小さなヒカリの物語

あがごん

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しまった。いつかこーちゃんが自分から辞めると言うと思っていたが、甘かった。こーちゃんは辞めようとはしなかった。そしてこーちゃんが私を頼りにしてくれるなら、私はその望みを叶えてあげたい、そしたらもっと一緒にいることが出来る。こーちゃんだったら、練習に付き合うのも苦にはならない。むしろ楽しい。そう思うようになってしまった。そんな考えのせいで、結局こーちゃんを巻き込むようになってしまった。本当に馬鹿だ。
堰を切ったように色々なものが溢れ出て、頬に何かが伝う感触にはっとした。
……もしかして私、泣いてるの?
それは横から、唐突に。
脳天を蹴られたような激しい衝撃が全身を駆け巡った。
オレンジ色の光に包まれながら、私は境界線を越え落ちてゆく。
私の世界は足場を失って、そして私を失った。




 学校に着いてすぐに、屋上から落下する人影が遠目に見えた。金色の長い髪が儚げに揺られて落ちてゆく。人影は地面に叩きつけられて砂埃を舞い上がらせた。急いで遠く離れたその場所に駆けつけてそれを確認する。
「……ヒカリ」
砂煙が風で散った後、両目が映したのは俺が探していた幼馴染の姿。
そして、さっきまで明るく笑っていたはずの、今は見る影もない同居人の姿。
地面に横たわるヒカリを抱きかかえようと肩に手を伸ばした。けれど手はヒカリをすり抜けて虚しく空中をあえいだ。何度繰り返しても触れることが出来ない。
「うっ、うぅぅぅう……」
ヒカリの体が一瞬ぴくんと動いて、途端に苦しそうなうめきが聞こえてきた。ヒカリの端正な顔が苦しみに歪んでいる。
「ヒカリ!」
つらそうな顔は見たくないのに。いつも笑顔でいて欲しいのに。ヒカリを痛み苦しみから救ってあげたい。引き上げてあげたい。せめて手を握るだけでも。けれど俺はヒカリに触ることさえ叶わない。地面を殴ると、手の甲が赤く滲んだ。
「……うぅぅうぅ……」
短いうなりの後に、ヒカリのまぶたが重たそうにゆっくりと開いた。
「ヒカリ!」
もう一度名前を呼んで意識をはっきりさせる。まだ開きかけの虚ろな目が俺を見た。
「こー……ちゃん? ……なんでここに?」
体をうちつけたせいなのか声がかすれて聞こえる。



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