小さなヒカリの物語

あがごん

56ページ目

「ヒカリのことが好きでひぃた。僕と結婚してくだしゃい!」
食いしばり過ぎたせいか、噛んでしまった。
少年は内心すごくあせったが、言い切った以上やり直しは効かないし、後戻りも出来ない。
それになにもまだ終わったわけじゃないのだと少女の返事を待つが、
「…………」
少女は何も言わず、その場から離れるように駆け出してしまった。
小学三年生のある夕方の日のことだった。
******************


「まとめるとだなぁ」
湯船の中、俺は一人悩んでいた。ぶくぶくぶくと口でお湯を振動させて考え事に集中する。
「力の加減を間違えなければ矢はまっすぐ飛ぶのは分かった。だけどそれだけが出来ていても縦横無尽に動き回るオウムは仕留められない。今日みたいに来る場所が分かっていればいいが、ヒカリに向かって撃つのはあんまり気が進まないしな。今日、俺はほんとに役に立ってたかな」
オウムに当たりはしたが、完全に仕留めたわけじゃない。核という部分を壊さなきゃ意味がないらしいのだ。帰り道にヒカリと、オウムのことについて話した。
「俺、役に立ってたかな」と聞くと「十分役に立ったよ」と言い、「脇腹は大丈夫か」と聞くと「あんなの全然。操力でガードしたから何でもない」と言った。
そして最後に「こーちゃんが無事ならそれでいいよ」と言った。あれは一体どういう意味だろうか。
俺は一人安全地帯にいて弓を射ていただけだ。かすり傷さえ負いやしないのだ。それなのに俺を心配するってのは……うーん。ヒカリはやっぱり優しい。今日だけじゃない、あの時だってそうだ。あの時、俺が犯してしまった罪をヒカリは許してくれた。昔を思い出して少し胸が痛む。
「ま、どうせ昔のことだしな」
強がってみたが、心はズキズキ。体は正直だ。いったい何度目の話なんだろうか。
忘れようと思えば思うほどそのことは深く深く記憶に刻み付けられる。
今更だとは思う。だが、罪を償おうとしなかった今までの自分にケリをつけなければならない。
〝協力する〟という形でしか見出せないが、このチャンスはものにするんだ絶対に。
いつまでかかるか分からなくても俺は強くなろうと心に決めた。




ヒカリと再会して、三日目の夜。
今日も俺はヒカリに弓の練習を手伝うように頼んで、青い炎めがけて黙々と矢を射ていた。
そして昨日の練習と変わらず、今日も炎にかする気配はない。的という的に当てたことは今日のオウムの一回きりで、ヒカリの振り回す炎には当たらない。



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