元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!
物真似!
「ねぇねぇ。そこのイケメンのお兄さん。私と遊ばない?」
俺は後ろから少し甘い声で俺の事を呼ぶ女の子にかなりドキッとした。
これが恋の始まりかもしれないと思い、振り返ると…。
「東奈くん。やっほー。ちょっと期待しちゃった??」
玉城さんが俺の事をからかってきた。
最初に会った時は元気がよくて可愛らしい女の子だと思ったが、こいつは小悪魔属性を持っている。
「練習参加してないよね?なんでここに?」
「え?バーベキューがあるからって来ただけだよ?東奈くんがここに誘われたのもお父さんに私から告げ口したからだよ。」
計画通りだとニヤニヤしながら俺の方を見ていた。
本能的にこの女は姉とも昨日のかのちゃんとも違う。異性として相手するとヤバいやつだと思った。
「はぁ…。まぁいいや。俺一人じゃ心細いし、玉城さんと一緒にいた方がいいか。」
「なら決まりー!知り合いも居るから紹介してあげるよー。」
俺はそこから1時間くらいあっちに行きこっちに行きし、慌ただしいウィンドショッピングに付き合わされた気分だ。
「次はね、皐月。あ、七瀬皐月。スカウトしてるんだったら東奈くんも知ってるでしょ?あの球の速い七瀬皐月!」
もちろん知っている。
俺の今回の大本命なのだから。
「皐月ー!久しぶりー。」
そこには仲良く一緒にご飯を食べていた七瀬さんと江波さんが一緒にいた。
江波さんは監督にあんなことを言われていたが、今のところ何も言っていないようだ。
こんなに仲良さそうなのに関係が崩れるのも関係ない俺でも悲しい。
「お、玉城!久しぶり!先週の大会優勝おめでとう。夏の予選はうちも負けないよ?」
監督と喧嘩するくらいだから強気なのだろうが、案外普通だった?ちょっと男勝りな感じは受けるが。
「んで、そちらの男の人は玉城の彼氏だったりする?」
「どうも、初めまして。東奈龍です。大ハズレで先週知り合ったばかりなんだよ。」
「あれ違うのね。確かにあんまり東奈くん?が玉城のこと好きじゃなさそうだしね。」
そう真顔でいうと、隣にいた玉城さんは見事に1本取られたのが悔しいのか少しむくれている。
「まぁそんなことはいいよ!それでそっちの子は皐月のチームメイト?」
「は、はい!こんばんわ!初めまして!え、江波夏実です!夜、よろしくお願いしますっ。」
何故かやたら噛み噛みというか緊張してるのか?
もしかして、いきなり男の俺が現れて緊張してるっぽいな。
「あ、いきなり男の人が来て緊張してる?俺はみんなと同い年だからあんまり緊張しなくても大丈夫。」
俺は緊張の雰囲気を感じたので、すぐにフォローを入れておいた。
少しでも好印象でこの場を終わらせるしかない。
「あ、そうなんだ…。てっきり年上かと思って。」
「身長も高いし、そう思っても仕方ないね!改めてよろしくね。」
「うん!よろしくね!」
俺はフォローを即座に入れたことによって、江波さんの緊張を解いていい感じにすることに成功した。
「それで、2人は一体どんな関係?参加してないのにバーベキューに参加するなんて変じゃない?」
七瀬さんは結構鋭い指摘を入れてきた。
結構察しがいいか、勘ぐり深い性格をしているのか?
「えっとね、東奈くんは私の知り合いというよりうちのチームメイトの橘桔梗の幼なじみなんだ。」
「橘ってあの橘?」
「どの橘かわからないけど、皐月が言ってる橘で合ってると思うよ。」
そう玉城さんが答えると、七瀬さんは少しだけ考えるような顔をした。
「東奈くんと知り合ったのも、桔梗が決勝前に東奈くんの家に行って、打撃練習を付き合ってもらって優勝に影で貢献してもらったんだ。」
俺は隣にいる玉城さんをちらりと見た。
その瞬間俺の方を一瞬だけみて、意味深な表情で笑った。
『玉城さん、俺が七瀬さんをスカウトしようと思ってるのがバレてるな。女の勘というやつか?』
妙に俺の事を七瀬さんにプッシュしてくるから、少しおかしいと思ったがあの表情からして何か嫌な予感もするが、スカウトの為なら後でどうなってもいいと思った。
「決勝って確か相手のピッチャーってサイドスローの藤だったよね?てことは東奈くんはサイドスローの投手?」
七瀬さんは俺がこの前の大会優勝に一役買った俺に興味が湧いたらしい。
隣にいた江波さんも気になる様子で話を聞いていた。
「いいや、俺はサイドスローの投手じゃないよ。」
2人はサイドスローじゃないと聞いて少し頭の上に疑問符が出ていた。
「東奈くんは自分のこと話す時は言葉足らずだから、私か説明してあげるね。」
朝いきなり家に押しかけたこと。
その後にピッチャーのフォームを映像で見せて、それを即座に真似させたこと。
ストレートの速さや球種も出来るだけ似せたようなボールを投げてもらって打撃練習させてもらったこと。
シンカーだけは上手く投げれなかったから、少し投げ方を変えてシンカーも投げてもらったこと。
「うーん。確かにそれを3番、4番の2人が事前に練習できてたらあの藤でも流石にキツイよね。けど、そんなこと簡単に出来るとは思えないんだけど。」
普通ならそんなことできる人間の方が少ない。
だが、俺は桔梗の為に藤さんのフォームを真似した。
「なら皐月、ここでスイングしてみたら?」
そう言って、近くにあった七瀬さんのバットケースからバットを取り出し、バットの先の方を掴んでグリップの方を七瀬さんに突き出した。
「分かりやすくていいね。信じられないなら試せって事ね。」
ちょっと挑戦的な玉城さんに対して、売り言葉に買い言葉で少し手荒くバットを受け取る七瀬さん。
「あわわ…。」
見ようによっては喧嘩っぽい玉城さんと七瀬さん。
それを心配そうに見ている江波さん。
「全然大丈夫だから。」
俺は少しだけ江波さんに近づき、肩に軽く手を置いて安心させる為にちょっとした声をかけた。
さりげなく肩に手を置いているが、この行為でセクハラで訴えられるかもしれない。
そうなったら前科持ちコーチになるのか?
まぁやってしまったことは戻せないので、これから気をつけようと2人がバチバチやってる間に全然違うことを考えていた。
ブンッ!ブンッ!
七瀬さんは目の前で4回、5回と素振りをしていた。
俺はもう見なくても今日十分な程見ていた為、振る前から真似しようと思えば出来た。
「もっとした方がいい?」
「いいや、もう大丈夫。」
俺は七瀬さんと同じ右打者として、フォームを真似した。
ブンッ!!ブンッ!!
目の前で自分と同じ瓜二つのフォームを披露された七瀬さんは驚き、そして引いていた。
「え?このフォームって今の私のフォームとそっくりなのは分かるけど、なんか違うような。」
「いや、私が見た感じ皐月のフォームと何が違うか分からないくらいだったけど。」
「私も皐月ちゃんのフォームだと思うよ?もしシルエットだったらわかんないと思う。」
「うーん。それだったら何かフォーム変なような気がする…。」
さっきから七瀬さんは真似する俺のフォームをまじまじと見てなにかを考えるように、うーんうーんと唸っている。
「あ、あの…。東奈くんってもしかして左打ちだったりします?」
右打者として素振りする俺に急に確信をついた江波さんの一言に俺は一瞬驚いたが、しっかりと周りをみてプレーする彼女にはなにか根拠があるんだろう。
「はは。よく分かったね。なんで分かったか聞いてもいい?」
俺が左打者ということズバリと当てた江波さんに、七瀬さんも玉城さんもかなり驚いた様子だった。
「え、えっと…。東奈くんってかなり野球上手いんだよね?だけど、スイングスピードが遅いなって感じて…。完璧に真似するために右打ちとして素振りしてたらスイングスピードが遅いのが納得出来て…。」
お世辞にも野球が上手い訳じゃない江波さんが、明らかに実力が上であろう2人に説明するのにちょっと恐縮しながら話していた。
今度は左打ちだの言われるのがめんどくさかったので、七瀬さんのフォームを今度は左打者として真似をしてみた。
「…………。」
右よりも断然鋭い左でのスイングに唖然としていた。
江波さんは当たって良かったとほっとした様子だった。
俺の物真似も役に立つんだなと思いながら、唖然としてる七瀬さんに勝負を仕掛けることにした。
「七瀬さん。俺はあなたの弱点を知ってるよ。」
コメント