小さなヒカリの物語

あがごん

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いつから。他に含意のありそうな言葉だが、俺は素直にそのままの意味をとる。
「うん。たぶん、それがお互いを意識し始めた時期なんだろうね」
いきなり何を言い出すんだろう。その言い方だと今でも意識しあってるみたいに聞こえなくもない。ヒカリの考えていることが全く読めず、俺は右手で額をかいた。変な沈黙が流れる。壁にかけられた白い時計がチクタクと針を動かし、無音状態を少しでも阻もうとする。それが却ってむなしく聞こえ、部屋に広がる空気の重みに拍車をかける。
耐え切れなくなった俺が口を出す前にヒカリが席を立った。そのまま俺の後ろに立ち、抱くように両肩の上に手を回してきた。いきなりのことに身動きがとれない。振り返らないことがこの場合、唯一正しいことのような気がした。
「ねぇ、こーちゃん」
「は、はい」
ヒカリの吐息が首元にかかる。なんだか、熱い。
呼び慣れたその言葉にも今までとは違った含みを感じた。
「こーちゃんは私が死んだらどうする? 泣く?」
「な、なに言い出すんだよ急に!?」
口に飲み物でも含んでいたら盛大に吹いていただろう。危ない、危ない。
「答えて」
後ろにいるから顔は見えないけれど、ヒカリはおそらく真剣な表情をしている。声のトーンで分かる。
「……泣くと思う。たぶん。いや、絶対」
「それはどういう理由で泣くの? 幼馴染だから?」
熱を帯びたヒカリの頬が俺の首元に触れて俺はなんだかおかしな気分になった。後ろを振り返ろうとすると、俺を抱くヒカリの腕がきゅっとしまって、動くことすら制限される。
「いったいどうしたんだよ!? 今日のヒカリはなんかおかしいぞ?」
おかしいどころではない。長年幼馴染をしているが、ヒカリが俺にこういうことをするのは初めてだ。と、右肩が少し重くなった。さらさらの髪の毛が首筋にかかり、全ての意識がそこに集中する。呼吸をする度にヒカリの髪が接触分の皮膚を侵す。ゾワリと首から頭へ変な感覚が突き抜ける。
「風呂場でね、見えちゃったの」
「な」
見えたってそれはまさか。局部付近はすぐに隠したつもりだったんだが。
「あざ。肩のところに大きなあざが見えた。ものすごく大きかった」
ここら辺とでも言うように、その部分をヒカリの指がなぞる。
しかし、何を言い出すかと思えばなんだそんなことか。
「ああ、あれはなんか昔何かで怪我したらしくて、その時出来たあざだと思う。ほんとに幼い頃だったみたいでその時の記憶はないけどさ」



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