小さなヒカリの物語

あがごん

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残っている操力をかき集めて、やるべきことをする。やり遂げられるかはもう分からない。
出血部分に最低限の操力をあてて、最大限に跳躍する。オウムの接近した瞬間を見切って、返り討ちにするという最後の攻撃。大丈夫、重力が私の剣を押してくれる。。私にはもうほとんど力は残っていない。しくじればそれで終わりだ。
「ハァアアアアアアアアアアア!!!!」
全身全霊を剣にのせる。意志の力で鋭く叩き込む。剣先がオウムに触れた。そのまま押し込もうとさらに力を入れる。
「くっ!?」
が、振り切ったつもりの剣がなぜかオウムを貫かない。それどころかオウムの突進の力に圧され、体は空中から地面に押し返された。あぁ、と声が漏れて、痛みがそれに続いた。
どうやら私はオウムを斬る操力も残ってなかったみたいだ。自分が思ったよりも重症で限界は近かったらしい。揺らぐ視界で、オウムの向かってくる姿を最後に視認した。もう体は動かない。
「私が死んじゃったらこーちゃんは泣いたりしてくれるのかな……」
太陽は照り輝いて、空は青く澄んでいた。おそらくこれが最期の光景になると心で悟り、知らずに涙が零れ落ちた。




「……もういいだろうがよ」
誰が見てもヒカリは限界だ。それはそうまでしてしなきゃいけないことなのか? そんなぼろぼろになってまで守るべき重大なことが十五歳の少女の背中に乗ってるって言うのかよ! ふざけんな! んなもの任せた奴を殴り飛ばしてやる。そいつらは何も不思議に思わなかったのか? 一緒に戦ってやろう、ヒカリがせめて大人になるまで手助けしてやろうとは思わなかったのか?
激しい怒りが込み上げてきて、言葉にならないもどかしさで我慢の限界を越えようとしていた。吐血しながら戦う幼馴染の姿に、守りたいという思いが心に広がってゆく。燃えたぎる感情が理性と本能の境界を、
「越えたところで俺はいったい何が出来る?」
ふっと感情の縄がほどけた気がした。それで、それで俺は? 外に向けた波が内に向かう波に変わった。どうすればヒカリを助けることが出来る? 何もしなければ、俺もその無責任な奴らと同じだ。自分の無力さに、弓を持つ手にいっそう力が入る。爪が肉に食い込み、手のひらを傷つけた。けど、こんなのヒカリの痛みと比べたら無いのと同じだ。腹部を貫かれて息も絶え絶えなのに、それでも戦い続ける姿はとても見ていられるものじゃない。
ヒカリの仕事を手伝うことで己の罪から逃れようとしていた自分は、それさえも出来ていない愚か者だ。
「俺は……」



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