小さなヒカリの物語

あがごん

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「知ってるよ。私もその場所にいたから分かる。こーちゃんが倒れたところまで覚えてるよ」
「……そうなのか?」
驚いた。当人の俺ですら覚えてないのにヒカリが知ってるなんてな。いや、そんなことはどうでもいい。もはや隠せないほど、言い訳出来ないほどに声が震えていた。ヒカリが今にも泣きそうだ。何か言わないと。
「ヒカリは記憶力がすごいな。あざ作るくらいだから、その時の俺はやんちゃだったんだな」
返事はない。ヒカリの体の震えが背中越しに伝わる。熱も一緒に伝わってきて、そんなヒカリをなんだか愛しく思った。何も言わずに抱きしめられたらと思うが、そこまでの勇気はなかった。抱きしめられる一方で、熱の伝わる方向は一方向だ。この状況は過去のどんな場面にも当てはまらない。一言で言えば、ヒカリらしくない。俺の知ってるヒカリはもっと明るくて、天真爛漫で、死んだりしたらなんてことを聞いてこない。ああ・・・・・・そっか。
「たぶんヒカリは今日の件で疲れてるんだよ。早く身体を休めたほうがいい。寝ればもやもやしたことも結構すっきりするもんだぜ?」
俺はヒカリのことを少し勘違いしてたのかもしれない。いくら大丈夫と言っても、ヒカリは討魔師である以前に十五歳の女の子なんだ。命をかけて戦ってるんだ。理解していたとしても、怖さがないわけじゃない。今日だって一つ間違えれば命を落とすところだった。それがヒカリの心にどういう影響を与えたのか大体の予想はつく。明るく振舞う中にどれだけの不安が隠されてるのかどうやら俺は見抜けなかったようだ。
そこでふと思い出す。コンビニでヒカリがはしゃいでいたこと。その時俺が思ったこと。
「そうだ、今週の休みにどこかに出かけないか? ぱーっと遊べば気分も晴れるだろうし、少しは元気が出るかもしれないし……って、休めって言って外出しようって矛盾してるな。やっぱ今のなし」
俺はいったい何を考えてんだか。人を励ますことに向いていないのかもな。
「……いいよ。行っても」
「え?」
今、なんて?
「週末、二人で一緒に外に出かけようよ」
「……まじで? やったー! んじゃ、どこにする?」
まさかOKを出されると思っていなかったから、この結果には驚いた。いつの間にか頭痛は引いていた。寝るまでこのまま引いていて欲しい。
「こーちゃんが決めていいよ」
「うーん、そうだな……あっ、あそこはどうだ? 隣町に新装開店したデパート! すでに見に行ったらしい英人と鈴木からどんなだったか一応話は聞いたんだ。とにかく品揃えがめちゃめちゃいいらしいぞ。服でも食べ物でも電化製品でもデパート内を探せば何でもあるらしい」
「……デパート?」



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