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霊能者、異世界を征く!~奴隷からの出発、魂の能力継いで下剋上。

るう

商人

地元であるティムの案内で、冒険者ギルドへやって来た。
田舎だからだろうか、すごく古い佇まいだ。石造りの四角い建物に、昔何かの映画でみた西部劇みたいな両開きの木製の扉がついている。片方がちょっと歪んでいるのはご愛敬だ。
覗き込んでみたが、内部が薄暗いせいかよく見えない。やっぱり一人で来たのは軽率だったか。
なにしろ、冒険者ギルドって言ったら荒くれどもの巣窟だし、お約束展開があるかもしれない。少なくとも俺は、弱そうに見えて実は強いとかいう、どこかの主人公とは違う。
絡まれたら太刀打ちできないと、はっきり断言できる。

『入らないのか?』
「入るよ! せっかく来たんだし……」

つい腰が引けて出直して来ようかと考えたが、ティムの「ホラ見たことか」みたいな口調に、思わず意地になってしまった。
両手で扉を押し開けると、ギィッと思ったより大きな音がしてちょっとビビった。
注目を浴びるのを恐れたが、冒険者ギルドは思った以上に雑多な印象で、誰もこちらのことなど気にしていない。まだ昼前ということもあって、今からフィールドに出る者もいるのだろう。掲示板や受付などに数人の冒険者らしき人々が屯っている。
ちょっと安心して辺りを見渡すと、奥には食堂のような酒場のような場所があり、外から見るより広いように感じた。朝ごはんはしっかり食べたけれど、そういえば少し小腹も空いたし、何か飲み物でも貰おうかと食堂の方へと歩いて行った。
ギルドの窓口が見える場所を陣取って、入口から出入りする冒険者を何気なく眺めていた。

「おや、見ない顔だね……と、アンタご主人様と一緒じゃないのか? 厄介ごとは御免だよ」
「あ、えーと」

注文を取りに来たのは恰幅の良い親父だった。冒険者だと思って声を掛けたが、俺の首輪をみて奴隷だと気が付いたらしい。周りを見渡して主人らしき人物がいないことを不審に思ったようだ。

「ここで待ち合わせ、って感じで。あ、金は持ってるから」

それならいいが、と肩を竦めて再び注文を聞く姿勢に戻った。
忙しい時間はウエイトレスがいるらしいが、今の時間は、調理も接客もこの親父一人でこなしているようだ。
宿屋の時も思ったが、奴隷だからといってひどい差別を受けたりはしないようである。もっとも、この町の事しか知らないので断言はできないけど。

「なにか温かい、飲み物で……何がいいかな」
『それならホロホロがうまいぜ』
「え? ほろほろ……?」

ティムのお勧めに思わず復唱してしまった俺に、「あいよ」と請けおった親父がさっさとキッチンへ戻っていった。

「あっ、いや……」

慌てて呼び止めたものの、俺の声はむなしく宙に浮いた。

「ちょっとティム、不味かったら許さないからな」
『うまいって、特に子供には大人気だぜ』
「子供だと!? 俺は……っ」

思わず声を高くした俺に、さすがに幾人かの冒険者がこちらを注目し、慌てて口を噤んだ。このシチュエーションに、ちょっとだけ以前、この世界に来る前の出来事を思い出したのだ。霊に怯えたり驚いたりする態度が、周りからはよほど奇異に映ったのだろう。結果、俺は常に浮きまくっていたわけだが……こっちでもこの調子じゃ、結局は変な奴になりそうだな。

「はいよ、お待ち」

親父がテーブルに置いたのは、なんだかざらざらした手触りの、取っ手のないスープカップのようなものだ。中には、何と表現したらいいのか、たぷっとした? もったりとした? なんかそんな感じのオレンジ色っぽい白い液体が入っていた。
ともかく俺は、お代の銅貨を二枚払った。受け取った親父は、特に注文したわけでもないビスケットを乗せた小さな皿を手渡してきた。ティムいわく、これはお釣りの代わりだという。
要するに銅貨一枚では足りず、銅貨二枚では多かったのだろう。
ちょっと飲むのを躊躇っていると、案の定ティムが面白半分に煽ってくるので、俺は思い切ってそのドロッとした液体に口をつけた。

「うまっ! ……あ、これヨーグルトっぽい。それにオレンジ?」

そう、味と食感がヨーグルトに似ていた。俺が美味しいと言うと、ティムは得意そうにウンチクを傾けた。どうもヤギに似た家畜の乳に柑橘系のフルーツの絞ったものを入れると、こうやってボロボロした感じのヨーグルト状態になり、すごく美味しいとのことだ。
そして冬はこうして温めて飲むのだという。ヨーグルトを温めるなんて考えもしなかったけど、外を歩いて身体が冷え切っていたので、このほんわか来る温かさはありがたい。
そしてビスケット。口の水分を全部持っていかれるが、味は普通。もさもさしているが、一応の甘さはある。俺はとくに甘党ではなかったが、砂糖をたっぷり使ったサクッとした歯ごたえのクッキーを懐かしく思った。

『……っ!? バ、バカな、……なんで?』

飲み物とビスケットにしばらく気を取られてたいた俺は、驚いたような、唖然としたティムの悲鳴のような声に意識を戻された。
同時に、勢いよく飛び出そうとしたティムに引っ張られて、危うく手に持っていた器を放り出しそうになった。

「ちょっ、ちょっ!? 待って、待てティム!」

俺は、慌てて器をテーブルに戻し、一度だけこちらを振り返ったものの、すぐに前方を睨みつけたティムの視線の先を確認した。
ギルドの受付に、何やらクレームでもつけている男が立っていた。
でっぷりとした腹に、たるみきった身体、あるかないかわからない首の上には脂ぎった顔が乗り、もともと小さな目は肉に押し上げられ、まるで細い糸のようである。鼻も口も小さく、面積の大きな顔の中心に集まっていた。
ベレー帽のような帽子をかぶったその男は、贅を尽くした服を纏っており、後ろに護衛のような男が二人立っていることから、おそらく裕福な商人と言ったところだろうか。

『どうして、だってアイツは……、おいっ、おいてめぇっ! どうして……』

ティムの興奮状態に引きずられているのか、俺の感情も無意識に高ぶっていくのがわかった。状況はわからないが、思わず暴れ出しそうな精神状態になっている。
ちょっとヤバイ、霊の……、ティムの意識とリンクしているのか? ダメだ、怒りがこみあげてくる。このままじゃ俺があの男に掴みかかりかねない。
咄嗟に俺は、ティムの腕を力強く掴んだ。

「……落ち着けって!」

ハッとして俺を見たティムは、一旦は気を静めたものの、その後、再び感情が爆発することになる。

「だから、ドリスという女を出せと言っているのだ。聞こえんのか、小娘!」

受付のカウンターに丸太のような腕を乗せ、ギルドの受付嬢を脅しつけて、その男はとんでもない要求をしたのだった。

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