小さなヒカリの物語

あがごん

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「風呂あがったら言ってくれ、それじゃ」
「こーちゃん、ちょっと待って」
脱衣所のドアを閉めきる前に声がかかった。やっぱり怒ってるよな?
「……あとで私の部屋に来て」


俺は風呂から上がると、ヒカリに言われたまま屋根裏部屋に向かった。屋根裏部屋へは、二階のある部屋を通る必要がある。俺の部屋の二つ隣の、今は書物が置かれるだけの部屋。たまに辞書を持ち出して使うくらいで、それ以外で足を踏み入れることはまずない。久しぶりこの部屋へ入る。一番奥に天井から吊り下げられた階段があった。ヒカリの部屋はこの階段を上ればすぐだ。
「やっぱ怒ってんのかな。わざとじゃないのに」
取り外し式の天井をノックして、入室の許可をもらう。返事が返ってきたので、思い切って板を押し上げた。開けてまず目に飛び込んできたのは……
「すげー!」
俺の知ってる屋根裏部屋じゃない。部屋はピンク一色に染まってて、なんだが〝女の子〟って感じだ。
「私だって女の子なんだからね。これくらいの装飾はするよ。はい、こーちゃんはそこに座って」
言われて俺は、あらかじめ用意された椅子に腰掛けた。ふかふかのクッション。座り心地最高。自室にも一つ欲しいな。買っても良いかいつか母さんに交渉しに行こう。まぁ、それは置いといて。
「で、用事って……?」
ヒカリはなぜか怒っているというよりはどこか沈んでいるように見える。これは噂に聞く嵐の前の静けさというやつか?
「ううん、用事っていうほどのことじゃないんだけど、ただ、こーちゃんとゆっくり話したいなぁと思って」
その話ってのはもちろん、俺が変態出歯亀という烙印を押される系統のものなのだろう。
こういうのは先手を打って、怒る気持ちを削ぐのが理にかなっている。
「わたくしめの不手際により多大なご迷惑をおかけしたことを大変申し訳なく思っております。もう二度とこのようなことは致しませんので……」
DO GET THAT(土下座)を決め込んで全身で謝罪する。どうかこの思いが伝わりますように。
「え、なんのこと?」
「あれっ? 話って風呂を覗いたことについてじゃないのか?」
「あれはもう済んだことだからいいよ。恥ずかしかったけど、こーちゃんに悪気はなかったみたいだし」
別に怒ってない? じゃあなぜ部屋に呼ばれたんだろう。ちょっと拍子抜け。とりあえず椅子に座り直す。ヒカリがもう一個椅子を用意したので、お互いに向かい合って話す形になる。
「そういえば昔はよくお泊りで一緒にお風呂入ってたのにね。……いつからかな?」
「いつからって、一緒にお風呂入らなくなったのはいつかってことか?」



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