小さなヒカリの物語

あがごん

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もう矢のない手持ち状況を踏まえてそんな思考が脳を巡っていると、燃え盛る青い炎が縦に一閃。オウムを真っ二つに切り裂いた。
紫色の禍々しい球体は唸り声を上げ、深青色の光とともに視界から消え去った。いなくなったのを目で確認し終えると、ぴんと張り詰めていたものが一気に解けた。俺は後ろに手をつくようにして地面に座り込んだ。……今度こそ本当に終わったみたいだ。
「帰来」
ヒカリの声で剣が吸い取られるようにしてカードの絵柄に変わる。
ヒカリは手早に済ませると、俺のほうに走ってきた。はて、どうしたものか、俺はなんて言おうか。
考えて、シンプルにやったぜと言おうとしたら、ヒカリはポケットからハンカチを取り出し、
「はい、これで汗拭いて。そのままにしておいたら風邪引いちゃうよ?」
そう言って俺の額の汗を拭おうとしてスカッ、あ、あれ?
「そっか、戻るの忘れてた。今いくから」
瞬間、目の前の空間に亀裂が入り、突風が俺の髪をオールバックにした。
「ふぉおおおおー!」
汗なんか吹き飛んで、肌荒れを心配するくらいのとんでもない強風。
「はい、ハンカチ。って、あれ?汗がなくなってるよ?」
いやいやいや! もっと言うべきことあるだろ!? 変更点だけなら髪型のほうが目立つと思うぞ? まぁいいか。髪の毛をかき戻してヒカリの優しさを受け取る。
「ありがとな」
さっきまで緊張を強いられていたはずなのに、もう切り替えて明るく振舞えるヒカリを人間として強いなぁと思った。俺の男よりも全然。それだけつらい思いをしてきたということなんだろうけど、ヒカリが自分の命を危険に晒す戦いに慣れてしまっているようで、その様子をなんだか寂しいとも思った。昔と変わってないように見えて、こういう部分で変わっちゃったんだなぁって。
「だ、だいじょうぶ? どこか痛いの……?」
ハンカチをつかんだまま動かない俺を、ヒカリは心配そうに覗き込む。
「いや、何でもない。ぼーっとしてただけだ」
慌てて言葉を取り繕う。変わったなとか改まって言うような言葉じゃない気がするし、変わることは成長という言葉にも置き換えられる。俺は何も言うべきじゃない。
「そう、じゃあ帰ろっか。こーちゃんのお母さんがおいしいご飯作って待ってるはずだよ!」
ヒカリの天真爛漫な笑顔に雑然とした気持ちが振り払われる。正直、吸い込まれそうだ。ああ、そうだ俺は昔からこの笑顔に弱いんだ。何をされても許してしまいそうな、癒しの表情。
精神的に疲れたせいか今はなんだか心にくる。もう少し見ていたいと思ったが、ヒカリに怪しまれる前にすぐに立ち上がることにした。
「おいしいご飯……か。どうだろうな。昨日の分で今月の食費が全てとんだかも」



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