元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

公園野球少女!





「よし。準備運動も終わったしそろそろやるか。」






「よーし!ばっちこい!」






そういうと俺が中学一年生の時に使っていたグラブをバシバシ叩いてやる気満々の様子だった。




「それで美咲、外野手だったら外野ノックとか打てないけどポジションはどこだ?」






「私?ピッチャーだよ!」






「お前まさかのピッチャーなのかよ!あんだけバットやら素振りしてたくせに!」






「てへ。私は投手も打者もどっちも頑張りたいの!というよりも試合に出られるならなんでも構わないって言うのが正しいかな?」






この口ぶりだとピッチャー以外にもできるポジションがあるという事だ。
それが内野と外野どちらも守れるならかなり評価点としてはプラスだが…。






「なら投手以外ならどこ守れるんだ?」






「んー。全部?守れるかわかんないけど守れると思うよ?」






逆にめちゃくちゃ胡散臭くなってきた。
全部守れるは全部等しく守れないと同義の選手もよくいる。




とりあえずどんなものか守備をまず試すことにした。


軽いノックから送球までの一連の動作を見てみた。
ポジション毎に取ってからステップして投げる位置はもちろん違うので、送球の仕方も違う。






とりあえずセカンド、ショートを仮定してノックを打って送球までしてもらった。




グラブ捌きはかなり上手い。
取ってたから送球の動作までもかなりスムーズだ。
送球のコントロールは分からないが、肩の強さも及第点以上はあると思う。




軽めのノックから女子選手で飛んでくるかギリギリの強烈なノックをしたが、セカンドとショート共に10球打ってエラーしなった。






ノックもある程度左右に振ったので、瞬発力や足の速さも分かった。




ピッチングももちろん見て見たが、とにかく平均的で良くも悪くもない感じだ。
球は平均の投手より少しだけ早い気がしたが、変化球も普通でコントロールはそこそこ良さそう。






最後に俺が投手として打撃をさせてみた。




この前変化球の打ち方を確か聞かれて教えた。


どれくらい打てるか試してみたが、打ち方は悪くない…かな位でまだまだ変化球にはついていけないようだった。




ストレートの反応もボチボチだが、120キロ以上のストレートには急に空振りが増えてきた。
速い球をこれまであんまり打ったりしたことがないのか?




「終了!お疲れ様!」






「ふー。お疲れ様っす!」






とりあえずこの室内練習場でできる全ての実力は確認してみた。
2人でクールダウンをしながら、野球について談笑をしていた。






「やっぱり打撃がなぁ…。もっと打てるようになりたいけど、無理なんかな?」






「そんな事ないよ!もっとたくさん練習さえすればいつかは必ず上手くなるから大丈夫。」






「そうだよね!ありがとうっ!」




美咲は嬉しそうに笑っていた。
今はもちろんフードを被っていないので、顔の表情がよく分かるがとても顔の表情筋が発達しているのか、表情豊かな女の子だった。






「ねぇねぇ。スカウトってどこの高校なの?」






「白星高校だよ。」






「へー。白星?女子校だったよね?あれ?男女共学になったんだっけ。」






「男女共学になったよ。それで俺が来年からコーチとして白星高校の女子野球部に入るって感じ。」






「なるほど!なら私も白星に入ってもいいってこと?」




「美咲がいいなら特待生として推薦してもいいけど他の高校とかから話来てないのか?」






「んー。最近ちょっと増えたんだよね!1ついい返事したんだけど、龍くんがコーチしてくれるなら白星に行きたいなと思って。」






そういうと真剣な表情で俺の事を見ていた。
いつもはいじったりして冗談っぽく話してるが真剣に話してるとわかって欲しいのか、顔は真剣な顔をしている。






「そういえば美咲って苗字はなに?」






「えっ!前言ったよね?中田美咲だよ!新宮西ガールズのピッチャー!」






その名前は確か…。
そして、そのチームもとても親近感というか既視感が…。




「あ、お前あの雑魚チームのエースピッチャーか!」








「なにぃー!雑魚チームとはなんだ!この前の大会3回戦突破したんだぞっ。雑魚はやめろっー!」






そう言って俺に詰め寄って胸ぐらを掴んで必死に俺の事を前後に揺らしている。


やっぱり弱小チームのエースと言われるのは嫌なのか、結構本気で抵抗してきた。






「見てたから知ってるよ。少し弱いチームのエースさんだったんやね。」






「う〜!弱いけど!」






まだ納得いってない様子だったが、言い直したことで少しだけマシになってきた。






「白星だって野球強くなかったよね!?私も普通に白星に行けばレギュラー取れるかなと思って気になってたんだよ。」






なるほどな。
最初からあんまり強豪校に行くことは考えてないみたいだ。


さっき言ってたように自分がスタメンで野球が出来たらいいっていう感じなのか。


弱小チームのエースだったからそういう責任感があると思ったら、案外そうでもなかったのか。






「チームメイトはみんな野球好きなんだけど、運動音痴が集まっててね。けど、みんな凄く仲良くて練習も頑張ってるからみんなでカバーしあって来たんだ。この前の大会もあんなに進めてみんな大喜びだった!」






梨花とは真逆の境遇だったのか。
みんなが下手だからそれをカバーするためにチームが本当の意味で一丸になっていたのか。






「けど、みんな凄く頭がよくて女子野球部がある公立の進学校に進むみたいなんだ。私はお馬鹿ちゃんだから特待のない公立は無理だから、私だけでも野球特待生としてスカウトされてみんなに自慢してやるんだっ!馬鹿だけど野球は1番上手いんだぞって!」








彼女からは野球もそうだが、チームに対する愛も感じる。
彼女はどんなチームメイトでも上手くやれるかも?




将来的にはキャプテンとか副キャプテンとかになってくれると期待しておこう。 










「なら私はそろそろ帰るねっ。またちゃんとしたお話は連絡してきてね!」






「天見監督って人から連絡してくると思う。高校になったら毎日ビシバシ鍛えるならそのつもりでね。」






「あはは!それは楽しみですねぇ。それじゃ龍くんまたねっ。」






なぜ敬礼をしたがわからないが、俺も思わず軽く敬礼し返した。




にっこりと笑うとフードをいつものように被りスキップのような軽い足取りで駅の中へ入って行った。






公園のフードを被った野球少女も仲間に加わることになった。




彼女ならどんな辛いことでも持ち前の明るさでみんなを引っ張って行けるだろう。






少し前のように感じるが、梨花も美咲も同じ日に白星高校に入ることを決めてくれた。






8月4日。
この日をよく覚えておこうと思った。









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