異世界行ったら、出会う女性みんな俺を好きになるので収集つかなくなっている ~スケッチブックに想いをのせて 死神に恋した男の無双&ほのぼのハーレム~

ひだまりのねこ

年越しの神事


 イリゼスにある神殿本庁。

 巨大な山地すべてが女神教の聖地であり中心地。聖女、教皇を始めとする高位神官たちが暮らす場所。

 女神教はこの世界において、ほとんどの国と地域で信仰されている最大の宗教団体、いや、宗教というよりも、文化や価値観、摂理と密接に結びついていて、もはや生活の一部といった方が適切だろう。

 
 そんなイリゼスの街には、現在年越しの神事に合わせて世界中から人々が集まってきている。

 すでに宿は満員、多くの旅行客は屋外で夜を明かすことになるが、そこは聖地、無料開放された温泉施設や、簡易休憩場所などが数多く設けられており、また、イリゼスは女神の加護によって、この時期雨も降らないので、大きな問題とはならないのだ。

 年越しを挟んだ二週間、イリゼスは昼夜を問わずお祭りムードに湧き、商機に敏い商人たちもこの時期に合わせてこの街へ集まるのがもはや恒例となっている。


 
「……それにしてもすごい人ですね、タマモさま」

 ぴょこぴょこせわしなくキツネ耳を動かす若い神官。

「……そうね。今年は災厄のせいで年越しの神事が中止になったから、余計にね」

 タマモと呼ばれた美しい神官は九本の尾を優雅に振りながら祭りに沸くイリゼスの大通りをすすむ。

 道行く人々は、そのあまりの美しさと妖艶さに意識を持って行かれ、あちらこちらで衝突事故が同時多発する。

「……それにしても、本庁に来るの何年振りかしら……ふふふ、楽しみで仕方がないわ」

「タマモさまは、本庁へ来たことがあるのですか?」

「ええ、もう50年以上昔の話よ」

「ご、五十年!? え? タマモさまっておいくつ……むぐぐぐ……!?」

「あら、フォクシー、女性に年を聞くなんて……お仕置きが必要かしら?」

「も、申し訳ございません~っ!!」



「あら? タマモさまじゃないですか。お久しぶりです」

 本庁へやってきたタマモたちを出迎えたのは、クール系の神官。以前、カケルを聖女アリエスのところへ案内した女性だ。

「あらあら、ミランダじゃない!! ずいぶん立派になって。前回会った時は新人神官だったのに……」

 ミランダと呼ばれたクール系神官をみて目を細めるタマモ。

 ミランダが纏う装束は、高位神官の中でも、特別なもの。聖女の側に仕える神官にのみ許されるものだ。

「まあ、あれから五十年も真面目に勤めてきましたからね……」

 そう言って遠い目をするミランダ。

「え? ミランダさんも!? いったい何歳なんで……むぐぐぐ!?」

「……タマモさま、この子狐、永遠に黙らせても?」

「ごめんなさいねミランダ。一応この子がいないと私が困るのよ」

 極めて消極的な理由で一命をとりとめたフォクシー。気をつけろ、ここは魔境だ。 


「ところで、『九尾のタマモ』がわざわざ本庁までいらっしゃるなんて、どういった風の吹き回しですか?」

 タマモは本庁のわずらわしい人間関係を嫌って山奥の神殿に引きこもっているだけで、実力だけなら教皇を凌ぐ能力を持つ名の知られた高位の神官だ。その齢は一説によると数百とも千に近いのではなどと噂されているが、真実は闇の中。 

「きゃあああ!! なんですかそのカッコイイ二つ名!! タマモさますごい!!」

 大はしゃぎのフォクシー。立ち直りの早さがとりえだ。

「……昔の話よ。何で来たかって? もちろん玉の輿狙いに決まっているじゃない」

 それを聞いたミランダの目の色が変わる。

「……やはりそうでしたか。これは手強いライバルが出現しましたね」

「ふえっ!? 玉の輿? ライバル? 何のことですか?」

 一向に話が見えないフォクシー。

「ふふふ、貴女は真面目にお勤めをしていれば良いのよフォクシー」
「そうですね、お子さまはオセチ料理でも食べていれば良いのです。美味しいのですよ?」

「ふわあっ!! オセチ料理!! 聞いたことあります。異世界のお料理なんですよね? 楽しみなのです!!」

 オセチ料理にすっかり魅了されるフォクシー。玉の輿のことなどすっかり忘れて上機嫌。


「それにしてもミランダ、いくらなんでも多すぎない?」

 本庁は広大だが、明らかに異常な数の神官が集まっている。しかも多くは見目麗しい女性神官ばかり。


「……実は、玉の輿枠が大幅に増えまして、普通なら諦めるものたちも参戦しているのです。そのせいで、中央の男性神官が地方に緊急派遣されているのですよ。ふふふ」

「枠の増員!? 聞いてないわよ? でも……まあいいわ。増える分には構わないし」

 はるか遠方から旅してきたタマモには条件変更の知らせは行き違いとなった。
   

 玉の輿、それは聖女に配偶者が現れた時に限り、特例で認められる神官の婚姻制度。

 神官や聖女は、基本的に生涯独身が原則だが、異世界の勇者もしくは異世界人の英雄に限っては許されている。その場合、退職することなく神官として働けるので、非常に人気が高いのである。


「あれ~? ミランダさん、何してるんですか~? うわっ!! モフモフの尻尾触っても良いですか?」

 小走りで駆け寄ってきたのは、小柄な可愛い系の神官ちゃん。カケルや美琴たちに頭を撫でられてあわあわしていた神官である。

「……駄目よ。ミランダ、まさか、この子も参加するの?」

「ええ、こんなんでも、人気は高いんですよね。カケルさまにも可愛がられていましたし……」

「ふえっ!? こんなんは酷いですよ~!! そ、それに、あ、頭撫でてもらっただけですからっ!!」

 顔を真っ赤にしてぷりぷり怒り出す可愛い系神官ミコル。

「くっ……たしかに可愛いわね。今なら貴女しか見ていないし、消しても良いかしら?」

「タマモさま……駄目に決まっているでしょう? 女神さまが見てますよ」

 ミランダに諭されて渋々ミコルの消去を諦めるタマモ。


「ミランダ……そういえば、ずいぶんと余裕じゃない? なにか勝算でもあるのかしら?」

「ふふふ、私とカケルさまはすでに婚約者のようなものですから!!」

 バランスの良い胸をはるミランダ。

「ふふふ、それなら私なんて、カケルさまとあんなことやこんなこともしたんですから……」

 その豊満なはちきれんばかりの胸をはるタマモ。

「へ? タマモさまってば、カケルさまと面識が……きゃああ!? なんて破廉恥な!!」

 読心のスキルを持ったミランダが赤面する。

「ふふふふ……」
「ぐぬぬぬ……」


「……ねえ、子狐ちゃん。なんかお姉さんたち怖いね、尻尾モフっても良い?」

 興味深そうに屋台を眺めるフォクシーに話しかけるミコル。

「ふえっ!? あ、あれを食べさせてくれたら良いですよ!! あと子狐ちゃんじゃなくて、フォクシーなのですよ!!」



 年越しの神事に合わせて執り行われる玉の輿の儀。

 果たして誰がその幸運を得られるのか。それは神のみぞ知る。



『……え? どうせ全員じゃないの?』

 神界で少し早めのオセチを食べる女神イリゼさま。もちろんカケルのお手製だ。

『……さすがに全員は無い』

 少し遅めのチキンとケーキを黙々と食べる死神ミコト。 

「あの……俺の意志とかは?」

『『それは最初から無い』』

「……ですよね~ははは。それじゃあ、みんな、今年もお疲れさまでした。来年もよろしくな!!」

『『カケル……誰に向かって言っている?』』

「……さあ?」

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