元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

未来!&敗北!



「ただいまー。ばぁちゃんじぃちゃんお客さん連れて帰ってきたで。」






「こんばんわ!お邪魔します。」




西さんの住んでいるのは彼女の祖父と祖母の家だった。
2人ともとても優しそうな人で、仲もとても良さそうな老夫婦だった。




突然来た俺に対してもとても親切に迎えてくれたが、西さんの彼氏だと勘違いされてしまったが。






俺はこれまでの経緯をお話することにした。
福岡からこちらにスカウトしに来たことや、俺も同じ学校に通う予定だということ。




「ふむ。東奈くんも苦労しておるんじゃな。ワシらも出来れば梨花を野球に集中できる場所に送り出してやりたいんじゃが、ここら辺の高校で野球の強いところからはスカウト断わられてしもうて。」








「彼女ほどの才能のある選手はそうそういないですよ。中学生で信じられないと思いますが、選手の条件まで決めていいと言われております。」






「よかったら西梨花さんと来年から3年間一緒に野球をしたいと思ってます。是非特待生として福岡の白星高校へ入学してくれないでしょうか?」






そして天見さんにこれを使えと手紙を受け取ってきていた。
中身は見ていないが、スカウトする本人にこれを渡せと言っていた。






「これ、うちの監督から西さんに渡してくれって頼まれて。」






「ワシに?見せてみぃ。」






その手紙を開けると便箋2枚の手紙のようなものが入っていた。
何を書いているか分からないが、その手紙を食い入るように見ていた。




全て見終わると手紙を綺麗に折りたたみ元の封筒に戻して机の上に置いた。
俺に返して来ないということは俺には全く関係のないことが書いてある手紙だというのがわかった。






「手紙の内容はなんだった?」






「あ、あぁ…。由香里姉ちゃんからの手紙と監督さんからの手紙だった。」






由香里姉ちゃんっていうのは天見さんに推薦した西さんの事だろう。
手紙の内容が気にはなるが、少しだけ西さんの目が潤んでいる気もした。






「なぁ龍。ちょっと席外してくれんか?ばぁちゃん達と話したいことある。」








俺は軽く頷くとすぐに立ち上がって西さんのおばあちゃん達に軽く一礼して、庭の方に出て綺麗な風鈴と月を見るという風情なことをしてみた。






「風情だって思えないのが俺がまだ若いからなのか?」




俺はその場に寝転がり1日日に当たってあちらこちらに行って疲れていたのであろう。
かなりウトウトしてきたと思ったら、いつの間にか寝ていた。






目を覚ますと可愛らしい熊のブランケットが俺に掛けてあった。


多分、西さんが掛けてくれたのだろう。




風呂上がりであろう西さんが結構近い位置でドライヤーで髪の毛を乾かしていた。






「あ、起きたか。目離したらこんな所で寝てやがって。」




「ブランケットありがとう。なんか疲れたみたいで寝ちゃってた。」






「まぁ朝早くから連れ出したからな。眠たくても仕方ないじゃろ。この後あの旅館に帰るんよな?明日、試合見に行くなら結構早めに出ないとあの試合会場遠いで?はよ今日は帰って話は明日しようや。」






「そうなんやね。それじゃ今日は帰るね!おやすみ。」




「おやすみ。」






俺はしっかりとおばあちゃん達に挨拶をしっかりと済ませると、昨日から泊まっている旅館に帰ってすぐに明日の用意を済ませて就寝した。








そして朝7時に旅館を出ると昨日とは違う女の子っぽい洋服を着て俺の事を待っていた。






「おはよー。西さんって寝坊したりしそうだけどちゃんと起きれるんやね。」






「朝釣り行ったりするし、別にこんな時間なら早くもないき大丈夫やわ。」






「それならよかった!今日は結構可愛い洋服着てるんやね。そういうのも似合うスタイルよさが羨ましい。」








「朝から寝ぼてるんか?訳分からんこと言いやがって。」




本心から怒ってる訳では無さそうだが、言われなれてないのだろう。
恥ずかしそうなのとちょっと引いてる感情が入り交じってそうだった。






試合会場までは軽く1時間はかかった。




会場までは西さんのおじいちゃんに連れていってもらった。
車の中で色んなことを質問されたので、自分がわかる範囲で学校のことや野球のことについて素直に答えてあげた。






「東奈くん。色々と老人の話を聞かせてごめんな。ワシとしては梨花のことが心配でな。」




「そうですよね。けど、野球部には自分もいますので出来るだけサポートはしたいと思いますので、安心してください。」






俺たちは桔梗たちの試合を見る為にバックネット裏で試合を観戦することにした。




全国大会となればテレビとかもあるし、記者やスカウトなども沢山いた。
もちろん観客もぼちぼちと入っていた。






「おい。なんか一塁側からオレンジ色の髪の小動物みたいなやつがこっちに来てるぞ。」






「オレンジ色の髪の小動物?」








「し、ししょーー!!!!なんでこんな所にいるんだっ!まさか、かのんの応援をここまでしに来てくれたんだねっ!ししょー愛してるぅ!」






そういうと両手で必死に投げキッスをしてくるかのちゃんがいた。
全国大会とは思えない緊張感のなさだが、それに気づいたチームメイトもはしゃいでるペットを見ているような顔をしていた。






「もしかしてアイツがチームメイトになるんじゃないよな?」






「そうだけど?西さんは猛獣でかのちゃんは珍獣みたいなもんだから大丈夫。」






「妙に納得したわ。じゃけど実力がなかったら龍の評価も変わるけどええ?」






「それは大丈夫と思うけど。後、あそこにいる身長高いバット振ってる彼女が俺の幼なじみの橘桔梗。俺が見てきた中で福岡の中ではNo.1バッターやと思う。」






「へー。あのバッターが龍の幼なじみか。」




そういうと桔梗のことをじっと見つめて何かを感じているようだった。






俺はこの試合とても気になる選手が3人いた。
今日の試合の相手は優勝候補筆頭の京都舞鶴フラワーガールズ。






現在女子プロ野球界の大エース齋藤帆南が在籍していたチームであり、そしてその妹が4番としてチームを引っ張っている。




齋藤綾香さいとうあやか




投手の姉と同じ道を歩まず、打者として活躍をしていた。


2年生の時の全国大会を見たが当時2年生の齋藤さんは現在の桔梗レベルの打者だった。




順調に成長していれば女子中学最強打者になっているだろう。


姉と同じく舞鶴女学院にというファンの声もあるが、彼女は自分の道は姉の通ってきた道にはないと言い切っており、多分花蓮女学院辺りに入学が決まっているだろう。






もう1人が、


川崎恵かわさきけい




彼女も去年の全国大会でショートとして出場。


三拍子揃った弱点のないプレイヤーで、プリティーガールズの玉城さんも同じショートで福岡では三拍子揃った選手だと思ったが、彼女には及ばないだろう。


今年は3番ショートでずっと出場していて、2週間前に行われていた全国大会予選近畿大会で齋藤さんを抑えてMVPを獲得していた。








最後の一人が、


二井橋紅葉にいばしくれは




投手とキャッチャーを担っており、主に5番バッターを打っていて巧みなバットコントロールで相手に球数を投げさせて、甘い球を強打を心情としていやらしい打撃を徹底していた。


恵まれた身体をしており、推定174cm、75kg位なんじゃないかとおもう。
姉と似ているプロフィールだが、二井橋さんはどちらかというとぽっちゃりとしている感じだ。
足の速さはお察しだが、投手としても捕手としても完成度は結構高い。




この3人は全員花蓮女学院に入学するんじゃないかという噂が絶えなかった。
どこに行くと名言はしていないが、多分間違いないらしい。






俺の見解ではまぁ間違いなく勝てないだろう。
プリティーガールズは打者はいいが、投手3人いる内誰かが飛び抜けていい投手がいればよかったが、投手には恵まれていないようだ。




桔梗達が打ちまくれば勝てるだろうが、それ以上に間違いなく打たれるだろう。








試合が始まり、俺の見解を先にデータとともに西さんに話しておいた。


なるほどなという感じでデータと選手を見比べていた。




「プリティーガールズのデータはよく見てんな。数字の基準がよくわかんねぇけど、あの玉城ってショートを基準にしたら分かりやすいな。」






人にあんまり見せたことない俺のデータを見せてどんな反応を示すか見てみたかった。
人を褒めなさそうな西さんでもかなりデータのことを褒めてくれた。






「あの小動物みてぇな奴、データによると全国トップクラス?いやトップ位の勢いじゃね?」






「あの足の速さはやばいね。西さんランナーに出られたら100%走られると思う。」






遠回しにセットポジションとクイックが良くないと伝えたかったが、完全に無視させれてしまった。






今日の先発は二井橋さんじゃなく、もう1人の変則サウスポーの高木さんという投手が登板していた。






初回からプリティーガールズの打線はフラワーガールズに襲いかかった。




かのちゃんが珍しく初級からセフティーバントを敢行し、それがセーフとなりランナー一塁。
その初球、強肩の二井橋さんがキャッチャーなのお構い無しに2塁へ盗塁成功。




2番はバントの構えで送ろうという姿勢だったが、無謀ともいえる二球連続かのちゃんの3塁への盗塁もギリギリセーフ。




俺は内心ほっとした。
サインなのかサインじゃないか分からないが、初回からこんなことをする必要ないんじゃないかと思っていたが、成功したからまぁいいか…。






「あはは!あの小動物足はぇな。あの暴走といえる積極性は見てておもろいわ。」






その後、2番が四球で出ると3番の玉城さんも粘って四球をもぎ取りノーアウト満塁のチャンスで桔梗の打順。






追い込まれての2-2からの5球目をレフト線に強烈な当たりでランナーが2人帰り2-0。




その後も打線がつながり、初回から4-0のリード。






だが、フラワーガールズもそのまま黙っている訳もなく1.3番がヒットで1.3塁として4番の齋藤さんに打順が回った。






その初球。


後ろから見てても球が高いと思った瞬間、綺麗な打球音と共に白球がみるみるうちにバックスクリーンに打球が伸びていく。




こちらからは逆光で打球を確認できなかったが、あの角度と打球音なら多分普通に入っただろう。








球場が齋藤さんのバックスクリーンへの強烈なホームランに大喜びしていた。






「龍の幼なじみも、あの齋藤っていう奴もどっちもいいバッターやの。ワシもあんな勝負したかったわ。」






「高校になったら好きなだけやったらいいよ。高校は中学よりも更に勝つ為に実力主義になる。力さえつければエースとして強打者といくらでも戦えると思う。」






そんな話をしているともう試合は6回に差しかかってきた。
9-11でプリティーガールズが劣勢に立たされている。






「なぁ、昨日のことなんだけど。」






遂に彼女からやっと1番聞きたかった話が聞ける。




「その前に、お前は東奈光選手の弟だろ?」






「そうだよ。よく分かったね。」






「一緒に少しだけプレーして、名前を聞いてすぐにピンと来た。ワシも光選手の試合を甲子園で小さい頃に見てずっと憧れていたんや。」






小さい頃から彼女は姉同様の西由香里さんにいつも遊んで貰ったり、野球したりして遊んでくれたらしい。


その由香里さんが甲子園に出るということで甲子園まで試合を見に連れて行ってもらって、そこで姉の投手としての活躍を見てずっと憧れを抱いていたみたいだ。






「こんな話男にしたくないけど、小さい頃に両親がどっかに消えてしまったんじゃ。その後の話は何となく龍が想像する通りや思う。じゃけど、ワシは誰より野球が上手かった。じゃから光さんみたいになれると思っとったが、チームの輪を乱すな。チームプレー第1だの理想ばかり言いやがって。」






彼女の言いたいこともよく分かった。
彼女は人との付き合いが上手くいかず、野球だけを頼りにやってきたが、結局人との付き合いが上手くいかないから野球でも爪弾きにされてきたのだろう。






「別にワシはチームメイトを馬鹿にしたこともねぇし、認めてない訳でもない。じゃけど、誰もワシのことをチームメイトと認めてくれんかった。それが全てや。」






実力もあって仲間を最低限認められる。
協調性がないから勘違いされてチームから弾き出されてしまった。
かのちゃんも個人至上主義だが、明るく振る舞えているからこそチームメイトの中で浮かずに上手くやっていけてる。






ここまで強がっていたが、西さんも普通に仲間と野球をしたいのだ。






そして、昨日の手紙を渡してきた。




内容は、こうだ。




天見さんからはあなたの望むチームになるかは分かりませんが、誰もが平等に信頼しあえて切磋琢磨出来るような野球部を作るために精一杯頑張っています。


あなたの元に行った東奈くんはきっとあなたの役に立ってくれるはずです。




西由香里さんからは結構シンプル内容で、福岡に来るなら私の家に一緒に住もうという旨が書いてあった。
高校3年間だけと明記されていたが、彼女が野球をやるために力を貸してあげたかったのだろう。






「ワシ…いや、私を白星高校に是非入れてください。私も少しは大人になっていこうと思います。」








「こちらこそ。3年間一緒に頑張って野球しよう!きっと西さんはいい投手になれると思う。」






俺たちは固い握手を交わした。




彼女はきっといい投手になれるだろう。


最初はチームメイトとぶつかることも多いだろうが、その時は助けてあげようと誓った。






試合は最終回で10-12でプリティーガールズは負けていた。
投手は先発の高木さんが降板して、まさかの投手は齋藤綾華さんが登板していた。






1番かのちゃんからの攻撃だったが、齋藤さんの投球は姉の帆南さんさながらの投球だった。




スピードは流石にそこまで出ていないが、あの変化球いいとコントロールといい投げた方といい齋藤帆南さんそっくりだった。






かのちゃんはセカンドにボテボテな当たりに打ち取られたが、間一髪セーフの内野安打でランナーに出られた。


だが、次の打者は空振り三振したがかのちゃんは2塁へ楽々と盗塁成功。




3番の玉城さんも変化球に翻弄され、サードフライに打ち取られる。




そして、ここで4番の桔梗がホームランを打たないと同点に追いつけず全国大会敗退になる。






「桔梗ちゃん。ホームランは流石に無理だろうけど、この投手を打てないと姉ちゃんには追いつけないぞ。」














ー桔梗視点ー






龍が見に来ている。
隣には女の子がいるけど、広島まで多分スカウトしに来たのだろう。




ツーアウトランナー2塁。
1発打てれば同点に追いつける。




ピッチャーは齋藤帆南選手の妹の綾華さんか。
凄い才能の選手だと思う。




光さんの弟が元天才選手の龍。
姉弟、姉妹で両方とも物凄い才能と実力を持ってるなんて珍しいことなのかな?




感情がないと言われてる私でも自分の中に感じる羨ましいって気持ちと妬ましいって気持ち。






けど、私は龍には男だから負けたと思ってる訳じゃなくて、光さんを誰よりもリスペクトしてる。
私も光さんのことは大好きだし、負けないくらいリスペクトしてる。




彼女は違う。


姉妹の間でなにがあるかは分からないけど、あんなに素晴らしい投手の姉のことをインタビューで私と姉は違うの一点張りで、私の方が優れると言わんばかりの内容だった。




極めつけは、あの夏の甲子園準決勝の城西と舞鶴の光さんと帆南選手の投げ合いにもケチを付けてきた。
私なら、あの伝説の投手戦と言われた試合で東奈光選手を抑えて、打てると豪語していた。






確かに齋藤綾華さんはまだ私が届くような選手ではない。




だからといって今バットを振らずに諦めるなんて出来ない。






必ず彼女の球を打つ。
片手間で投手をして全て分かりきったようなその態度を改めさせる!






齋藤帆南選手の投げるボールは全て知っている。
それを真似て投げていても本人のボールに追いつけていないなら私は打てる。




そして、一球目。




インコースの低めのストレート。
これはコースが少し外れてる。






「ストライク!」






インコースギリギリのボール球をストライク判定。
ここまでの審判の癖を読んでのボール球のストレートを投げてきていた。






2球目。




帆南選手が得意にしている右バッターの内側にくい込んでくるようなシンカー。
かなりくい込んで来るため厳しい球を打ってもほぼファールにしかならないけど、私なら打てる。




いつもより窮屈めに腕をたたみ、左足をいつもより開いてインコースを引っ張るのではなくセンターに打ち返すイメージ。






カキィィーン!!








打球はレフトのポール際ギリギリに上がっていく。
思ったよりもボールが内側にくい込んできてセンター返しのイメージで打てたのだが、かなり引っ張ってしまう。








「ファール!!」






飛距離は充分だったが、わずかの所で切れてしまった。




後は1番のウィニングショットの高速カーブをあなたが初回に打ったようにセンターバックスリーンに叩き込む。




ピッチャーマウンドの齋藤さんは余裕そうな顔をして私が打席で構えるのを待っている。




そして三球目。




違和感を感じた。
あんなに高々と足を上げていなかった。
このフォームは…!






私の尊敬する光さんのフォーム!




動揺した私は低めのストレートを打ち上げてしまった。




力のない外野フライ。




これで小学生以来の全国大会もここまでか…。








「アウトォ!ゲームセット!!」






そうして桔梗達の全国大会は終わりを告げたように思えた。








「貴女が橘さん?私に追いつくかもしれないって言われてるバッターなんでしょ?それにしてはお粗末な打撃だったわ。東奈光のピッチングフォームを真似しただけであんなに脆く崩れ去る打撃なんて私に言わせればただのゴミよ。」






「なに…?それをいいにわざわざわ敗者の所に来たの?」






「橘さん。花蓮女学院にスカウトされてるみたいね?辞退してくれないかしら?あんなことで簡単に打ち取れるバッターに花蓮に入る資格もないわ。私はね、1年から試合に出て3年の最後まで春夏甲子園連覇する。それに貴女は相応しくない。」






「馬鹿みたい。そんな大口叩いて強がってどうすんの?」






「そんなことも出来なかった姉も東奈光も私にとっては眼中に無い。いくら選手として優れていようと試合に勝てないチームはゴミ同然なの。試合に絶対勝たせるチームを作って試合に勝ち続ける。」






「野球はそんなに簡単じゃない。野球を舐めない方がいい。」






「舐めてるの貴女の方じゃなくて?あそこの場面で動揺するような精神力でよく九州最強バッターとか名乗れるわね。とにかく、花蓮に来ても貴女は必要ない。それじゃご機嫌よう。」








「…………。」








こういう時に怒れない私は闘争心もない負け犬なのか。









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