取り組んでもらうと思うから、その時にどれだけ頑張れるかだね。」








俺と円城寺は談笑しながら、美味しすぎると思える程の弁当を平らげた。
こんな弁当毎日食べられなら食べたいと思ったが、これを作るのにも早起きしないといけないならその分練習した方がいい。






「もし、練習が無い日とか気が向いたらまた弁当ご馳走させてくれたら嬉しいな。美味しかったよ。ありがとう。」






「お粗末さまでした。」






そう言いながらも少し頬を赤らめながら靡く金髪の下の笑顔は天使のようだった。









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