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霊能者、異世界を征く!~奴隷からの出発、魂の能力継いで下剋上。

るう

暗躍

※※※※※

とある屋敷の、一室。

「約束が違うぞ、ドリスは俺に引き渡すはずじゃなかったのか? 言っておくが、俺を甘く見ると痛い目をみることになるぞ、俺の後ろには……」

贅を尽くした内装の書斎。どこかの有名な工房が作ったであろう細工も見事な大きな机。そこに不釣り合いなほどたるみきった身体を凭れさせ、きゃんきゃん吠える若者を見下して、男はゆっくりとした仕草で葉巻に火をつけた。

「ふん、こんな小さな土地の地主がなんだ。そんなに言うなら、おまえが自分でギルドを説得てみろ。ワシは貰った金の分だけは働いた。奴は始末してやったんだ、もう十分だろう」
「……っな! そんな勝手が」

葉巻をふかして度々窓の外を気にしている男は、以前、冒険者ギルドで騒ぎを起こしていた商人だ。そして、その商人に対して怒鳴り散らしているのはヨルゴである。
ここは商人がこの街に滞在するため借りた屋敷だった。

「たまたまもしれんが、ワシと同時期に女を探している輩が闇で動いている。ここ最近、獣人の町々で二十歳前後の女が何人も失踪しているのは知っているだろう」
「それは……いや、それとこれに何の関係が」

聞き分けのないヨルゴを突き放すように、商人の付け根のわかりにくい太い首がゆっくりと左右に揺れて、ため息の様に葉巻の煙を吐き出した。

「大ありだ。ご執心の女もそれくらいだっただろうが。先日、そいつらと接触してウチの部下を二人失った。むしろ、慰謝料がほしいところだ」
「な、なんだよそれ、どういう……」
「知るか。ともかく、この件からは手を引く。何者が、何の目的で動いているのかはわからないが、しばらくはそのくらいの年齢の女には手を出さんのが身のためだ」
「おれはドリスを連れて来いと言ったんだ。約束を反故にするのなら、残りの金は払えんぞ」

そう言って喚き散らすヨルゴだったが、商人はすでに関心を失ったように、手にした葉巻を口にくわえて背を向けた。

「……くそっ、もういいっ! 覚えてろよ」

扉の横にいた男たちにあたり散らかしながら、ヨルゴは扉を乱暴に開けて出て行った。彼のボディーガードらしき男は、屋敷の外で待たされていたらしく玄関から出てきたヨルゴの後を追った。それを、窓辺で眺めていた商人は、葉巻を灰皿へ押し付けながらソーセージのような指を鳴らした。
すると、扉の両側にいた男たちが一歩近づき、頭を下げた。

「仕切り役に睨まれるのは痛いが、ったく……せいぜい、無駄口が聞けぬくらいにはキツく脅しておけ。多少撫でてもかまわん」
「……承知しました」

片耳に傷がある黒いケモミミの男は、商人にそう答えると、ヨルゴが開けっ放しにしていった扉の向こうへと静かに消えた。

「数日中にでもこの地を去ることになりそうだな。ちっ、面倒にかかわったものだ」

数か月前、この辺り一帯の地域をまとめる顔役を祖父に持つ男が、儲け話しを持ってきた。
運搬中の荷物を冒険者が略奪したというストーリーで、もともと運ぶのはハリボテの荷物、さらにそれをギルドでも保障させるというものだ。報酬は前金で全額貰える上、冒険者は全員処分するからあとくされはなく、その中の一人の男の妻をも損害の形として手に入れることができたら、さらに料金を倍払うというものだ。
冒険者の妻、という言葉が出た時少し嫌な予感がした。こういう時、獲物になるのは大体がしがらみのない独り者や、親族と疎遠な者、と相場が決まっているからだ。
だが、美味しい報酬と地域の顔へのつなぎが欲しかったという欲もあった。

「こんな田舎くんだりまで来て、大した儲けにならなかったな。次はもっと大きな町へいくか……」

ここ最近、平民貴族問わず、二十歳前後の娘が攫われる事件が頻発していた。その調査のためか、まわりが一気に騒がしくなった。
何度か町の自警団、貴族街を警備する王都から派遣された騎士などに、事情を聞かれもした。もともとが後ろ暗い人買いをしている手前、妙な関わりを持つのは勘弁したいところだ。

「どこの誰か知らんが、余計な騒ぎを起こしおって。儂の仕事までやりにくくなったではないか。こうなれば、諦めるしかない……少し惜しいが、女一人のために痛くもない腹を探られたくはないからな」

部屋の奥へと続くカーテンを開けると、そこには小さな檻が幾つかあり、美しい被毛の獣たちと並んで、獣人族の少年少女が固まってうずくまっていた。そのすぐ横の重厚な造りの扉の向こうには、眩いばかりの宝石が入っている。

「……ふむ、何人かはこの辺りの貴族に売った方が足が速くなるか、ちょうど教会横の夫人が赤毛の少年をご所望だったかな」

豪華な箱に入った血の様に赤い宝石を眺めて、まるで潰れたカエルのような顔が不気味に笑っている。
すると、ボタボタっと宝石に何かが落ちた。
宝石よりもずっと深い赤い液体が、煌めく表面を無情に汚していく。それが自分から滴り落ちてきたものであると気が付くのに数分かかった。

「な、なに? なにが……」

激しい嘔吐感に襲われたように、脂肪にくるまれた大きな身体を折り曲げた。手に持った宝石を床に落とし、整然と並ぶ貴金属を鷲掴むようにして倒れ込む。
小さな宝石が、床にバラバラと転がった。
しばらくして静かになった空間に、真珠のような玉がコロコロと転がり、動かなくなった巨体に当たってで止まる。
カーテンのむこうでは――先程、彼が消したはずの葉巻の煙が、細く天井に向かって立ち上っていた。

「いいスケープゴートがいたものだな」
「というか、あいつのせいで変な捜索が入りそうだったのだから、自業自得だ。おい、この町の年頃の娘の捜索は、あと一人だな?」

貴族街の一部が見える、高台の某所。
小さな望遠鏡のようなものを覗いていた男が、それを黒装束の袂へと仕舞った。

「はい、結婚しているので後回しにしていましたが、どうやら夫は半年ほど戻っておらず、現在は独り身らしいとのことです」
「……年は二十一か、年嵩だが可能性はある、行くぞ。ここは二人でいい、他のものは撤収だ」
「はっ」

数人の内の二人が飛び出し、闇の向こうへと姿を消した。

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