元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

天見監督の実績!





7月初旬。




GIRLSリーグ福岡県予選は準決勝まで試合が進んでいた。


チーム数の少ないPrincessリーグの方は九州大会進出チームの2チームが既に決定していた。






スカウト活動も残り2ヶ月になっていた。






現在、まだ2名しかスカウト成功していないという結構やばい状況だったけど、俺は半分くらい開き直っていた。


中学生がスカウトして2人連れてきただけでも凄いだろうと。




準決勝の会場は負けたチームの女の子達が見学に来たり、スカウトらしき人や監督なども結構いるようだ。




俺の左隣にはまだピチピチの23歳独身の天見香織さんと、右隣には少し胸が大きいと分かるフリフリのワンピースを着た江波夏実さんが座っていた。




江波さんのチームは相変わらず、キャッチャー志望の七瀬さんが先発していたらしい。




試合は7回まで1-1の完全な投手戦だった。


7回に四死球でピンチを広げて甘く入ったストレートを打たれ、そのまま追いつくことが出来ず1-3で3回戦敗退。


江波さんは代打と出場して2打数1安打だった。






中田さん率いる福岡代表最弱チームはまさかまさかの3回戦も突破したが、流石に快進撃はここまで、準々決勝で桔梗率いるプリティーガールズに5回コールド9-0でボコボコにされていた。






今日の準決勝の2試合は、




門司ハニーガールズ 対 朝倉レディーズ


福岡東プリティーガールズ 対  那珂ベースボールガールズ




プリティーガールズは前大会決勝戦で戦った、投手藤さんと打者許斐さんのいる強豪那珂との試合になった。




門司と朝倉の両チームは強豪というより中堅のチームで、俺の住んでいる福岡市内からなかなか行ける距離ではないので試合を楽しみにしていた。




しかし、その楽しみも半分消し飛ぶことになった。




「龍くん、スカウトやっぱり大変よね?隣にいる江波さんは私は全然知らない選手だったし、あの四条さんをスカウトしてくるとは思わなかったし、よく頑張ってると思うよ。いや、出来すぎかな?」






「そうですね。江波さんは俺が責任もっていい選手として指導しようと思ってます。だから、即戦力というより将来性を見てあげて下さい。」






隣にいる江波さんは少し恥ずかしそうにしていたが、スカウトされたというのが自信になったのか前よりも堂々プレーするようになったと言っていた。






「天見さんは指導の方はどうですか?夏の予選も始まりますよね。そもそもスカウト活動に来る余裕あるんですか?と言っても、このスカウトの人数じゃ来年やばいと思うんですけど…。」






俺はあまりスカウト成功していない責任の半分を天見さんに擦り付けようとした。






「あ、その事なんだけど、4人スカウトしておいたから。龍くんがスカウトした2人を合わせると6人ね。」






「4人!?なんで教えてくれないんですか!同じ選手に声掛ける可能性もあるのに…。それにその選手達の調査だってしに行ったかもしれないのに。」






俺は少しだけ声を荒らげて天見さんに対して怒った。


これまでスカウトしてきて、そんな大切なことを今言われるとは思わなかった。




「ごめんごめん。決まったのは先週なんだよね。4人に声掛けて4人とも是非って言ってくれたから。」




あまりというか、全然悪びれた様子もなく話を続けた。




「龍くんはそこまで遠くてスカウト来れないと思ってたし、今日でいいと思ってね。」






俺は先週ならまだいいかという気持ちと、4人も選手が入ってくれるならという安心感で少しは落ち着いた。




決まったのが1ヶ月前とかだったら更に怒っただろう。




それよりも4人中4人が来るって…。


俺はこれまでざっくりと計算しても30人は声をかけたが、そのうち2人しかスカウト成功していない。






「監督さん。どんな選手ですか?私ももしかして知ってるかもしれないので気になります。」






江波さんが俺の聞きたいことを監督に質問してくれていた。




「あの子達だよ。」






そういうと指を指した先には門司ハニーガールズの選手達だった。




「え?もしかして門司の中から4人ですか?」






「あはは。正解。ピッチャー、キャッチャー、セカンド、レフトの4人だよ。」






まさかの1チームから4人スカウトするとは思っておらずビックリした。


確かに門司は福岡の最北端で、俺が行くにはかなり遠いチームなので、スカウトには行けなかっただろうが…。






「門司ハニーガールズって私が中学の時に在籍してたチームなんだよね。その時から監督変わってなくて私は甲子園も2回も出たから結構有名なOGなんだよ?光さんの高校時代の正捕手としても結構知られてたしね。」






俺は内心卑怯じゃないかと思ったが、コネというのも大切だよなと開き直った。






4人の選手の紹介をしておこう。




1番驚いたのがバッテリーを組むのは双子の姉妹がいた。とおもったら年子らしく双子ではないらしい。


4月と3月生まれらしいが、15歳と14歳のこの年子だと成長にも少し差があるのか、妹の方が少しだけ身長が低かった。




柳生結衣やぎゅうゆい柳生愛衣やぎゅうあい


結衣の方が姉で門司のエースピッチャーで、キャッチャーが妹の愛衣が姉をリードしている。




選手としていえば姉の結衣はマウンド上の雰囲気の感じはかなり感情の起伏が激しそうだ。


調子のいいの時は押せ押せで、ストレートで押し込むパワー型のピッチャーっぽい気がした。


逆に連打された時や、際どい所をボールにされた時は急にコントロールのばらつきが感じられた。


後ろから見たら分かりずらいが、かなりスピードのあるパワーカーブ。


パワーカーブはスローカーブと逆で早いカーブで、結衣はこの球に自信があるのか困ったらパワーカーブを投げていた。




落差もスピードもかなりの精度であり、狙っていなければ中々捉えるのは難しいであろう。




打撃能力は大雑把というか豪快というか…。
どんなボールにもフルスイングで当たればかなり大きい当たりを打てそうだが、今のところはバットにボールが当たらなさそうだ。








キャッチャーの妹の愛衣はかなり落ち着いたイメージがあった。


結衣が四球を出したり、連打された場面でもほとんど精神的な揺れを感じられなかった。


俺の印象は、1番重要なキャッチャーとして必要なキャッチング技術がとても優れていた。


パワーカーブでワンバウンドしたボールを一球も後ろに逸らすことはなかったどころか、ワンバウンドしたボールを捕球してから素早くセカンドに盗塁した選手を刺した。




ボールを後ろに逸らさないというのは当たり前だと思われるが、その当たり前を当たり前のように出来るまでには相当な努力がいる。




特にキャッチャーはそうだと思う。


打撃能力は至って普通。
本当に良くも悪くもない。




2人とも共通していたところは練習からダッシュの様子を見ていたが、足の速さほぼ同じ位で他の選手より少しだけ遅い気がする。








こういう姉妹は仲がいいか仲が悪いかどっちからしいが、彼女たちはどっちなんだろうか?


俺からすれば仲がいいことを願うだけだった。








「ちなみにあの2人は仲良いよ。」








俺は天見さんの一声でとても安心できた。










「あ、でも試合中はよく喧嘩するらしい。」








やっぱりそんなに簡単なわけないか…。










3人目、多賀谷鈴音たがやすずね


ポジションはセカンドでかのちゃんと被っているが、野球なんてポジションが被ったり、レギュラー争いで負けてポジションが変わるなんてよくあることだ。




俺はポジションのことはあんまり気にしなくてもいいと思っているし、野手としてスカウトした選手が3年にはエースということだって普通にあるのだから。


試合見ていて特徴は結構な長身で170くらいはあるかな?


かなり痩せ型であだ名はポッキーで間違いないんじゃないかという感じだ。






その体型からは想像がつかないがかなり長打力があって、2打席目にはレフトフェンス直撃のツーベースを打っていた。




守備、走塁共に平凡だが、肩はかなり強そうだった。


弱点と言えば手足が長いせいかインコースの反応が良くない。
ツーベースを打った打席以外はインコースを空振り三振とショートゴロだった。




もう1つあげるとしたら、肩の強さを過信してかボールを捕ってから投げるまで遅いくらいか。






1番いいなと思った選手が、




時任氷ときとうこおり




とりあえず苗字も名前も変わっている時任さんだが、結構小柄な選手で天見さんの資料を見ると153cmしかない。




レフトとしての評価は下の上。




守備も夏実よりも下手だろう。
ついでにいうと足もかなり遅い方。
結衣愛衣のやや遅い2人よりもさらに遅い。


肩だけは外野手として合格点レベルあるみたいだけど…。




俺は女子野球を見てきて、打撃に非凡な才能を感じた選手は桔梗と許斐さんの2人だけだった。


時任さんも桔梗と許斐さんの2人に、負けずとも劣らない非凡な打撃センスを感じられた。


2人に比べて身長も小さく、非力なのは否めないが、2人よりも優れているかもと思わせるバットコントロール。




特徴は独特な構え。


打ち方は極端に狭いスタンスに、バットは顔の前でゆらゆらと前に倒したり真っ直ぐ立てたりして遊びが多い。
投手が投げる瞬間に狭いスタンスから一気に踏み込んで打ちに行く。




もう1つ特徴は右でも左でも打てる両打ちで、そのフォームは右でも左でも鏡写しのような完成度であった。






結構面白い選手が4人集まっていた。
トータルで考えれば、平均くらいになるだろうが一芸に秀でた選手が多いのはいい事だ。








「いい選手達だと思わない?」








「そうですね。いい選手だと思いますよ。」








自信ありというドヤ顔の天見さんの隣で、俺は今回だけは負けたという感じで軽く笑った。









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