小さなヒカリの物語

あがごん

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名前がなんと壮大な。鈴木のネーミングセンスは親父譲りのものだったのか?
「……って日曜日? 今、日曜日って言ったか?」
その日は絶対他の予定を入れちゃいけない日だ。
ヒカリが心配そうな顔を俺に向けた。分かってる、と頷き返す。
「すまん俺はパスだ。その日は外せない用事があるんだ。せっかく誘ってくれたのに悪いな」
「やっぱ最近つれなくないか? なぁ、英人は来るよな?」
「あぁーじゃあ俺もパスだな。一人だけ友達として招待されても気を遣うだけだし。鈴木はお父さんを目一杯祝ってやってくれ」
英人も行かないということになって、鈴木は寂しそうな表情を浮かべた。はぁーとため息をつき、人差し指を合わせていじいじして、はっとしたように顔を上げ、瞳をきらめかせて、
「ヒカリちゃんはうちに来ない?」
「だめだ。絶対行かせねぇ!」
「なんでお前が決めるんだよ!?」
俺の即座の返答に鈴木はたじろいだ。瞳のきらめきを奪うことして悪いと思うけど、ここは全力でブロックだ。ヒカリとの約束のためには致し方あるまい。
「そうかそんなことするのかお前は。俺の立場もちょっとは考えてくれたっていいだろうによ! 誰も連れてこないって俺はどんだけ寂しいやつなんだよ!?」
「でもラブレターの件でヒカリと二人きりはまずいだろ?」
あんな突飛な文章を書く奴は、脳の思考回路も突飛に違いない。突飛な行動をするかもしれないから、こいつにヒカリは任せられない。
「そうだ、返事!」
鈴木は何か大事なことを思い出したかのように高い声をあげた。みんなの視線が鈴木に集中。
「ヒカリちゃん!」
鈴木はすくっと立ち上がって、ヒカリのほうに手を伸ばし、
「手紙の返事を聞かせてください。よかったら僕と付き合ってください!」
まだ諦めてなかったのかよこいつ。
「返事を強要する真似はやめろよな。ヒカリがあのことでどれだけ被害をこうむったか」
あることないことを並べたてる。嘘も方便。嘘をつくだけでこの場が収まるならいい。
しかし、思いがけないことがおきた。ヒカリが大きく息を吸い込んで、
「ごめんなさい。私は鈴木君とは付き合えません。手紙は嬉しかったけど、ほら、お互いのことよく知らないし……とにかく無理なんです、ごめんなさい」
俺の口があんぐり開いた。こんなにはっきり断るなんて思わなかった。
「そ、そそ、そそそそっか」
鈴木はしょんぼりとなって床に座り込んだ。中学からのを合わせると、これで確か告白十五連敗だ。

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