元天才選手の俺が同級生の女子野球部のコーチに!

柚沙

サイン!





俺は試合前から桔梗達の練習をじっくり見ることが出来た。




やっぱり俺の注目した玉城さんはキャッチボールから違った。キビキビとした動きで鋭い球を相手の胸元にしっかりと投げていて、肩の強さ、送球の正確さもこれまで試合を見に行った選手の中でもトップクラスだった。




打撃練習の時にも思ったが、去年のデータから右の強打者と思っていた玉城さんはバットコントロールがとても良く、去年の打率だけで見ればリーグで10位にも入っていなかった。




俺の感覚的な話をするのであれば、この前スカウトした許斐さんよりもバットコントロールはいいと思う。




もう1人の注目選手の、


四条しじょうかのん。




打撃の方はまだ分からないが、ノックを見る限りだとかなり守備範囲が広い。
そして、多分女子中学生の中でもトップクラスに足が速いと思う。
平均はあんまり調べていないが、練習でのダッシュなどを見る限り俺とあんまり足の速さが変わらないかな?
多分、50m走だと7秒台はまず切ってくると思う。




実際に見てこの2人はどうしても欲しい。




なにも考えずにA特待でスカウトできるレベルの選手だが、Sとなると更にもうひとつくらいは凄い能力がないとちょっとだけ物足りない気もする。








試合はお互いの投手が毎回のようにランナーを出したが、要所を投手が踏ん張り5回終了まで1-1。






相手チームの藤さんは5回まで毎回毎回ランナーを出しながらもきっちりと1失点に抑えていた。




玉城さんは3回にスライダーを打ってセンター前ヒット、5回には1番四条さんの盗塁でツーアウト2塁のチャンスだったがシンカーを打ち上げてレフトフライに倒れた。




桔梗は1回にストレートを捉えてツーベースを打っていたが、3回にツーアウト1.3塁のチャンスでシンカーを打ち損じショートゴロでチャンスをいかせず。






この試合大活躍だったのが、1番の四条かのんさんだった。


公式戦初ホームランが初球先頭打者本塁打。
3回にも初球のストレートをセンター前ヒット。
5回はスライダーを引っ張ってライト前ヒット、そのまま2塁へ盗塁成功。






そして、プリティーガールズは6回表を抑えて6回裏は4番の桔梗からの打順となった。






投球練習をしてる藤さんを見ながら、軽く素振りをしている桔梗。




桔梗の背中にはあまりいい雰囲気を感じられなかった、このまま打席に行けば多分打てない。




自信が無いとかじゃなく多分最初に決めたシンカー打ちを貫くか、他の球を打つかで迷っているんだろう。




俺が桔梗のことをじっと見ていると、その視線を感じ取ったのか俺の方をちらりと見た。






俺は一瞬声をかけるか迷ったが、変わりのものをプレゼントすることにした。






『桔梗、そのままで行くぞ。』






俺達が小学生の頃に守備サインとして使っていた続行のサインを桔梗に出した。
どんなサインかというと、1つ前に出したサインのまま行くぞというサイン。




桔梗は相変わらず表情が分かりずらい女の子だ、
サインに気づいているか、気づいてないかも分からなかった。




だが、桔梗の背中からはいやな雰囲気が消えており、俺は何はともあれ吹っ切れてよかったと思った。






「4番ファースト橘桔梗さん。」








『龍のあのサイン…。サイン続行だったよね。』










カキイィィーーン!!








初球だった。




相手のシンカーを完全に狙い撃ちした桔梗の打球は綺麗な放物線を描いて、レフトのフェンスを楽々と越しその後ろの防護ネットに打球は突き刺さった。




後ろから見ていたため上下のコースまでは分からなかったが、インコースにくい込んでくるであろうシンカーを腕をたたんでインパクトと同時に腰を回転させ、力を上手くボールに伝えていた。




クロスファイヤーのピッチャーからシンカーを打つという点に関しては、今の桔梗よりも綺麗なフォームは無いんじゃないかと思うくらい惚れ惚れとするような打ち方だった。






桔梗は4番としてのホームランという最高の結果を残した。




ホームインすると普段見せないようなとても嬉しそうな顔でチームメイトに迎えられていた。






結局このホームランが決勝点となり、2-1でプリティーガールズが大会を制した。




今年プリティーガールズは3つの大会のうち2つの大会を優勝しており、夏の全国大会進出の最有力候補に名乗り出た。




閉会式が始まり、優勝したプリティーガールズのメンバーが表彰されていた。
そして、閉会式の一番最後に今大会の最優秀選手賞を発表している。
 

この大会の最優秀選手賞は桔梗と思われたが、四条かのんさんが獲得した。






四条さんは大会新記録の11盗塁をマークして、打率も5割ジャストで決勝戦の先頭打者ホームランなども評価されたみたいだ。




桔梗は2本塁打、12打点で本塁打王と打点王を獲得したが、首位打者は俺がスカウト失敗した許斐さんが2位の桔梗に僅かの差で勝利し首位打者を獲得した。




俺はミーティングやらクールダウンが終わって解散される頃を狙って桔梗に会いに行った。






「桔梗ちゃん。大会優勝おめでとう!あのシンカー打ちは見事だったよ。」








「ありがと。いつもみたいに龍には私になにか感じたんでしょ? だから、迷ってる私にサイン出してくれたんだって思って決意できたよ。」






桔梗は俺の意図が全てわかっていた。
その割には全然分かったような様子もなかったが…。




「東奈くん!今日は打撃練習ありがとっ!あんまり結果出なかったけど、試合勝てたからセーフってことでいいかな?」




玉城さんは屈託のない笑顔で勝ったことを純粋に喜んで、俺にお礼を言ってくれた。




俺はスカウトしようか迷ったが、桔梗にはまだ知られたくなかったので、もし2人になれる時があればスカウトをしようと思っていた。






その時はあっさりと訪れた。
桔梗は週間女子野球マガジンの次世代のスラッガーとしてインタビューを受けに行った。






「桔梗行っちゃったね。」




「まぁ、あんだけ実力があるならスカウトもマスコミだって中々放って置かないだろうしね。」




2人になったらスカウトしようと思ったが、なまじ今日知り合い以上友達未満?になってしまった為、逆に言いづらい雰囲気になってしまった。






「桔梗には言わないんで欲しいんだけど…。」






「東奈くん、白星高校のスカウトなんだよね?」






俺は内心かなりドキッとしたが、出来るだけ平常心を取り戻そうとした。






「ど、ど、どうしてそう思う?」






自分でもびっくりするくらい噛みまくってしまい、恥ずかしく、そして情けなくなってしまった。






「あはは!そんなに驚いた?私のお父さんは芥屋プリンセスの監督なんだよ。それでその日に東奈くんと会ったことを詳しく話してくれたから、東奈くんに会った時にお父さんが話してくれた人は多分この人だって思ったんだ。」






「な、なるほど。」






俺はさっきの動揺がまだ収まっていなかった。
それほど俺にとっては衝撃の言葉だった。






「ちょっと意地悪しちゃったかなっ。ごめんごめん。」






そういうと舌を一瞬出して悪戯そうに笑って見せた。






「それで、私をスカウトしようとしてくれたと思うんだけど、先に言っとくね。ごめんなさい。」






初めてスカウトする前に断られた。
それはそれでショックが大きかった。






「スカウトしようとしてたのバレてたら仕方ない。参考に聞きたいけどもう決まってたりする?」






「うーん。無茶だと思われるかもだけど、東京の花蓮女学院のテストを受けようと思ってるんだ。もし、それでダメなら京都の舞鶴女学院にもテストに行くつもり。」






俺はスカウトを失敗したことよりも、玉城さんの目標の高さに驚き、尊敬した。
両校とも姉が甲子園で戦った高校で、どちらも女子高校野球を語る上で絶対に知らないといけない超名門校になっていた。






「うんうん。いいと思う!高いその目標の為に頑張ってる選手は俺は尊敬できるし、好きだよ。」




素直に思ったことを伝えることにした。
ストレートな言葉に玉城さんは照れたような様子で下を向いていた。






「じゃじゃーん!こんな所で告白とは中々大胆ですなー。大会優勝して気持ちがたかぶっちゃったりしてー!?」






そこに現れたのは帽子を後ろにして被り、だらしなくユニホームをすべてズボンから出し、帽子の中から出ている派手なオレンジ色の髪をして、逆光で眩しい中ほとんど顔も分からないのにドヤ顔をして俺と玉城さんの前に立ち塞がってきたヤバい奴だった。








「かのん!いきなりあんたって子は!」








俺の前に現れたヤバい奴はスカウトしようと思っていたもう1人の注目選手の四条かのんだった。






「いぇい!かのん様だよー。野球もいいけど若者はやっぱり恋しないとっ!」








俺は四条かのんをスカウトするのを辞めた。









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