元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

公園特訓!





かのちゃんが白星高校に行くと宣言した後、相変わらず元気なかのちゃんとすっかり仲良くなった江波さんとみっちりと練習をした。




江波さんにはとりあえず筋力トレーニングの方法を伝授した。


そのメニューをこなしてもらって、慣れてきたら回数を増やし、それでも余裕になったら次のメニューをまた教えると約束しておいた。




技術的なものよりも、入学する前はしっかりと体づくりをしてもらうことにした。




これは地味でしかも野球にすぐ直結するわけじゃないから辛いだろうけど、江波さんならやってくれるだろうと信じていた。






結局、この後この2人しかスカウト成功しなかったら2人ともA特待でもいいのだろうか?


いや、流石にかのちゃんと江波さんでは実力に差がありすぎる。




俺はとりあえずかのちゃんはA特待としてスカウトすることに決めた。


江波さんには悪いが、もう少しだけ保留にさせてもらうことにした。








あっという間に6月下旬になり完全に梅雨に入ったと同時に、全国女子中学硬式野球大会福岡県予選が始まっていた。




先週から大会が始まり、1回戦が全て終了し2回戦に進出するチームがでそろっていた。


江波さんのいるチームも、桔梗、ほのちゃんのいるチームも1回戦は無事に突破したようだ。




この大会は福岡の地区すべてがまとめて試合をしているため、これまで見に行けなかったチームの試合も見に行くことが出来る絶好の機会だった。






梅雨で天気も分かりずらく、チームによっては体育館などを借りて簡単な室内練習をしたりするため、やはり練習を見に行くのは難しかった。






今日見に行く球場は4試合あり、これまで見た事ないチームが6チームもいるという俺にとってはとても助かる組み合わせだった。






1試合目にちょっとだけ意外なチームがいた。


一番最初に見に行った福岡最弱のチームが1回戦を突破して2回戦に進出していた。




確か、先発投手の中田さんは投手としてはぼちぼち。




とてもフィールディングがよく、守備が上手かったので野手としては結構欲しい人材だった。




打撃に関してはあんまり話すと可哀想なくらいだったが。




相手チームは久留米地区でそこそこのチームで、見たい選手は特にはいないがそういうチームにもいい選手がいたりもする。






「ん?3番投手中田さん?」




この前見た時は確か8番投手だったと思うが、打撃が改善したのか?




それとも誰がどこ打っても変わらないってことで3番?




そんな適当に打順を決めないと思うが…。
1番考えられるのは打撃が好調なのだろう。






この試合は投手戦となった?


というよりもお互いメチャメチャ打たれるけど、ここ一番でどちらも1本が出ない。


ならまだよかったが、6回まで来て両チーム合わせて6併殺というチグハグもいいところだった。




7回終わって2-2。


タイブレークに突入した。


中学生投手は投げすぎを防止するために一日7回までが限度となっている。


お互いにここまで踏ん張ってきた投手が交代となり、福岡弱小のチームが絶体絶命と思われた。


中田さんの後に投げた1年生が80キロ前後のカーブを連投してまさかの0点に抑えた。




降板した中田さんはそのままショートのポジションに入り、1回だけ打球を処理してファインプレーとかそういうプレーではなかったが、熟練のショートのような流れるプレーだった。












カキイィィーン!!










この試合を決めたのは中田さんのセンターオーバーのサヨナラヒットで試合終了。




俺はこの前と同様に今回も弱小チームを応援していたが、まさか勝つとは思わず大きな拍手をしと声援を飛ばした。




4月にみた中田さんのデータと照らし合わせていた。


投手能力は逆に少し下がったような気もしたが、守備面は相変わらず光るものを持っている。




変わったのが打撃能力だった。
左が4月、右が今回の数字だった。




打撃能力




長打力 20→30
バットコントロール 20→30〜35
選球眼 20→50〜55
直球対応能力 40→50
変化球対応能力 10→40
カット技術 不明→30
バント技術 不明のまま


打撃フォーム 
スタンダードで打つ瞬間にややドアスイング気味だったが、それがかなり改善されていた。


パワーやバットコントロールは少しだけ良くなった気がした。調子の良さなのかもしれないが、この前よりは確実に良くなってた。




1番驚いたのが、選球眼と直球、変化球のタイミングや打撃判断が明らかによくなっていた。




打撃能力は無視しして、そこだけ見れば強いチームのレギュラークラスまではあると思う。






投手をしている時の彼女の表情は俺からじゃあまり見えなかった。


女子選手では珍しく、帽子を深々と被り表情が見ずらく威圧感を感じられた。




前にも思ったが弱小チームの彼女をスカウトするなら今じゃないか?成功率も低くはないだろうし、チャンスなのでは?




けど、投手としてはぼちぼち。
野手としては欲しい…。




考えた結果はこの前と同じく、投手を野手としてスカウトするのは俺の好みではない。




結局俺はスカウトするのを諦めることになった。


2試合目を見ている途中で、後ろの方で彼女を投手としてスカウトしたいという話し声が微かに聞こえた。


俺は内心残念だと思いながらも、投手として認められた中田さんを心の中だけで祝福した。






そして、4試合目まできっちりと全部見ていった。


いい選手がいたからすぐにスカウトしに行ったが、あえなく撃沈した。






毎度おなじみの公園の近くを通った。


前回行ったのかいつだったか?
確か少しだけ暑かった記憶があるが、5月の半ばにここに来ていたらちょうど1ヶ月ぶりだった。




名前は美咲だったっけ?


湿気が多くこんな暑いのにあんなフードを被って、練習してないだろうなと思いながら公園に入った。




今日はさすがに半袖だった。


見た目だけは少しだけ涼しくなったけど、相変らすわフードを被った少女が今日はサングラスをかけて素振りをしていた。




「こんばんわ。今日もフード被ってるんだ。しかも、今日はサングラスまでして更に怪しいぞ。」






「あ!龍くん、こんばんわー。この前の練習法で毎日練習したよ!けど、全力で想像しながら練習するって中々大変なんだって気付かされたよ。」




フードのこともサングラスのことも完全にスルーされたが、気にするなということなのだろう。




「まぁ、無心でバット振りまくるよりも大変だからなぁ。イメージっていうのは時には凄く選手を成長させるから頑張るんだよ。」






「ありがとう!これからも頑張る!」






「それじゃ、また頑張ってね。」






ガシッという音が聞こえるくらいに首根っこを掴まれた。




「お前な!人を呼び止める時は少しは女の子らしくしろよ!」






「あぁー!ごめんなさいー!」






俺はこの後もうちょっと彼女に説教をするのであった。






「うぅ…。そんなに怒らなくてもいいのに。」






やったこと自体は悪いと思っているみたいだが、怒られたことに対してはとても不服そうにしている。






「それで、俺の首根っこを掴んだってことはまた何か聞きたいことでもあるのか?」




「ある!というかちょっとだけ個人的に謝りたいことがあって…。」




「この前と今回後ろから首根っこを引っ張ったことか?」




「違うよ!龍くんのこと野球の出来るナンパ野郎って思ってて、それを謝ろうと思って。」






おいおい。


この子は一体俺の事をなんだと思ってるんだ。
野球マンだのナンパ野郎だの。




「暗闇で声掛けてアドバイスして去っていって、また現れてアドバイスして、3回目はきっとすぐに現れて連絡先とか聞かれてデートに誘われて…。」






「おいおい。俺はなんの妄想話に付き合ってるんだ?」






「それでね…。」




『いや、聞いてないし…。』






「けど、1ヶ月も現れずに今現れてすぐに帰ろうとしたからナンパ野郎ではなかったってのに気づいて。」






「まぁ、最初は本当に男の子に野球教えてあげようと思ってたら、女の子だっただけだからね。その成り行きでアドバイスしただけ。」






「本当にそうみたいだね。だからこそ、謝ろうと思って。ごめんなさい。」






「気にしなくていいさ。」




話が終わったと思い、帰ろうとするとやはり簡単には帰らしてはくれなかった。






「ちょっとだけ教えて欲しいことがある!」




「ん?まだ何か教えて欲しいことがあるん?」






「アウトコースの打ち方を教えて欲しい。」






アウトコースか。


自分から最も遠いコースで打つのも見極めるのも難しいコースである。


プロ野球でもアウトコース低めはほとんどの打者がコース別にみると打率か低くなっている。




アウトコースをホームランにしないのであればしっかりと下半身を粘り、いつもより体が開かないようにして、センター方向に打つイメージが必要だ。


パワーがないならバットは極力平行にだして、高めは少し上から叩くようなイメージでもいいと思う。




打ちに行く時、アウトコースと認識した瞬間に少しだけ体を開くのを我慢して、バットをそのまま真っ直ぐ出してスイングすれば、いつものようなバッティングで素直に打ち返せると思う。




「ちょっとこのボールあのフェンスに向かって打ってみて。」






俺は鞄の中からゴムボールを取り出して、隣からボールを何回か打たせてみた。




「どう?トスバッティングだから今は普通に打ててるけど。」




「アウトコース投げてないからそりゃ普通だ。」






「なにー!ちょっと遠いからアウトコースと思ってた私が馬鹿みたいじゃんか!」




俺に突っかかってくる美咲を無視して転がっているゴムボールを拾い上げた。






「なら、これ打ってみて。」




変化球を打つタイミングを覚えたり、変化球をすくい上げて打つトスバッティングを始めた。




ボールをワンバウンドさせて、跳ねたボールがもう一度落ちるタイミングで打つという練習方法だ。




それをアウトコースのかなり遠目に感じるところにワンバウンドせて、もう一度落ちるところをアウトコースのストライクかボールギリギリなるようにしてそれを打たせた。






打ててはいた。
ゴムボールだから真っ直ぐ勢いよく飛んではいるが、これが硬式ボールだったら多分飛距離が少しきついだろうなと思った。




やはり下半身の粘りが足りない。


わかりやすい所でいえば、お尻がキャッチャー方向を向いてしまっているため、腰の回転の力がバットに乗っていない。


振りに行く瞬間はまだお尻がまだ元の位置ギリギリに居ないといけない。






「ちょっとお尻触るけどいい?」




「えーー!!だめー!!」






「んーならさっき教えたことで終わり!お疲れ様でした。」




俺はぺこりと頭を下げて、帰れなかった。




「分かった!揉んだりしたらバットで殴るからね!」






「しないよ…。そしてバットで人を殴るんじゃない。」






「俺が後ろにいるからスイングに気をつけてね!普通に振る分には当たらないけど、フォロースルーには気をつけて!」






俺は身を屈めて美咲の後ろからお尻に軽く手を当てていた。






「それじゃ、スイングするね!」






美咲はスイングしたが、恥ずかしいのか後ろの俺がになるのかスイング自体がイマイチだった。






「こら!普通に振ってどうする!さっきみたいにアウトコースを打つみたいなスイングしろ!」




「えー!むり!だってボールを打ってないし、後ろに龍くんがいるし…。」




俺は後ろからボールを外に投げることにした。


後ろから来るボールを打つのは難しいが、これならアウトコースを打ちに行くスイングにはなる。












アウトコースのボールを拾いに行くようにスイングを開始、いつもならスイングを開始した時少し体が開き始めるが、アウトコースを打つ時はここで我慢だ。




我慢のタイミングだけ、お尻をぐっと押して開かないようにしてすぐに手を離す。






「危ねぇ!!」




振り終わった後は気をつけろと言ったのに、普段通りに振り切ったバットが俺を襲ってきた。




「あ、ごめん!打ちに行くのに集中しすぎて。」






「何となくわかった?これでいいかな。」




お約束だが、帰られせてはもらえないみたいだ。




「うーん。押し込まれてびっくりして分からなかったからもうちょっと!」






俺はここから30分間ボールを後ろから投げ、いいタイミングでお尻を押してあげて、たまに忘れたように現れるバットを必死に避けるトレーニングが始まった。




「はぁ。疲れた。」




「ありがとう!なんか打つ瞬間?直前?にいつもよりもぐっと力が入る気がする!」




「練習でトスバッティングするときはアウトコースに投げてもらって、今の感覚で打つ練習するんだよ。後、流し打ちすることになるから投げる人はいつもよりも遠くにいてもらって危なくないように。」






「龍くんありがとう!それじゃ練習するね!」






そういうとさっきまで俺の事を散々引き止めた女の子は一瞬にして去っていった。






「まぁ、俺も帰るか。」






俺は公園特訓を終わらせて家に帰るのであった。











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