小さなヒカリの物語

あがごん

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これと言ってヒカリが首元から何かを外す。見ると十字架のネックレス。
「オウムが形成されたらこの十字架が震えるの。でも別にこれは持ってなくてもいい。ある程度熟練してきたら自分の察知能力で反応出来るようになるから」
ヒカリは十字架を首にかけなおす。なんていうかこの世界はよどんで見える。建物はそのまま基本空間と変わらないため世紀末の光景までとはいかないが、それでも居心地が悪い。紫色のもやがかかって、霧?みたいに見える。視界は開けているし、実体がないため、動く時の障害にはならないが胸がもやもやする。何だろうこの感覚。
「今こーちゃんは慣れない感覚に少し驚いてると思う。この薄紫色のもやは実体がないといっても、負の感情分子で構成されてるから、元の人間の気持ちが少しずつ空気にこぼれだしてるんだ。人の負の感情、それが今こーちゃんの心を揺り動かそうとしてるの」
少しずつ呼吸が浅くなっているような気がする。少し眠たくなってきたのがその証拠。脳に酸素が行き届いてない。
「そうだな、あんまり居心地のいいとこじゃないのな」
寝るのには最適かもなと軽口をたたく。そうでもしないとこの気持ち悪さを拭えない。こんなとこでいつもヒカリは戦ってるのかと思うと、すげえなしか言葉が浮かばない。
「他に何か感じたことは?」
ヒカリが俺に言う。
「うーん、なんか疲れやすい気がする」
それも基本空間とは違うところだけど、とヒカリは前置きをする。
「あのね、こーちゃんは気づいていないかもしれないけど、この世界は今日の風景じゃないの」
「……どういうことだ? まったく同じにしか見えないんだが」
周りを見渡しても、普通に電柱が建ってるし、川は普通に流れてるし、空気も一応ある。すごく居心地が悪いということ以外には変わったとこは見受けられない。
「ここはね、一日前の世界なんだよ。時間軸が少しずれていて、今日の基本空間がこの異次元空間の明日になるんだ。もしこーちゃんが基本空間に咲いてるたんぽぽを引っこ抜いたら、明日の異次元空間でもその花が引っこ抜かれてるの。つまり、この世界は実際にあった過去の世界。そして起ったことがまだ起ってないことになってる、ある意味タイムマシーンを体現したような世界」
「そうなのか」
よーく見れば雲の量が今日より多い。いつの間にか太陽が雲に隠れている。ヒカリの説明によれば、これは昨日の風景。昨日か今日に雨でも降っていれば違いが分かりやすいのだが、昨日ここに来たのは墓参りを終え、夜になってからなので昼の風景を知らない。まあ、それはすぐに確かめられるが。
ヒカリに頼んで、もう一度『扉』を開けてもらう。呪文のようなかけ声の後に大気にひびが入る。そのひずみの中に足を入れてそのまま体ごとすっぽり抜けきる。ヒカリも後に続く。
出た途端、がくっと膝から崩れ落ちる。そのことに自分が一番驚いた。知らず知らずのうちに緊張し

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