小さなヒカリの物語

あがごん

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予定……来年、再来年と続く、すでに定型化された予定だ。覆すことは出来ん。
「今週の土曜日は父さんの十三回忌の墓参りなんだ」




 父さんのお墓は市外にあるため、車で行くと二時間ほどかかった。
毎年ここにはきてるので、頑張れば歩きで来れるくらい道順も覚えてしまった。
父さんは十二年前に俺をおいて亡くなった。物心つくかつかないぐらいの頃だったから父さんの記憶はない。今こうして父さんの墓の前で手を合わせる間に巡る映像は、仏壇に供えられている父さんの写真だ。実際に父さんを見た記憶はない。
「こーちゃん。水ってこのくらいでいいかな?」
「ああ、全然足りると思う」
ヒカリから水の入った桶を受け取る。
「せっかくの休みだから家でゆっくりしとけばいいのに。ヒカリは別に来なくても大丈夫だったんだぞ?」
うちでは毎年、父さんの亡くなった日に親戚も集まって墓参りをする決め事がある。結構な人数がここに参来して拝んでいく。ヒカリにとっては知らない人ばかりの集まりなので、わざわざ休みの日を削ってまで来るほど楽しいものじゃないと思うが。
「私も来てよかったんだよね? 休みと言ったってどうせ何もすることないんだし。それにこれはこーちゃんのお父さんのお墓参りでしょ?」
「そうだけど、接点ないだろ」
「いいや、私も来なきゃいけないの。本当はもっと早く来たかったんだけど……」
「ヒカリ?」
ヒカリがここに来なきゃいけない理由? 実の息子の俺ですら父さんのことを覚えてないのに、ヒカリが父さんを知ってるはずがない。ヒカリは父さんを誰かと勘違いしてんだろう。
……あれ、どうしたんだ? ヒカリの手が震えてる。様子が変だ。
「どうかしたのか?」
「あ、ううん。何でもないよ。気にしないで」
何でもない……か。何でもないって言葉は何かあるときにも使うんだよなぁ。問題はヒカリがどちらかということだ。ヒカリの顔に一瞬だけだが、暗鬱な影が差した。ヒカリは俺に何か隠してる?
「水、使わないの?」
「えっ?」
要らない勘繰りをしていたために、ヒカリに声をかけられ動揺し、手に持っていた桶の水を少しこぼしてしまった。何やってんだよ俺。
「墓石を一生懸命磨いてピカピカにしてあげなくちゃ」



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