トラブル遭遇率120%ダメダメ男がメチャモテ青春を送るために主人公を目指す
砂時計
勝也は喧嘩には自信があった。生まれ持った不運体質、不良に絡まれる事や自転車などの軽い追突事故は日常で、生まれ持った強さなのか、日々の積み重ねによるものなのか勝也の身体は常人を遥かに超える頑強さを持っていた。
砂時計がひっくり返るよりはやく、勝也はソラの右手のカギを奪うために手を伸ばした。
「それは主人公らしくないな〜」
ソラは落ち着いて鍵を持った右手を勝也の手から遠ざける。同時に砂時計がひっくり返った。
「スタートだ」
ソラは笑みを浮かべ開始の声をかける。勝也は身体を詰め寄せ、ソラの右手に手を伸ばす。
しかし、ソラはバックステップで距離を取る。
「言い忘れてた、殴る、蹴る、掴む、何をしてくれてもいいよ」
距離を取りながら余裕の笑みを浮かべ挑発をするソラ。
「なら、遠慮なく…」
勝也は拳を握りしめ、ソラの顔面に向かって渾身の右ストレートを繰り出す。周りに咲いていた花は衝撃に煽られ空中に花びらが舞う。
「!?」
今までの人間離れした勝也のパワーでもここまでの事は出来なかった。勝也は拳を放しソラに問いかける。
「俺の身体に何かしたのか?」
「この前死んだ時に少しね……それよりいいのかい?僕は止まるけど砂時計の砂は止まってくれないよ?」
「クソ!!」
勝也は無我夢中で拳を振るった、しかし、拳は1つ2つと全て空を切る。その度に周りの花は美しく空を舞い散っていく。
「そうそう、もっと感情を込めて、怒りの感情をもっと全面的に出して!!」
「クソガァァァァ!!」
勝也の拳の速度は加速していく。時間が経つにつれて拳の先にある花は奥へ奥へと花びらを散らせていく。
「怒りの感情も力になるけどそれよりも力になる感情があるんだよ勝也くん……」
勝也の拳はどんどんと加速していくがソラには擦りもしていない。砂時計の砂もあと少しとなっていた。
「あと30秒くらいかな?このままじゃ君は死んじゃうね」
『死』
勝也の頭の中に『死』という言葉がよぎる、その瞬間今までとは違った景色が目の前に広がった。その景色には色という概念がなく、ただただ目標のソラがモノクロで写っている景色であった。
「こんな……こんなところで死んでたまるかぁぁぁ!!」
勝也の拳はより加速し、花びらどころか床にヒビが入り床の破片が宙を舞う。
「そう、その感情、恐怖という感情さ」
それでもソラは涼しい顔で勝也の拳を交わし続ける。勝也はひたすらに目標を倒すべく拳を振り回す。
砂時計は残り数秒で落ち切りそうだ。
「残念、君ならこの試練くらい乗り越えれると思ってたんだけどな……」
ソラはパッと勝也から距離を取り、遠くから手を勝也の左胸へ向かい伸ばす。
「アァァァァァァァァァァァァ!!」
ソラが拳を締めるごとに勝也の叫び声が大きく、より響く。
「無駄な時間使っちゃったな」
―――ドゴォン!!
ソラの拳が石ころ1つの隙間ほどしか無くなった瞬間、大きな物体が勝也とソラ近くにおち、辺りに激しい衝撃と砂煙が舞う。
――――緊急事態発生、緊急事態発生
建物内にアナウンスが流れ、ソラが拳を開く。
「ゲホォゲホォ……ハァハァハァ…」
勝也はギリギリ生きており、虫の呼吸の状態なっている。ソラはその姿をジーっと見つめ気になることがあるのか何かを考えている。
「やっと見つけたぜ……久しぶりじゃねぇか?ソラァ!!」
「ルシウスか……」
2人の間に険悪なムードが漂う。
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