小さなヒカリの物語

あがごん

101ページ目

子連れがやたら多いなと思っていたけど、そういうことか。午前中はお母さんたちの買い物がメインで、午後は子供たちがメインか。戦いに狩り出されたお父さんたちに悲哀の情を捧ぐ。
一向に動く気配のないバスの〝極限ひま状態〟にそんな見通しが立ってしまっていたが、それはそれとして今日はヒカリの誕生日だ。
「どうしたのこーちゃん? にやにやして」
ヒカリが不思議そうに小首を傾げている。
「えっ、あっ、いや、なんでもない」
何かプレゼントして、ヒカリの喜ぶ姿が見れたらなぁと思っていたのですよ、とは言わない。どうせならサプライズ的にしたい。する方もなんかわくわくするし。はて、何にしようか。
 あれこれ悩んでいるうちにバスは目的地へと着いた。降りてまず視界に広がったのは、車を何百台も停められる巨大な駐車場。そして新装開店された、遠目でも華のあるきらびやかなデパートの外装だ。デパートのてっぺんには新しく作られた星型のネオンが光っている。日の丸デパートなのに星。なんとも分からないセンスをしている。
「これ、デパートなのか?」
「すっごい大きいねー!」
新装開店というよりは改築、いや、これはもう別の建物だろう。もはや俺の知っている日の丸デパートではない。迷子にならない方がおかしいと、入店する前から断言出来そうだ。工事に力入りすぎだろ。
「こんなの迷子にならないほうがおかしいよ」
俺の代わりにヒカリがきっぱり断言してくれた。けどそれって一般人を指す以外に、今日自分は迷子になりますという宣言をしたことになるんじゃないか?
「でもほら、これで迷子にならないよ」
ヒカリの左手が俺の右手をつかんだ。突然のひんやりとした感触に、咄嗟に手を引っ込めそうになる。
「えっ、あっ、おう!」
ヒカリが歩き出したので手を繋いだ状態の俺は必然的に引っ張られ、歩幅を合わせるために俺は早歩きしてヒカリに並ぶ。するとヒカリの口元に笑みがこぼれ、鼻歌も飛び出したので少し恥ずかしいけどこれはこれでいいなと思った。バスの密閉状態から解放されたからか、どこかヒカリは気分良さそうにしている。歩くテンポがリズミカルだ。
「昔よく二人で手を繋いでいろんなとこ出かけたよね」
最近ヒカリは昔という言葉を口にする。最近と言ってもヒカリと再会して二週間のことだが。
「手を繋ぐってそれは小学一年生ぐらいまでの話だろ?」
一定の年齢を越えると、手を繋いで歩くなんて恥ずかしすぎて出来なくなる。あれは幼かったから

「小さなヒカリの物語」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「学園」の人気作品

コメント

コメントを書く