元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

レギュラー!





この何ともしれない緊張感は俺にも痛いほど伝わってきた。


初めての優劣がつくスタメン発表。
試合の結果よりもここで名前を呼ばれるかが気になるのだろう。




 

「よし。スタメン発表する。」






1試合目とは違い名前を呼んだ後に声をかけることはしなかった。
みんな呼ばれたらそれなりの気持ちを持ってプレーしてくれるという俺なりの信頼があったからだ。






「1番セカンド四条かのん。」
「はいはーい!」


「2番ショート月成。」
「え?は、はいっ!」


「3番レフト時任氷。」
「はい。頑張る。ぺこり。」


「4番ファースト橘桔梗。」
「はい。」


「5番サード中田美咲。」
「はーい!!」


「6番ピッチャー西梨花。」
「はいよ。」


「7番キャッチャー柳生亜衣。」
「はい。」


「8番ライト七瀬皐月。」
「ライト?は、はい。」


「9番センター王寺凛。」
「はい!…よしっ。」






「今は俺はこれがベストだと思ってる。けど、10月に行われる1年生大会だとまたメンバーは変わってくると思うし、レギュラーを取るという気概がないなら多分これからスタメン発表で名前を呼ばれることは無い。だから、呼ばれなかった人は諦めずに更に練習頑張るように!」






「「はい!」」






スタメンに名前を呼ばれなかった子は凄く悲しそうな顔をしていたが、俺の言葉にハッとしたのかすぐにやる気が目に見えた。






「七瀬どうした?ライトがそんなに気に食わないか?」




「いや、そういう訳じゃないんですけど…。」




「俺はメインポジションの夏実よりも七瀬を評価した。試合に出たくないなら夏実にレギュラー譲るって言ったらどうだ?」




「え?そ、それは…。」




七瀬は一瞬夏実の方をみて悔しそうにしている姿を見て、自分が間違っていることに気がついたみたいだ。




「出ます。いや、出させてください。」




「分かったらいいんだ。けど、キャッチャーも勿論諦めるなよ。」




「分かってます!」




いつもみたいにすました感じかと思ったが、力強く宣言したので少し安心した。






緊張感があったのは試合前のレギュラー発表だっただけで、試合が始まると気合十分だったのか試合途中で大差をつけてリードしていた。




練習試合なのでコールドは無しというルールで試合を開始したため、現在5回表のうちの攻撃で11-0で試合は続行していた。




「七瀬、ここでもし打てなかったら次の回夏実に交代するからね。」








そう伝えると何も言わずにバッターボックスへ向かっていった。




カキッ。






気合十分過ぎたのか初球を詰まらせてサードゴロ。
ここまで1人だけ3打数0安打だったからまぁ仕方ないだろう。




「夏実、次の回から七瀬の代わりにライトの守備ね。」






「は、はい!」






カキン!




「くっそ!また打ち損じた…。」






この試合もう1人全然だったのは、9番の凛が足の速さを生かせない3打席連続の内野フライ。


瞬足は毎回ゴロを転がせとは言わないが、チャンス2回でランナーを進めるバッティングも出来ないのはあまりいただけない。




「凛、流石にこの試合のバッティングは良くないからこの回までで交代だ。」






「うっ…。わかりました…。」




「円城寺、凛と交代。それで美咲がセンターで円城寺がサードに入ってくれ。」






「わかりました!頑張らせてもらいます!」






今は試合かなり点差があるし、練習試合だからこうやって変えているが、公式戦だと変えるのも難しいだろう。


しかも女子野球は7回までしかないから3打席目ダメだったらもう手遅れの可能性だって大いにある。




2打席全然ダメなら早いけど4回には変えた方がいいのかもしれないと俺はこの試合で感じでいた。






「交代する2人を貶す訳じゃないけど、試合であんまり良くないと思ったらすぐに交代させるから、ベンチの人も気を抜かないでいつでも試合に出る用意はしておいて。試合に出てる人は変えられないように頑張って。」






「「わかりました!」」






試合は梨花が打たれる気が全くしないまま回は7回表まで来た。




「梨花、今68球だけど代わるか?」




「68球?このまま最後まで行くに決まって…ま、す…。」






「なら最終回もよろしく。」






たまにテンションが上がってる時は敬語を忘れかけるが、俺は試合中は選手たちに無理に敬語を使わせなくてもいい気がしていた。


試合は彼女たちが俺なんかに気を使わずに頑張らないといけないから、試合はタメ口でもなんでも気にしなくていいことにしようか考えることにした。






「柳生、ちょっと。」


「はい?」


「梨花の調子はどう?後、相手のバッターで驚異になりそうなバッターとかいる?俺は今のところあんまりピンと来てないけど。」






こういうのは実際に受けて、間近でバッターを見ているキャッチャーに話を聞くのが1番いい。




「まぁ見ての通り今日はコントロールがいいですね。バッターはあんまり気にならないですかね?あー。3番の人はスイングもはやいし当たれば飛びそうですね。」




なるほど。
俺がベンチから見ているのとあんまり意見に相違がなさそうで一先ずは大丈夫そうだ。








カキイィィーン!!








「たーまーやぁ!」
「たーまーやー!」
「でたー!たまやッス!!」




柳生と話していると、綺麗な金属音の後にあの元気な3人組が急に花火大会が始まったかのようなデカい掛け声を出し始めた。




グランド見ると高校3本目の特大なホームランをかっ飛ばしてゆったりと一塁ベースを回る桔梗がいた。




ホームランを花火と見立ててのたまやだったのか。
それにしてもそんなことよく考えつくなと思いながら、ベンチの最前列で大盛り上がりの3人を見ていた。






「夏実、さっき変わったばっかりで悪いけどちょっと雪山をライトで1回だけ使いたいから交代してくれるか?」






「あ、はい!わかりました!」




とても聞き分けがよくすぐに交代を受け入れてくれた。


今日は夏実は投手もしてライトも1試合目のキャプテンもやって満足してるのだろう。




けど、ちょっとは嫌がる素振りでも見せて欲しかったが、それはそれで困りそうなので良かったのかもしれない。






7回表を終わって15-0。
梨花が高校初完封勝利に向けて最終回のマウンドへ。




俺のスピードガンでは今日のMAX123km/h。
初回に123km/hを出した後は点差が広がったので、省エネピッチングに切り替えてコントロール重視の重きを置いたピッチングを披露していた。






「よーし!ツーアウト!あと一人締まっていくぞ!」




「「ツーアウトー!」」




柳生が全員に声を掛けた。
みんなそれを受けて近くにいる選手に、ツーアウトと親指と小指を立ててジェスチャーと声掛けをしていた。




かのんがキツネのジェスチャーで近くの桔梗にコンコンと言っているのが口の動きですぐに分かった。




桔梗は完全に無視しているので、桔梗が注意してないなら俺もしなくてもいいかと思ってスルーした。






ガコ




最後のバッターが打った打球はかなりボテボテのサードゴロ。


サードから円城寺が前に突っ込んでくるが、足が遅い。
やっとボールを捕って体制を崩しながらファーストへ送球。






「あ!」




円城寺が投げたボールはファーストの桔梗の頭上を遥かに超えて、ライトの雪山の前に転がった。






「西さん…ごめんなさい。」




「いや、全力でやって失敗したんじゃけ気にすることねぇよ。」






謝りに来た円城寺すぐに追い返していた。
すぐに柳生がマウンドに駆け寄って行った。






「おいおい。エラーくらいで何回もマウンドに来んじゃねぇ。」




「そのことじゃない。次の左バッターに引っ張らせてライトに打たせろって指示でてるけど、どうする?打たせれなかったって無視してもいいけど。」






俺の知らないところで俺の指示を無視しようとする柳生であった。






「打たせろって言ってもインコースの甘いストレート投げたらええんか?柳生に任せるわ。」






「まぁ、一応コーチのいう通りに甘いインコースのストレートで勝負してみましょう。」






2人は渋々俺の言う通りにライトにボールを打たせようと努力してくれてた。
狙って打つのはまだ出来るが、狙って内野ゴロを打たせるのまだ出来るレベルだけど外野フライはほぼ運だ。






カキィン!






『お!無理かと思ってたがライトフライだ!』






内心俺はよくやったと思っていた。
指示はしたがほとんど無理だと思っていた。






「おばかちーん!まえまえ!」




「さよ!後ろぉー!」




センター美咲、セカンドかのんが全く違うことを言っている。
あの打球はどうみてもあの定位置から5mから10m後ろだろうが、雪山は前後フラフラしている。




試合が余裕なせいでかのんの悪い所が出ており、ちょっとふざけて雪山を困らせている。
美咲はいつもふざけてたりするが試合はちゃんとしている。




「どっちなんッスかー!」




結局自分の目で見える打球を判断出来ずに、雪山は自分の所に飛んできた打球に為す術なく、打球は頭を越してライト後方にボールが転々と転がっている。






すぐに頭を越されたことに気づいてダッシュでボールを追うが、さっきエラーで出たランナーは悠々とホームイン。






「てめぇ。雪山!!ふざけてんならさっさとグランドから出ていかんかい!」






「違うんッス!騙されたんッスーー!!ウチは悪くないんッスよ!」






流石にピッチャーの梨花はキレてしまった。
雪山は後でこっぴどく怒られるだろうが、かのんもタダじゃ済まないだろう。




「ストライクッ!バッターアウト!」






最後は打たせるとか忘れたようなの気合いの篭もったストレートを投げ込んで、空振りの三振を奪った。






「ゲーム!」






「「ありがとうございました!」」






15-1で勝利はしたが、梨花の高校初完封も消えてしまった。






「おい!雪山とかのんちょっとこっちに来い!」




「えー。なになにー!」


「…………。」






「かのん、あの打球後ろだって分かってんのになんで前なんて言ったんだ!」




「だってねー。おばかちんね、右も左も分からないんだよ?前も後ろもどうせわかんないと思って、どっちでもいいやってなって前って言っちゃった!」






「前後ろくらいわかるッス!かのんが悪いッス!」






かのんの言い訳も考えた言い訳だろうが、雪山のおバカさなら有り得なくもないと思ってしまうところが責めずらい。






「あー。馬鹿馬鹿しい。今度やったらぶん殴るからな。」






そう吐き捨てるとダウンのために柳生を連れてその場を立ち去った。






「お前たち、勝ってるからってあんまりふざけてると試合に出さないからな。」






「はーい。気をつけまーす。」




「ウチは悪くないッス…。」






騙されたとはいえ、飛んできた打球にあれだけ反応出来ないとなると外野手は雪山は無理かもしれないと思った。
内野手として今年は育てることに決めたのであった。






投手成績
結果回安振四死失責
梨花7350010


梨花はあの失点まで完璧の投球だった。
いや、その後も完璧だったがバックに邪魔される形になってしまった。
しっかりと2人には説教をしておいたが、かのんのあれがとんでもない所で出ないといいが。






打撃成績
結果打安本点四死盗振
四条42001030
月成31022000
時任54030000
桔梗32142000
美咲52030011
梨花51010002
柳生41011001
七瀬30000001
王寺30000000




途中交代
結果打安本点四死盗振
江波10000000
緒花11010000






試合は2試合とも勝って、2試合目はかなり大勝したのだが俺はあんまり気が晴れることは無かった。





「元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く