小さなヒカリの物語

あがごん

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不幸を呼び寄せる体質なのかなこいつは。
先ほどの温和な空気はどこへ行ったのやら、変な空気が流れ始めていた。そんな空気の流れを誰もが変えたいと思っていて、そんな中、英人が口を開いた。
「ヒカリちゃんは今週の日曜日何か用事があるの?」
「用事っていうか、なんていうか……ね? こーちゃん」
ヒカリが俺にウィンクする。約束のことをこの際言ってしまえばいいと思ったが、秘密事にしたいなら俺もヒカリに合わせよう。言って不都合なことはないけれど、わざわざここで言う必要もないし。
「ヒカリちゃんってさ」
「はい?」
「康介といつもいるけどさ、康介とヒカリちゃんは付き合ってるの? 朝一緒によく登校してるしさ、下校だって一緒だよね? それって付き合ってるのかなって」
俺とヒカリのやり取りを不審に思ったか、けげんそうな表情で英人は言う。同棲してることを言ってないからそういう風に見られるのか。いや、同棲してるってのは付き合うより上のことなのか? なんにしろヒカリの対応に耳がおのずと傾いた。
「別になんでもないよ。ただの幼馴染だから」
「まあ、そっか。ヒカリちゃんがそう言うならそうなんだろうな」
英人はその答えに納得したらしく、弁当のほうに視線を戻す。ヒカリの受け答えは当たり障りのないナイスなものだ。どこにも問題はない。けど、なんだろう。なんか物足りないっていうか、なんかこう……ねぇ? まったく俺は何を期待してんだろ。頭の中まで春の陽気に当てられたのか? いかんいかん、気持ちを引き締めなければ。ヒカリを変に意識しないように努めて箸をすすめる。やばい、味が分からん。「ただの幼馴染だから」その言葉が頭の中を巡ってる。
「あっ、こーちゃん。それ、私が作ったんだよ」
「へっ?」
ヒカリが身を乗り出して、俺を覗き込んでくる。膝立ちなので顔の高さは俺よりも下。図らずも上目遣いになってる感じ。わざとじゃないと思うが、そんなことされると余計に食いづらくなる。
「その、今箸でつかんでるから揚げ。朝早起きしてお母さんの弁当作りを手伝ったんだぁ。何個か作ったんだけど、ほとんど焦げちゃったから、こーちゃんの分にしか入れてないんだよ。食べて感想聞かせて。わくわく」
嫌な汗が体のいたるところから吹き出る。額から汗が流れ落ちてきた。え? これ死亡フラグ?
ヒカリはにこにこして、俺が食べるまで待つつもりのようだ。やんわり視線をどこかに向けさせる方法を考えるが、英人も鈴木も俺のほうを見ている。食べるしかないみたいだ。ええい、ままよ!
無駄に腹に力を入れ、から揚げを口の中に放り込む。そのままの勢いで咀嚼する。あれ?
「……うまい」
「ほんと? やったー! こーちゃんがおいしいって言ってくれたぁー!」



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