小さなヒカリの物語

あがごん

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昔よくこの家に遊びに来た幼馴染の姿を見て、母さんの顔の目じりにしわが入る。
「ヒカリちゃんね!? 話は聞いてるわよ。ささっ、あがってあがって」
母さんは右手に持ったおたまで家に入ることを勧める。うん、間違ってはない。客人をもてなす対応としては及第点。だけど、俺としてはどうしても腑に落ちない点がある。
「話は聞いてるって、俺はそんなこと一つも聞いてないぞ。知ってたなら何で前もって教えてくれなかったんだよ。この町にヒカリが戻ってくること!」
「あら、言ってなかったかしら?」
母さんは俺の言葉など意に介さない感じでヒカリを家に上がらせ、俺のほうさえ見ない。
「とぼけんな。わざとだろ!」
少し語調を強めて言った。が、それも母さんには意味がなかった。前もって言ってくれてたらいろいろ準備とか出来てたのに、と思う。まぁ、こんなことはしょっちゅうなので怒るのを通り過ぎてただ呆れた。ヒカリが大丈夫?と不安げに顔を近づけてきたので、とりあえず二階の自室に連れることにした。十五段ある階段の上を先頭に立って部屋へとエスコートしていると、
「ご飯が出来たら呼ぶからねー」
と下から聞こえてきたので、お祝い好きの母さんのことだからパーティーでもするんだろうかと期待半分にそこそこ明るく返事をした。
部屋に変な毛とか落ちてないかざっと目を通す。落ちてないのを確認してヒカリを部屋に入れた。教科書の詰まった重たいかばんをどっかと降ろし、机に寄りかかりながら椅子に座った。
「結構変わったねー」
ヒカリはベッドに腰掛け、その弾力を利用して上へ下へ揺れ始めた。俺の部屋を新鮮そうに見渡している。目がぱちくりせわしない。
「へぇー」
と声帯を稼動させながらきょろきょろ。そんなに見られると不安になってくるんだが……変なものとか置いてないよな? ないよなないよな?と一応確認する。
「ん……ヒカリ?」
ある一点を見つめてベッドの揺れは収まったのでその視線の先を追うと、そこには今話題の人気アイドル霧島なぎさのポスター。何かと思ったが、なんだ。これは別に問題ないだろう。グラビアのポスターくらい誰でも持ってる……はず。
「やっぱりこーちゃんもこういうの興味あるんだねぇ」
ヒカリは意外にもポスターのことを話題に出した。俺がこういうの持ってるのが珍しいのだろうか。
「まぁ一応健全な男の子ですから」
言って、こういうことは自分で言うもんじゃないなと思った。自分で言うと健全じゃないように聞こえる。まぁ、そんなことよりも今は。
「なぁ、朝のことを確認してもいいか?」



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