小さなヒカリの物語

あがごん

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ヒカリは時計回りにくるくるとお腹をさすっている。
「冷蔵庫にプリンがあったはずだ。俺が買ったプリンだが帰ったら食べていいぞ」
「わーいやったーこーちゃんありがと!」
ヒカリはプリン♪プリン♪と声を弾ませて、笑顔をつくった。俺に向けた笑顔。この笑顔の裏に隠された不安な思いを俺は知ってしまったから。
「……ヒカリは強いな」
ヒカリを見てふとそんなことを思った。
「えっ?」
「いくら治ったとはいえ、人によっちゃトラウマ級の大怪我なのにヒカリはそれに折れることなくもう前を向いてるだろ? だから強いなって」
俺にはそんなの無理だ。いったい何がヒカリを支えてるんだ。食べ物か? いや、これはヒカリに失礼か。
「ううんそんなことない。私は……弱い人間だよ……」
そう言ってヒカリは空を見上げた。月のない夜。漆黒の空に星の輝きが微かに見える。私は弱い人間だよ、か。ヒカリが弱いとしたら俺は地球で最弱の存在なんだろうな。俺は頭の中でヒカリの存在を最大限に肯定する。そしたら俺も少しはましな位になるのかな、なんて。少しでも強くなれたならヒカリに俺の思いを伝えられるだろうか。一度許してもらったと言ってもあの時と今では重みが違う。どうしても忘れられない。赤い血にまみれてぐったりとして息もしてない、あのヒカリの姿が網膜に焼き付いて離れないんだ。
「あっ!」
急に思い出した。俺の声にヒカリが顔をこちらに向ける。そうだ、大事なことを言い忘れてた。
「ヒカリに謝ってなかったことがある」
「……?」
ヒカリが不思議そうに首を傾げる。昨日の内に言おうとしたけど、結局伝えるタイミングがなかった。だから今言おう。
「昨日下校途中で何も言わず先に帰ったことを謝りたい。ごめん」
一旦立ち止まって、ヒカリと向き合い、頭を下げる。今出来ることを一つずつこなしていく。
「え、えっ!? とりあえず頭あげてよ!?」
「昨日のはほんとに何でもないから、ヒカリは気にしないでくれ。ごめん」
「わ、分かったから顔上げて」
「許してくれるか?」
「うん。何とも思ってないから。ね? だからこーちゃんは顔上げて?」
言われて顔を上げる。ヒカリはけげんそうな顔をするが、ほら早く帰ろうと促して再び歩き出す。気にしていないのか気にしてる素振りを見せないようにしてるのか。どちらにしろ結果的に俺は謝った

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