小さなヒカリの物語

あがごん

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って順応するのわりと早いよな。同棲にも一日で慣れたし、最初は疑ったが、討魔師の話もすんなり受け入れることが出来たし、このまま手を繋ぐことも習慣化したりして、なんてな。
「今日は楽しかったね」
「おう、食べてばっかりだったけどな」
「ねぇ、こーちゃんは今日の夕ごはんなんだと思う?」
「そうだな、肉ときて昨日が魚だったから……ってまだ食うつもりなのかよ!」
「まだ四時だよ? 二時間もあればお腹は空くよ」
ヒカリが自分が死んだら泣くかどうか聞いてきた時はすごく心配したが、今日のヒカリを見る限り、だいぶ元気が戻ってるみたいで安心した。というか逆に戻りすぎてデパ地下食材を制覇するぐらいにまで復活したために、これからの食費の面での心配事が増えてしまった。ヒカリが笑顔ならそれでいいけど。
「あっ!」
「ん? どうした?」
ヒカリの足が止まって、俺も歩みを止める。
「ごめん、こーちゃんは先に帰ってて。私は今からちょっと用事が出来たから」
「えっ、用事が出来た? 急になんだよ?」
「ごめん、すぐ帰るから」
ヒカリはそれだけ言ってどこかへ走っていった。手はいつの間にか離れていた。手を繋いでる間はいつもよりずっと身近に感じていたために、急にいなくなると空虚な感じがして少し寂しい。手を離したことが楽しい日常の終焉とさえ思えた。でも終わり方としてはなぜだろう、どこか腑に落ちない。言いたいことはあったが、ヒカリが遠くなってゆくのを見て、追いかけるのは諦めた。なぜか全然追いつける気がしなかった。追いつこうと考えるのがさらさらおかしいが。
俺は家までの五百メートルを、今にも戻ってくるだろうヒカリを思いながら、意識的にゆっくり歩いて帰った。結局、ヒカリは戻ってこなくて、なぜか分からないけれど右手がやけに寂しかった。
「お帰りなさい。あら、ヒカリちゃんはどうしたの? ……まさか泣かすようなことをしたんじゃないでしょうね?」
「いや、帰る途中でヒカリが用事があるってことで別れた。すぐに帰ってくるとは思うけど」
しゃもじがスタンバイされる前に誤解を解く。前と状況は違うが、入学式の朝と同じようなことになったらテンション下がりまくりだからな。
「そういえば、今日ヒカリの誕生日なんだ。だから何かおいしいものでも食べさせてあげたいなぁって思うんだけど、どうかな?」
急にだし、夕食までそう時間もないから準備が少し厳しいか? 無理なら仕方ない。
「分かったわ。そういうことなら今日はパーティーね。でも先々週にしたばかりだから予算はいつもより低めでいいかしら」



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